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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅱ 幸福のピアノ
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空の冒険


「これで、空船が稼働する!」


 アリスはそわそわしていた。


「動きます、ふわああっ――」


 私はふらつかないよう周囲を見渡したが、支えられるものがなくて尻もちをついてしまった。


「この空船の原動力は、なんでしょうか?」


 石炭とか積んでいるわけではないが、ちゃんと浮かんでいる気がする。


 アリスに尋ねると、クスッと小さく笑った。


「これも噂のひとつです。――空飛ぶ海賊船の噂。噂はやっぱり、運命の方程式を軽々と揺るがしてしまう、重要なファクターのひとつだったのね」


 新しい噂が発掘されば、この世界で見える景色は変わり続ける。


 アリスはそう言いたいのだろうか。


 たとえそうであっても、根本的な問題の解決にはまだ至っていない。


 この手で掴める、証明が必要なのだ。


「私、戻ろうかな……」


 移動を始めたということし、ピアノのことが少し心配になっていた。


 掃除すると張り切っているらしい皆が、苦労してないと良いけど。


「ここに我が残るから、行っておいで」


「はいっ!」


 私はアリスに背を向けて、教会の一階へと向かう。


「――――に、しても。核となるゾンビドルイドの心臓は本当に長持ちするのか?」


 アリスはうっすらと、ひとりごとを口にしていた。


「……主さまも、頑張って」


 当人に聞こえないひとりごとを喋る私は、はしごに手を掛けていた。


 ここを登れば、教会の一階。


 しっかり寝ていたこともあって、体力はバッチリある。


 難なく登り切ると、皆が私を待っていた様子で。


「こーちゃん、床ごとピッカピカに磨き上げてしまいました」


 モップを持っていたミモは、とても笑顔で楽しそうな雰囲気だった。


 一方で、夏実はというと。


「小鳥ちゃん、疲れました……」


 くたくたになったのか、教会内にある長椅子の上で仰向けになっていた。


 ピアノもホコリひとつないピッカピカな状態だったので、おそらく夏実が頑張ったのだろう。


「遅くなってごめんなさい……」


 結局、今回は掃除当番を取られてしまった。


 花音は気にしないと言っていたけど、やはり他の方がするのには抵抗がある。


「今度からは、ひとりでちゃんとしますので……」


「そういうこと言わない」


「……そうですよ、小鳥ちゃん」


 二人とも近付いてきて、目線を無理矢理合わせようとしていた。


「ちょっと近いです」


「こーちゃん!」


「小鳥ちゃん!」


「二人して、どうしたの……!」


「教会がうごきだしたのだけど、どこに向かっているのかなって」


「あっ……」


 二人に事情を説明しないといけない。


 空飛ぶ船であることと、行き先は都市部であること。


「あと、夏実のお兄さんを探したい」


「ふーん、なるほど……」


 ミモにとって何か不都合でもあるのかもしれない。そう思うと、なかなかあっさり言える内容ではなかったけど。


「こーちゃんの好きなようにしたら良いと思う。現状、あたしたちが都市部へ向かうデメリットはないように思えるし、何よりも噂が隠れているので」


 やっぱりというか、都市部にも噂が隠れているということは――。


 その噂、まだ誰にも回収できていないことを意味する。


「それなら出来るだけ早く回収したいところですね!」


「そ、そうですね……お兄ちゃんのこと、心配ですし……」


「夏実さんも、お兄さん見つかると良いですね」


 そもそも転送させたのは、ミモなんだけど。


 流石に連れてくる魔法は持ち合わせていないっぽい。やや渋い顔つきで、頭を複数回下げているので、やっぱり夏実に対して何かしら詫びたい気持ちを持っているのかも。


「ところで、飛行時間はどれくらいあるのかな……」


 あまり飛行時間が長いと、雨風に煽られてしまったりしそう。


 現在地から都市部までの移動時間はおろか、距離すら掴めていない現実を突きつけられる。



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