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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅱ 幸福のピアノ
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ピアノの回収をしよう


 早朝の日差しが差し込む前、私はもうすぐ観測するだろう。


 教会の一階に収納された、ゾンビの復活を――。



「うんにゃ…………。まだ夜中かな?」


 仰向けの状態で目を覚ました夏実は、まぶたをぱちぱちと動かす。


「おはようございます!」


「小鳥ちゃん、おはようございます。……って、身体のいたるところから妙な感覚がする」


 夏実は早速気づいていた。ふかふかの布団ではなく、棺桶に入って眠っていたことを。


「わたし、昨日はどうしたんだっけ……。よく手に取る読書本の内容が夢の中に出てきたりするわけないし」


「夏実さんは、ゾンビになったのです」


「ゾンビ?」


「うん……。夏実さんの頭、特に左の部分が見えちゃってますよ」


「見えてるって……ああ……」


 夏実は自らの手で頭部に触れた。


「うん……」


 白骨の骨に触れてる夏実の光景が、ちょっと悍ましい。


「これくらいなら、魔女の帽子で隠しちゃうとして……」


「これは、夏実さんに返します。大事な道具なので」


 私はすぐさま拳銃を差し出した。


 夏実の拳銃なんて、私が持っていても扱いきれないことはわかりきっているから早々に元の持ち主の手に取ってほしかった。


「ありがとう……。で、これからどうするの?」


「うーんと、まずはここにピアノを運び込もうと思います」


 私は教会の外に出ようとした。


 教会の扉付近には、欠伸をするミモが待っている。


「えっと、小鳥ちゃんはどっかいっちゃうの?」


「大丈夫、すぐ戻ってくるから。夏実はここで待っていて」


「でも……そうしたら……。ゾンビがまた……」


「大丈夫だから。心配しないで!」


 私は戸惑う夏実を背に向けて、外へと出て行く。


 たとえゾンビという姿に変わってしまったとはいえ、夏実が動いたのでひと安心して行動に移せそうだ。


「花音くんもちゃんといる?」


「はいはい。朝比奈の傍にいつもいるよ」


 これからやることは、ピアノの回収及び教会に運び込むこと。


 ピアノは生きている者でしか運ぶことが出来ない為、ミモの協力が必須である。


「それにしても現世に黒いピアノですか。楽器自体、とても貴重な骨董品という噂しかありませんでしたが……もしお見えになれるなら世紀の大発見ですよ」


「そ、そうなんだ……」


 そこまで貴重なモノになっているのは、ちょっと想定外だ。


 私がいた西暦から一万年は過ぎているから、文明が変わり果てていたとしてもおかしくない。


「お喋りはこの辺にして」


「そうだね、こーちゃん!」


 これといった寄り道はせず、まっすぐ行くことにする。


 幸か不幸か、道中にゾンビとの遭遇はしなかった。


 だが、ピアノのある地点まで近づくと。


「このあたりだな。奇妙な気配をした何かが潜んでいるぞ」


 いかにもゾンビっぽい赤髪の青年が、複数の下っ端ゾンビを連れて周囲の散策をしていた。


「ピアノ……。あそこにあるけど、どうしましょうか……」


「うーんと、ひとまず近付くしかないかな。こーちゃんはなるべく近付かないで」


 ミモはそう言うと、ひとり近付いていった。


「うん、なんだお前は?」


「あたしは墓守です。違和感は墓守が沈めますので、この場はお引き取りください」


「ふうん、お前が鷹浜地区に身を隠す墓守か。噂には聞いていたが、とんだガキンチョだったのか」


「その顔つき……。馬鹿を言わないで貰えませんか。ここは貴方が育った居場所でしょうに」


「ちっ、死者のことはなんでもお見通しってか。笑えないな」


「もう一度言います。違和感は墓守が沈めますので、どうぞお引き取りください」


「それは駄目だ。この違和感は俺様が解決してみせる」


 赤髪の青年は、胸元から筒状の楽器を取り出した。


「このリコーダーが目に見えぬか?」


「はて、なんのことでしょうか……」


「生意気な口をしやがって。これは、神様の力を宿したリコーダーとも呼ばれ、異変をあるべき姿に変化させることの出来る極めて優れた楽器なのだよ」


「優れた楽器……?」


「そうだよ。お前より、遙かに優れた楽器だよ!」


 赤髪の青年の声が、どなり散らかし気味になってきた。


 どうしようか。もう私が止めに入ろうかな。


 あの楽器、どうみても笹倉コレクションのひとつだし……。


 あの顔にも見覚えがとてもある。


 夏実の兄さんで間違いない。


 ……ちょっと待って。


 笹倉の兄妹揃ってゾンビになっているって、少し想定外すぎる。


「はぁ……」


 ため息をつきながら、私は前に出た。


「すみません。ここに神様の使いがいるので、そこをどいてもらえませんか?」


「神様の使い? そんなもの何処にいるんだ?」


「私です」


 天使の羽を出して、証明する。


 少し怖かったけれど、花音とミモが見守ってくれそうだから。


 交渉ごとを頑張ってみようと思う。



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