死神アリスの冒険記_その6
「ここで開けましょう。中身を確認させてもらいます!」
この場に三人。変なことでも起きなければ大丈夫。
ちっぽけな勇気を振り絞ったアリスが段ボールを開封した。
すると、赤い頭巾を被った金髪の女の子のお人形が入っていた。
「これはーなんだろうねー」
「人形」
「それはみたらわかるー」
レーラとメアが感心を寄せるなか、アリスは頭の中でモヤモヤし始めた。
どう見ても、そのお人形さんは噂らしきもの。
「――尊敬されてましたお方の死体って、どこにあります?」
思ったまま口走ってしまった。
「えっとー。アリスさんー?」
「ここから先は配達員がやる仕事ではないのはわかってます、ですが」
「どれのこと? レーラにはさっぱりー」
「あの、すみません。ちょっと理解不能なのですけど」
二人から冷たい視線が送られてくる。
「そのお人形さんは、噂です。そして、アリスは恥ずかしながら死神です」
「死神って、あの噂の……?」
「死神ですか……? すごーい。流石はクズモさんが見込んだだけの才能があったのねー」
褒め称えるレーラと、戸惑いを隠せていないメア。
ここ銀の聖堂は死者の魂を安らかに天へ届ける土地のひとつだから、この反応自体仕方ない部分があるかもだけど……。
このお人形に魂を移せば、息は吹き返すことはなくとも会話することくらいは出来るようになるかもしれない。
そうなれば、悲しむメアの顔に微笑みが必ず戻ってきそうだから。
「亡き者は死後四十九時間肉体に留まったままでいるし、もしかしたら魂の移し替えとか間に合うかもでして」
……アドリブで死神ルール話しちゃったよ!
もう、この世界が無茶苦茶になってもおかしくない……。
ゾンビがいる時点で狂っていたかも。
「確かにそう……なのででしょけど、あの方が望んでおられるのでしょうか?」
「そのことは大丈夫です! アリスが望んでいるので!」
宛先の書かれた紙をメアに差し出した。
「ここに本人の直筆のサインが欲しいのです。これ実は、アリスのはじめてのお仕事なので!」
せっかくだし、無茶ぶりがしたい。
「宛先に当人様のサイン……」
もはや意味がわからないと思われても、仕方ないことだった。
「ふふ、わかりました。尊敬するお方が眠る棺桶に案内します」
メアが微笑むと、アリスの腕を掴む。
「えっと、良いのですか……?」
「別に構いません。どうせ明日埋葬してしまうなら、最後の悪あがきに付き合っても大丈夫かと思いまして」
「ありがとうございます!」
感謝しかできない。
配達した証として、本人にサインをもらうために。
「そこの台座、引き出しになっていて死体を収納しているのです」
メアが台に手をかけると、ゴロゴロ〜。
そんなところに収納スペースがあるなんて……。
「ご、ご無沙汰していまーす……」
配達初日から、眠りし者と顔を合わせることになってごめんなさい。
しかも魂の移し替えをするのだから、やってることは死霊使い。ただ不安要素があるとしたら、死神なのに死霊使いっぽいことをしなければならないことだ。
「アリスさんの魔法ー? レーラ、楽しみ!」
目を奪うつもりはないけれど、何かと期待しているレーラ。魂の移し替えって地味に見えちゃうからあまり感心寄せられても困るんだけど……。
とにかく、魔法を使ってあげないと。
死霊使いが魂の移し替えが出来るのは、死後四十九時間以内。
「朽ち果てたその身よ、いまここに自我を持ちたまえ」
――黒色の魔方陣を死者の体に展開すると、アリスの手先から死神の力を注ぎ込んだ。
ある意味、貴重な検証をしていると思ったら大丈夫そうだ。
ここで出来るのなら、死神の噂が一切途絶えていないということになる。
しばらくすると、ピクッと一瞬だけ動く。
「……!」
「成功です。続けて魂を人形に移しますよ」
メアは驚いていた。まさか死体が動くだなんて想定してなかったようだ。
だが、死者は息をしている状態ではない。
アリスが使った魔法は死者をゾンビ体に書き換えるだけのもの。ゾンビ体になれば、意志がない状態で肉体だけが活発に動くようになる。
それでも、いまアリスの目の前にある死体は相当元気がない状態である。
元気がないと、死霊使いが死体を操るのに必要な魔力エネルギー量が多くなってしまい、意のままに操れないことが多くなる。
今回は無縁だけど、そんな感じかな。
二人に軽く口頭でそう伝えると、興味があったのか知らないけど、何度も頷いていた。
「さあて、お人形さんにさっさと魂を移動させちゃいます」
アリスは両目を閉じて、語りかける。
死者の魂は目の前にある。
魂に語りかけて、人形に入るよう微小の魔法で誘導する。
……上手くいってくれるかな。
実はここが一番の鬼門。
魂が望まなければ、魂の移し替えが行えない。
魂は生命体の意志もある。
魂が成仏を全面的に望むなら、魂は天にのぼって魂の移し替えが成功しない。
……どうなんだろう。
正直なところ、無反応すぎてよくわかんない。
それにしても綺麗なピンク色の髪だこと。あと思ったより小柄で、弱々しい。
もし彼女が生きてれば、愛らしさもあったかも――。




