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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅱ 幸福のピアノ
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死神アリスの冒険記_その2


「まずこの体で、なんで逃げている立場になっているのか……」


 崩壊カルマで未来に流れて、眷属を見失って。


 やれることはひとつか。


 レジスタンスに向かって、敵と味方をはっきりさせる。


 眷属はあるいみ平和的な脳の持ち主だから、争いが勃発している世界なんて認めたくないというワガママを言うだろうな。


 と、なれば噂の保護も必要だ。


 奴の力も、必要になるかもだし。あのピアノが無事であればだが……。


「ふん。捨て駒はやはり使えぬな」


「うん――?」


 アリスは足を止める。


 進行方向に誰かがいる。


 声からして、さっきのフードの者とは別人であることは間違いない。


「おいで、アリス。貴方の居場所はこっちよ」


「る、るーら……」


 身体が震えだすアリスは、彼女と目を合わせた。


 早くこの場から離れなきゃ駄目だ。


 頭の中で分かっているつもりなのだが、手足が思うように動かない。


「そうそう、アリス様は何に興味をお持ちでいるのかな?」


 ゆったりと近付いてくるルーラという女性は、左手に透明の宝石を握っていた。


 それが近付いてくるにつれて、アリスの瞳は悲鳴をあげていった。


 ――何だろう。とても痛い。


 思わす両手で瞳を隠したのだが、瞳の内部から痛みが増大していく。


 これは流石に無理だ。


 アリス、ダメになっちゃう……。


 この逃げられない恐怖に晒され続けて数分後、アリスの意識は遠のいていった。


 ――それから気がつくと、アリスは部屋の中にいた。


 手足の感覚は残っている。しかし、目元に包帯を巻かれているようで周囲の状況ががまったく掴めない。


 レジスタンスにすらたどり着けないって、どういう理不尽なんだよ。


 それでも毎回、はっきりとわかる声があった。


 ルーラの声である。


 絶望の声だ。アリスはルーラの声を一切聞きたくなかった。


 心の中から思っていたとしても、ルーラの手からは逃れられない。


 容易く助けを呼ぶ声を出すことも出来ず、アリスの身体は恐怖と孤独に怯えていく。


 何時間ではなく、何日も、何十日もだった。


 ただひたすら、耐えるしかなかった。


 ルーラはひとたび部屋に来ると、アリスに対して何か魔法を使っているような感覚を与えてくる難敵。


 時に激痛、時には快楽。またある時には、憎しみをぶつけられた。


 ただ理解できることといったら、アリスはまるで人形のようにハチャメチャにされているということ。


 こんなことを何度も繰り返されるとなると、アリスが王様呼ばわりされていたということも、何もかも信じられなくなった。


 そこに、アリスのお父様とみられる顔が、脳内に横切る。


 いまの状況を把握しているのか、不安で仕方ない。


 そもそも、アリスが最初にすべき行動は、レジスタンスの組織と接触するではないとすると?


 やることはひとつに決まっている。


 ルーラの追放――。


 これで大きな問題は解決するだろう。


 その前に、どうしたらルーラの手から逃げれるかを考えないといけない。


 そんなある日。


 コン、コン。がちゃり――。


 誰かが部屋に入ってきた。本日のルーラはさっき帰るっていってたし、これはもしや。


「も、申し訳ございません……!」


 救援者か何かかな。


 アリスに対して詫びを入れる、若い女性の声が聞こえてきた。


「アリス様を、もう離したくないほどです!」


 彼女は私の身体を抱きしめると、号泣していた。


 アリスのほうが泣きたいくらいの仕打ちを受けていたというのに。


 先に泣かれては、こっちが慰める側になってしまいそうだ。


「もう大丈夫だ。いままで家事育児を任せっきりにしてたのを猛反省している」


「…………。そうなの?」


「アリス、喋れるようになったのか。それはよかった。ささ、そのもどかしい魔力に帯びた包帯をさっさと外してあげないとな」


「そうね。アリス、ごめんね」


「……?」


 アリスの髪に女性の手が掛かると、目元に撒かれていた包帯が外された。


 そうすると、一瞬だけ強い光が瞳に襲い掛かる。


 でも、すぐに慣れた。


 周囲を見渡すと、窓とベッド以外なにもない殺風景な部屋の作りになっていた。


「ここは……」


「あまり使われていないお城にある部屋のひとつだよ」


 男性がそう答える。


 結局のところ、あの城に連れ戻されてしまっていたというところだろう。


「ルーラさんを、あの人を追放してください」


 単刀直入に喋っていた。死神の力を使っても良いが、ここはレジスタンスという組織がある場所への時間稼ぎのほうが重要だと判断した。


 この人達も、よく見たら死んでいる存在――つまりゾンビだ。


 ルーラという奴の気配、思い出せないか。


 死神の力をあまり見くびるな。


 探せ。探して、掴んで。


 記憶から……ここだ。


 うあっ――。やっぱり。


 ルーラも同じ匂いがする。


 ルーラもゾンビだということは、共食いでも起きるのか?


 どのみち、この城からは早急に離れたいと思った。


 それにしても、このアリスという身体は妙だな。アリスもゾンビなのか。


 調べる方法は……調べるまでもないか。


 ルーラの使っていた制御魔法、あれは魔界のものだ。


 魔界で、下等種族に対しての命令信号のひとつとして用いられるもの。


 死神だから、その辺りの情報は普通に持っている。


 つまりアリスも、ゾンビだ。


 だったら、大胆に取れるアレもあるが……。


「追放って言ったけど、どうでも良くなった。共喰いになるなら、最初から別の手段使うべきだよね」


「何を言っているんだ、アリス……?」


「ここにいる皆は全員、ゾンビ。そしてアリスも」


「ここだけの話、アリスはゾンビではない。魔女の人形、という噂を知っているか?」


 なるほど。


 アリスの情報、やっと掴めた。


 魔女の人形。魔女で噂と言ったら笹倉家しかない。


「アリスは、笹倉コレクションのひとつ。遠い過去で消滅した噂を現世に引き寄せる藁人形」


 これが真実か。あの魔女め、もしかして仕込んでいた?


 未来を見据えて実行した可能性は否定できないが、現状問いかけることすらできない。



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