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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅰ 出会い
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今夜はゆっくり

あけましておめでとうございます。

今年も何卒よろしくお願い致します。


「すっかり日が暮れてしまいましたので、今夜はゆっくりしていってください。旅の者を厚遇するのも墓守の役目ですから」


「はい、そうします」


 埋葬する行為で、割と時間を取られちゃった……。


 ミモの手伝いをしていたら、教会の二階にある部屋でひと晩過ごすことになった。

 夏実の埋葬は仕方ないとはいえ、考えれば考えるほど胸が痛くなる。


 この背中から生えている天使の力、ゾンビに通用するのかな……。

 わからないけど、仮にファンタジーとかである神聖な効果が適用されるのなら、今後誰かの助けになるのかもしれないけど自信がない。


 俯き気味になる私は、とことん気が落ち込む。


 キッチンコンロがあるので、多少のぬくもりはあった。


 ぐつぐつ、ぐつぐつ。


 手をいっぱいに広げたミモは、薬草らしくものを投入する。


 お鍋の中が気になって仕方ない。


「もうすぐ出来ますけど……。こーちゃん、天使だったの?」


「えっ、あっ……はい?」


 天使の羽を出してるところ見られちゃった。


 どうしよう。とりあえず花音からは、機嫌を損ねないでとだけ言われているし……。


「こーちゃんはすごいの持っていたのね。うらやましいくらいです」


「どういうことです?」


「天使はね、神様が残した子孫と言われていて、暴走したゾンビを使役させれる神秘な力を備えていると噂があるの」


「暴走したゾンビを、使役……」


「あくまで伝承として古文に残されているからよくわかっていないけど、すごいのは確かなの」


「そ、そうなんだね」


 思わぬ形で褒め称えられてしまった。

 これなら特に気にしなくても、ミモの機嫌は損ねないだろう。


「ふふふ、晩ごはんが出来ました」


 ミモは直接、鍋をこちらに持ってくる。


 もしや、皿分けをしないつもりなのか……?


 食器棚に小皿系がほぼなかったので、この教会には墓守がひとり暮らしているだけなのかもしれない。


 まぁ、冷めないうちにスプーンを使った召し上がろう。


「いただきます」


 ごくっ。温かな薬草のスープが、私の喉を潤していった。


「ところで、こーちゃんはどうしてこの地に降りたの?」


「この地に降りたというよりかは、気づいたらこの世界にいたって感じです。野生という概念が存在していないと口にされていたけれど、それは、どういった意味ですかね……」


「あたしも説明が難しいのですが、ある日を境に死んだ生物がすべてゾンビになってしまい、自然界の生態が壊れてしまいました。ゾンビは生きている存在を喰らいついて増え続け、生きている存在は自然の環境で生きれなくなってしまった。養殖自体は可能なのですが、貧しい地域は特に厳しくて、ゾンビ化が進行してしまった場所が多くあります」


「要するに……ぜんぶゾンビになってしまった、ということですね」


「そうです。こーちゃんの理解が早いのは天使だからでしょうか……」


「そんなことない……」


 私は首を横に振る。

 もしわからないことがあれば、すぐ傍にいる花音が考察してくれるので、想像しやすいだけ。


 そして、花音が考察しきれないことは聞き出さないといけない。


「質問ひとつします。墓守は、生きている存在に該当するのですか?」


 ズバッと入ってしまったようにも思えるが、食事を続けるミモは何度か縦に頷いた。


「墓守は生きている存在に該当します。正確には、生者ですね。かつて神様が……」


「それならよかった。少しお願いがありまして」


「お願いですか?」


「はい。この近くにピアノがあるのですが、明日一緒に運んでもらえないでしょうか。場所はひとまずこの教会の一階で大丈夫です。生きている存在……生者にしか運ぶ事ができないものらしく、しかも大きめだから二人がかりじゃないと厳しいかなと」


「それは大変そうですね、わかりました。設置場所の手配と運ぶお手伝いくらいは、あたしでも出来ますよ」


「ありがとうございます……!」


 私は頭を下げる。花音のお願いを聞き入れてもらえた。


「よかった、これでまたピアノの掃除当番を再開出来るね」


「花音くん……もしかしてそれが狙いだったの……?」


「それもあるけど、そもそもあのピアノからそう遠くに離れることが出来ないんだよ。僕が」


「あっ、なるほどっ」


 そういうことなのか……。

 花音の身体事情を察してあげられなかった私が、少し恥ずかしい。



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