死神アリスの冒険記_その5
「はい。アリス、配達してきます!」
「まだこのあたりの土地勘に慣れないでしょ! 迷子になっちゃったら困るだろうから、レーラもついて行くねー」
「レーラさん、ありがとうございます」
初仕事に同伴者がいるだけでも、なんとなく頼もしい。
まずはひとつ。この目でちゃんとみて、感じて、業務内容を覚えないとね。
「そうそう、言い忘れるところだった。今回の荷物は徒歩で運んで」
クズモからの忠告が飛んでくる。
「もしかしたら割れものとか入ってそう、な……」
うっかり口に出したら、アリスの両手が震え出そうとしていた。
「そこは大丈夫だ。すぐ壊れるものは入ってないから、困ったら深呼吸をしろ」
「わ、わかってます!」
「レーラも深呼吸するー」
レーラが勢いよく吸い込むと、ぐおーっ。
常闇のなかに吸い込まれいく鈍い音が、部屋中に響き渡った。
一瞬、キョトンとするクズモ。アリスにも理解不能だった。
「……? いま何か吸いませんでしたか?」
「レーラはなんともないよー」
「配達する荷物とかに、影響とかあったりしないかな」
「アリスさん、それはないかと思います。段ボールに魔力を遠さない特殊な細工がしてありますので、段ボール自体に大穴が空かない限り魔法に対しての影響は出ないはずだ」
「なるほどです」
「レーラも、それ初耳ですー」
「レーラさんって単にどこかテキトーに聞き流しているイメージありますよ?」
「クズモさんの意地悪がー。でもレーラ、否定できないよー」
「自覚あったのね……」
優しい顔をするクズモは、レーラに近付いた。
「ううっ……」
「よしよし」
右腕を伸ばしたクズモは、おでこをなでなでする。
「よし、それじゃあ配達行ってこい」
「はい! 行ってきます!」
「レーラも、ちゃんとついていく……」
「行ってらっしゃい」
見送りの言葉を発したクズモは、右手を振っていた。
行き先の確認を頭の中で整頓しとかないとね。こんがらがったら大変だ。
「それで。……宛先は、北東の方角にあるー」
レーラは郵便局に向かって指をさす。
「迷子になった時のためにですか?」
「それもある。もうひとつは、今日からしばらく滞在する、アリスさんの住まいになるからー」
「そうだね……」
張り切りすぎには注意だけど、期待には応えなくては……。
「二階に小部屋があるからそこ使ってーって」
「この配達が終わったら見てみます。まずは配達です!」
「そうそうー。行こー」
レーラはアリスを道案内する。
行き先は、当然。
「ここが銀の聖堂だよー」
思ったより近かった。
郵便局から徒歩五分くらいといったところだ。
「失礼します、郵便物がありますのでこちらにサインを――」
入り口のドアにノックをして、開けてみた。
すると、ひとりの少女が背を向けて椅子に座っていた。
「貴方はお呼びでない」
「えっ?」
早速だけど、なんか否定された……。
アリス、何か悪いことでもした?
「帰って」
「えっと、郵便物にサインを……」
「サイン?」
少女は立ち上がって、こちらのほうに振り向いてきた。
すると、肩までかかってる少女の赤い髪がふわっと揺れる。
「ゆ、郵便……」
「これは――失礼しました。人違いです、大変申し訳ありません」
礼儀正しい謝罪をする少女は、頭を大きく下げた。
「いえいえ、おきになさらず。大切な郵便物があって、こ
ちらにサインをお願いしにきただけですので……」
「大切な郵便物……?」
「そうです。宛先はですね」
アリスは名前を読み上げた。すると、少女はうんうんと何度か頷いてから、くるっと身体の向きを変えてそっぽを向いてしまった。
向いた方向にあるもの、それは聖堂の奥にある台座だ。
台座の上には白いグランドピアノが設置されており、背後にある八枚羽の天使のイラストがこちらを見守っているように見えていた。
「わたしはメアです。宛先に書いてある者とは違いますが、そのお方はわたしが尊敬するでした。ですが、先日お亡くなりなられまして」
か弱い少女の声が急に震えだす。
「そうですか……」
送り先の者が亡くなった、ね――。
って先日っていつのタイミング? どんな時?
そこまで考える必要はないけれど、やっぱり気になってしまう。
「それで、その……尊敬するお方に向けての郵便物ってどんなもので?」
「はい……?」
どういうこと?
アリスはポカンと口が開いていた。
「つまり、何も聞かされていないのねー」
そこにレーラが口を挟む。
「そうです。もしわたしが代わりにその荷物を受け取っても大丈夫でしたら、いまからそこで開けてほしいのです」
「今から開けちゃうー?」
「そうしたいのですが、ひとりで確認するのが怖いのです」
「ねぇ、アリスさんならどうするー」
「うーん」
とりあえず配達先は間違ってないけど、どうすれば。
一旦、郵便局に戻る?
いやいや、そんなことしたらクズモに笑われるかもしれない。




