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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅱ 幸福のピアノ
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交渉決裂


「ほう、天使ちゃん。――こんなところで迷子かい?」


 赤髪の青年は、煽っている。


 いかにも情けは無用という表情を思い浮かべて、一歩も引かない気でいた。


「迷子なんかではありません。この者たちほっといて回収作業を開始しますよ」


「おいおい。――先にここへ来た俺様に顔を合わせておいて、それはないでしょ?」


「知りません。こっちのほうだから行きましょう、ミモさん」


「えっ、はい――?」


「おおっ……それは困った、困った。……なわけあるかー。おめえぁら、ここに笑えねー神様の使いがいるっていうんだ! 上等だ! やれっ! 殺しちゃいな!」


 赤髪の青年は態度を変えると、周辺にうろついていたゾンビはこちらに振り向いてきた。


 でも、視線を動かしただけでピクリともに動かない。


「何故だ。何故動かない……」


「なんでだろうね」


「お前ら、何をしたんだ?」


「私は知りません」


 原因不明の拘束魔法の発動でもしたのかな?


 よくわからないけど、もがいている。

 赤髪の青年も動けないようだ。


「お兄ちゃん……」


 夏美がすぐ近くまで来ていた。


「夏実さんは教会で待っていてください、と言ったはずだけど……」


「後を追いかけてきました。小鳥ちゃんのことがやっぱり心配で、そしたら案の定」


「どうして、邪魔をする……!」


 赤髪の青年は怒り狂っていた。おそらくだが、夏美の拳銃で動きを止めてしまったのだろう。


 銃声こそ聞こえなかったが、この状況を乗り越える一手であることは間違いない。


「早く手足を自由にしなかったら、都市部から援軍を呼ぶぞ!」


「応援要請は知りません」


 私は構わず、ピアノが隠れているがれきの隙間に潜り込む。


 夏実はたぶん兄を見張っているから何処かに行ったりはしないだろう。それと、ミモが傍にいないことには運べないので、こちらが仕切って案内しないといけない。


「狭っ……」


「大丈夫かな。すぐにそこそこ広くなるから」


 少しの辛抱を超えると、私の言ったとおり。

 狭い隙間の先にピアノがあった。


「これが……ピアノ……」


 ミモは目を瞑ると、ピアノの表面に触れた。


「つまらない世界を奏でている。面白みのない生活を共生、共鳴しあって足を引っ張る」


「どういう意味です?」


「こーちゃんには小難しいかもしれない」


 ミモは、何かを感じ取った様子ではある。


「このピアノは、おおよぞ一万四百年前から何らかの手段で現世に運び込まれたもので間違いないよね?」


「うん……? そうだけど……」


「そっか。あたしは、こーちゃんにとって遙か先の未来人だったということか。未来人に接触して、何を企んでいるのかまでわからないけど」


「……なにも企んでいないというか、現状わからないことだらけなのが全てです。私がこの地に足をつけていることが大事であって、人が生まれたタイミングがどれだけ離れていようが気にしません」


「こーちゃん……」


「だからね。とにかくお外に運んで、教会に持って帰ろ?」


「ここからどうやって?」


「それは私も考えてませんでした!」


「なら、結局どうするの?」


「花音くん……。どうしたら良いかな……」


 駄目もとで尋ねてみる。


「僕を呼ぶとはね。まぁ、いつでもすぐ近くにいるけど」


「ピアノの主……花音というのですね」


「ミモと言ってたね。ようやく僕の姿がみえるのかい?」


「いいえ」


「そっか……。ザンネンダネー」


 テンションが激下がりした花音は、半ばゾンビみたいな体勢を取る。


「ところで花音くん、どうやってピアノを運び出したら良いですか?」


「ピアノを運ぶ? そんなの幸運を掴めば良いのじゃない」


「幸運を掴む……あっ、はい」


「あたしにはさっぱりだったけど、こーちゃんは理解できたの?」


「うん。このピアノはね、七回音色を聴くと幸せになって、九回聴くと……だから」


「この場で演奏ですか?」


「そうなるね。幸いにも鍵盤を押せるだけのスペースはあるし、明るさは……」


 少し薄暗いとは感じる者の、ところどころ光が差し込んでいることもあってか、演奏に大きな支障はないとみられる。


「楽曲は私が適当に演奏するとして……」


「こーちゃん。せっかくだから、現世にある楽譜を持ってきてもらうとはどうかな」

「楽譜を……誰に?」


「表にいるゾンビたちに、だよ」


 赤髪の青年が率いるゾンビの集団を、こき使おうということか。

 案としては、悪くないのかもしれない。



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