最果ての鷹浜
とにかく、情報収集をしよう。
まずはすぐ近くの……。
ショベルで土を掘ることに没頭する、ピンクのドレスを着た金髪の女の子に聞いてみるか。
「すみません。ここはどこですか?」
「うん? みかけない顔だね。ここは鷹浜地区の三丁目付近かなぁー」
鷹浜地区……。
鷹浜町というところに奏宮高校があるから、非常に似た場所であることは間違いない。
いや、別の場所と想定すると、やや違和感が残りそう。私の頭に電撃が走る。
「いま西暦は何年でしたっけ……」
「今はね、令灸五百八十五年だね。西暦換算だと……一万二千四百二十一年になるよ」
「一万……」
私は、目を細める。
奏宮高校は既に滅んでいて当然かもしれない、という年月が過ぎ去ったというのか。
つまり私は、遙か未来にいることに。
「あ、ありがとうございます……」
「お姉さん、どうしたの?」
手を止めて心配してくれている女の子には申し訳ないが、詳しく事情を説明することはできなさそうだ。
「ここで何をしてるの?」
「あたし、ミモ。墓守をやっているの」
「墓守……」
「墓守はね、死者を埋葬するのがお仕事なの。ふふふっ」
私のことをお構いなく、地面の掘り起こし作業を再開する。
ミモの見た目からすると、十二歳くらいのお年頃な娘といったところだ。ミモの笑顔は愛くるしい仕草のひとつに過ぎず、悲しい顔をすれば誰かが必ず気を遣ってくれる。
でも、ショベルで穴を深く掘りさげていく様子は、大人顔負けなくらいに勇敢ではある。
そして、あのショベル……。
花音が屋上でもっていたショベルに似ている。
「ミモさんって、苗字とかあるの?」
「うん。笹倉三萌って書くの」
ショベルの先端を巧みに扱うミモは、器用に漢字を書いてきた。
やはりショベルは、笹倉コレクションで間違いないのかな。
仮にあったとことで、役に立つシーンがあるかと言われたら……。
「この周辺どうなってるか、教えてもらえると嬉しいけど、難しいかな?」
「案内かぁー。それなら、あと、もうちょっとだけ穴掘り……げふっ……」
「ミモさん、大丈夫?」
「うん。ちょっと土ぼこりが口に入っただけだよ」
全然平気そうな顔をするミモは、手の動きを休めたりしない。
「そういえば、お姉さんにも名前ってあるの?」
「はい。私、朝比奈小鳥といいます」
「あさひ……こーちゃんって呼んで良い?」
「こーちゃん……? 別に構いませんが」
「やったー。それじゃあ、こーちゃん。あたしが責任をもって街の案内を務めさせて頂きます」
ショベルで穴を掘る作業を止めたミモは、いくつか案内したい場所があるような雰囲気を出していた。
とにかく情報を取り入れなきゃ駄目だから、耳をしっかりと傾けないと。
「まず案内したいのは、街の片隅にある偉人の墓石です!」
「はい。こっちですね」
ミモが歩いて行くので、その後をついていく。
偉人の墓なんて聞いたこともないからとても気になる。
一方で、街中はまったくもって人気がなく、徐々に寂しさがこみ上げてきそうだ。
花音や夏実、死神の主様もどこにいるかわかっていない。
ただ言えるのは、きっとどこかで息をしている。
確信は持てないけれど、生き生きしているミモを見てそう感じ取った。




