お茶会をしよう
「こーちゃん、到着するまでは退屈になっちゃうので、ここらでお茶会してみない?」
一番乗りにミモが提案してくる。
「小鳥ちゃんも一緒にということは、まるで昼食後のお喋りタイムみたいにですね……」
「う、うん……」
まさかと思うが、あらゆる噂話がここで飛び交うのか。
絵柄はいかにも可愛らしそうだが、カオスな内容を生み出してしまう危険性がある。
――どうしようか。まだ一曲演奏してたほうがよっぽど気が楽になりそうだけど。
「こーちゃん、どうしたの?」
「そうですね。小鳥ちゃんはその気ではないといいますか……」
じまじまと見られて、恥ずかしい。
馬鹿正直に打ち明けたほうが正解なのかな。
「朝比奈は嫌がってるでしょ?」
「花音くん……」
いつもふっと現れる花音が、私を庇ってくれる。
「それで、都市部に到着するまでの間、朝比奈がやりたいことはなんだい?」
今回はそうでもない――?
「その……いまは演奏したい気分かな……」
なんのためらいもなく、本音を言ってしまった。
ど、どうしよう……。
「こーちゃんはがそうしたいなら、あたしは協力する」
「わたしも手伝います!」
「二人とも……そうだね。でも、演奏したい楽曲すら思い浮かばなくて」
「こーちゃん、それをいまから探すのはどうかな?」
「いまからみつける……」
時間はたっぷりある。資料もたくさん眠っている。
それでも私は、手作業で楽譜制作をしたい。
「私はここで楽譜を書きたい……」
丁寧に掃除された、教会の居心地の良さ。
新たな楽譜を書き上げる場として、ふさわしいといえた。
「こーちゃんって楽譜書けるの? すごいねっ――!」
「褒め称えるものではないですけど……」
崩壊カルマの噂が発生した原因、どうみても私の手で書いてしまったことが大きな要因になっているから。
やっぱり、怖いのかも。
胸元に手を寄せてみると、無意識に手が震えているのを感じる。
「こーちゃんの手、うずうずして仕方ないんだね」
「違っ――」
そうじゃない。けど……。
嫌われ者になる勇気はどこにもない。
そう考えると、自然と手の震えはとまっていた。
「あたしもわくわくすること、あったら良かったのだけど」
「ミモさん……」
「こーちゃんと違って、あたしはずっと地球で埋葬を繰り返してきたから。そういうつくったりすることがあまりなくて、いつもざっくりで」
「ミモさん、楽しいことを今から探しても全然遅くないです。ところで夏実さんは、何をしているのですか?」
夏実はスケッチブックのようなもので、顔が隠れていた。
「これは単なるお絵かきです。本来は噂のアイデアをここにため込んで――」
夏実が魔女らしいことを急にやり始めていた。
でも妙だ。噂のアイデアをため込む。
……ということは、夏実さんはいままで。
「芸術で噂を生み出すなんて、魔女はズルいです!」
ミモは何故か、スケッチブックを取り上げようとしていた。
「動きが単調よ」
ひらりと身体を回転させ、ミモの突撃を華麗に避けていく。
「こーちゃん、このままではいけません。この魔女は、なにかとてつもないヤバいことを始めようとしています」
「うん、それはみればわかるね……」
いまの状態で突撃しても、同じように回避される確率が高すぎる。
そうならば、この手を使ってみるか。
「魔女との鬼ごっこ、受けて立つよ」
私は天使の羽を出していた。
「……っと、その前に。終わるまで、花音くんお願いね」
「朝比奈?」
本は花音に預けて、より動きやすい状態にした。
「あら、小鳥ちゃんが本気に……?」
天使の姿になったことで、だいぶ余裕がなくなった表情をみせてくるけど。
私は容赦しないつもり。
「小鳥ちゃんもその気なら、こちらだって」
夏実は拳銃を素早く構えて、距離を詰められないよう警戒しはじめた。
「む、これで五分五分ってところかな……」
「こーちゃんも魔女も本気になっている。あたしも本気出した方がよいの?」
「そのほうが助かる」
「わたし的には全然助かりませんけどっ!」
「そっか。じゃあ、この悪魔も相手になろうか」
ミモは漆黒の羽を出していた。一度みた時には気づかなかったが、悪魔らしい角が頭部に生えていることも確認出来た。
「ミモさんって、やっぱり悪魔なんですね……」
「こーちゃんこそ、お口が生意気な天使ですね」
「――というかわたしたち、空飛んでる最中になにやっているのですかねぇ?」
「これは全部夏実さんが悪い」
「小鳥ちゃん、酷すぎるよ……」
「まぁ、久しぶりの体育と思えば……」
どこが……? という顔をされてもお構いなし。
これがお茶会といえるのかどうかは、また別の話になりそうだ。




