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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅱ 幸福のピアノ
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死神アリスの冒険記_その1

ここから暫く視点が変わります。

引き続き、楽しんでもらえると幸いです。


「随分と上層部が騒がしいのう……」


 噂に関する資料を両手で抱え、ひとり歩き回っているアリスは、不満を漏らしていた。


「おや、どうしたんだい?」


「花音よ、お前は連中から逃げてきたのか?」


「そうだよ。あれらはいま元気すぎるから、しばらく放っておいて大丈夫だろう」


 花音はその場で見上げた。


「噂を展示するって計画を成功させるために、必要なのだろ? 俺も、あの子達も」


「そうですけど、戦闘力をあげる必要性はまったくないのです……」


「別に好きにしたら良いのでは。それとも、誰かひとり以上にやきもきでも焼いた?」


「そういう意味では……」


「だったら何なのさ。俺だって、朝比奈をあんな目にあわせ続けるのは嫌だし、羽を伸ばして休んでほしいことだって思うときはあるというのに」


「それもそうね……」


 単に疲れを癒やしているだけ。無邪気な子供が三人くらい、遊んでいるだけ。


 そう思い込んだほうが、合理的。


 花音はきっと、アリスにそう伝えたいのだろう。


「いま我が出来ること、精一杯やっておかなくては」


 アリスは意気込む。


 我にとっての最終目標、噂の天井場所をオープンにすること。


 極力まっすぐ突き進めるよう、噂に関する情報に目を通してみた。


「ところでさぁ、死神ちゃん。アリスってどんな人生送っているの?」


「えっ。き、き、聞きたいの?」


「朝比奈が相手してくれないし、作業しながらでも僕は平気だから」


「……分かったわ」


 アリスはため息を漏らす。


「この身体は、都市部の一番大きな城に住んでいたお姫様のもので……」


 ――都市部には、学校が存在していました。


 奏宮王立学園。昔で例えるなら――奏宮高校の伝統と、噂を持ち続けている学校です。


 アリスと交わるのは、そこに行き着くまでの間です。


 崩壊カルマの噂の衝撃で我の魂は奈落の果てに飛ばされてるも、すぐさま自我を取り戻す。


 だが、時すでにおそし――。


 混沌とした世界。魔の地区、それが都市部。生きている人間は残っているのか、というぐらい酷いゾンビの多さ。たとえ夢であっても居心地はさぞ良くなかった。


 黒い太陽が大地を黒く照らす都市部では、エネルギー源がたくさん降ってきている。


 衣食住には困らないだろう。街を見渡す我はそう思った。


 そこに、ひとり棒立ちする少女は天に祈りを捧げている光景が入ってくる。


「生きている存在……あれなら……」


 と、近付いていった。少女のもとになんとなく弱い吸い寄せられていく感じがしたのもあった。


「ここは、鷹浜か?」


 ためしに声を掛けてみた。


「ううん、違う。私はアリスよ」


 顔を上げない少女は、鷹浜ということを否定するとともに、そう名乗った。


 優しい銀の髪を見る限り、我にとって悪い存在だと思えなかった。


「ここ、随分と閉鎖的な場所だと思うのだが……」


「私はそう思わない。ゾンビたちも、やたら私に優しくて、皆の幸せを願っている者が大半だと思っている」


「そうか、優しいのだな……」


「……何方か存じないですが、何かお困りですか?」


「我のことは気にしなくても」


「駄目です。貴方は、流星群からやって来た貴重なエネルギーの源……?」


 少女は首を大きく傾げた。直感は鋭いのかも知れない。


「エネルギー源じゃないとしたら、何なの?」


「我のことか、死神だよ」


「死神さん……」


 我が死神だと伝えると、少女が祈るのを止めた。


「どうした?」


「強大な力が必要なんです。どうにかして、ゾンビに安らぎを。生者に祝福を。貴方がもし神様というのならば、この世界に救済を与えてほしい……」


「残念だが、神をはき違えておる。要望に応えることは出来ぬ」


「そんなっ……。でも、諦めません」


「ほう、それはどんな手を使ってでも、ということか?」


「はい。どんな罪な手を使ってでも」


「うむ……」


 どうするか一瞬悩んだが、この世界の情報が足りてないのが大きいか。


 ここは流れを作っておいて、その場凌ぎで……。


「我は死神の噂。我の身体となりて、天命を全うせよ」


 ――と、言葉を吐いて少女の身体に入り込んだ。


 入り込んだというより、一体化したというのが正しいか。


 ありがとう。これで鍵がひとつ壊れた。


 深呼吸をするアリスの心は、安らぎを覚える。


 目の前には、美しい青の花畑がある。


「おや……?」


 近辺に、誰かが潜んでいる。


 死神の力を使って暴いても良いが、敵対関係をもたれても厄介になるだけだろうし。


「アリスは、一体化何者なんですか!」


 我のみが知らない問いかけを、してみた。


「クククっ。――アリスは、ここ都市部で暮らす王様だよ」


 黒いフードに身を包み込んでいる、小柄な体格の人が出てきた。


 長い黒髪は激しく揺れ動き、フードの奥から見えてくるのは、邪念。


「アリスに入り込んだ者に問いかける。貴様は何者だ?」


「我は死神。といっても、この世界の事情はひとつも知らんのでな」


 情報交換できる材料とかあればよかったのだが、こんなすぐに刺客がいると、用意できる者はなにもない。


 どうする……。


「ふーん……。半分信用するか」


「それじゃあ――」


「逃げる以外の選択肢は与えてやれんな。我が輩も生き残りだが、あの戦力に刃向かえる人間などいないのだ。地球はもう終わりだよ」


「……地球が、終わった?」


「そうだ。地球は、魔界から侵略者がやってきて滅びの運命を辿っている。魔の手に落ちた人間が殺されるところを目の当たりにしたんだよ。そしたら――」


「そしたら……」


「ゾンビとして生き返ったんだよ。あれが魔法か、あんなの見たら、誰も刃向かうことなんて出来なくなるさ。一部を除いてだ」


「いま西暦は?」


「うん? 一万二千四百二十○年だよ」


「なるほどです。で、魔界とやらに刃向かう集団の情報はありますでしょうか?」


「あれを……知りたいのか?」


「はい。ですから、教えてください」


 頭だって下げる。そうでもして、聞き出しておかないといけない気がした。


 流石に気持ち折れたのか。


「少しだけだぞ。あっちのほうに、レジスタンスという組織がある」


 と、教えてくれた。


 ありがとうございます。と伝えると、さっさとどっかいけ、みたいな仕草をされた。


 はい、とだけ伝えてその場を離れていく。


 離れていく背中には、大きな円形の建造物があったが、どうみても城っぽかった。


 アリスは、王様だといわれてしたし。


 推測すると、青い花畑は城にある庭園といったところだろう。



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