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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅰ 出会い
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屋上でのひだまり


「花音くん……いまから楽譜でも書こうかなと思って」


 ノートとペンさえあれば、適当に書いちゃう。


 それこそ、他人の目なんて気にしないで。


「楽譜を書く? 朝比奈は出来るのか……」


「物心ついた頃から、やろうと思えば出来るようになっていたといいますか、花音くんは楽譜制作とか一切しないの?」


「僕には出来ない。センスないといえばそれまでなんだろうけど、朝比奈は楽譜制作まで出来るだなんてすごく羨ましいなー。もっと、朝比奈のこと知りたくなっちゃいそうだ」


 花音がノートに覗きこんでくる。


 そんなこと言われても、ちっとも……嬉しくなんか……。


 恥ずかしくなって、ノートを閉じてしまった。



「そろそろ、帰ろうかな……」


「もうそんな時間だっけ。反抗期……? 掃除当番は?」


「ハイ……すみません。掃除しに音楽室にいきます……」


「朝比奈は気を遣ってる?」


「いえいえ、花音くんは気にしないで。楽譜を書けるといっても、なんかピンと来ないときはよく手が止まったりしますから。やっぱ掃除は大事ですね」


「それは別に。あとで構わないのだけど……」


「別にって、もしかして私、リストラされた?」


「違うけど、事情がちょっと変わってしまったことがあって。申し訳ないけど、朝比奈にやってほしいことがあるんだ」


「私に、してほしいこと?」


「そうだよ」


 花音はうなずくと、カランと音が聞こえた。


 私の足元に、銀色のスコップのようなモノが落ちていた。


「このショベルを使って、埋めてもらいたいモノがあるんだ」


「埋める……何をです?」


「笹倉コレクションという道具を知ってるかい?」


「なんか見覚えのある名前なんだけど、気のせい……かな……」


 絶対に気のせいじゃないと断言できるし……。


「表現が少し曖昧だったかな。その道具を使うと、噂に関して何かしらの防衛効果が発揮するという効果が出てね。本当に覚えない?」


「ううっと……。それっぽいのは、あの授業の合間でみかけたリコーダーとかが……」


 あのリコーダーは、笹倉家に伝わる噂の見極める道具で、花音がいう笹倉コレクションに該当するのだろう。


「脅さないでよね」


「ごめんって。まぁ、認知しているかの確認だったから」


「それで、その笹倉コレクションというのやらをどうしろと」


「集めて埋めて欲しいんだ。埋めて欲しい箇所は学校の敷地内に限る。埋める好機が来たら僕がその都度、指示するから朝比奈に手伝ってほしいんだ」


「それをすることによって、何かメリットとかあるの?」


「それは言えない。けど、少なくとも悪いことは起きないよ」


「ふーん……」


 花音が何を企んでいるのか、よくわからない。


 引き受ける利点があるとしたら……。


 それもよくわからない。


「どうしたの? もしかして、困ってる?」


「別に。ただ、笹倉コレクションって結局のところ笹倉家が管理しているのでは?」


「ふむふむ。ではその回答は、そこで隠れんぼしているクラスメイト様に聞いてみるとしよう」


 屋上と階段を結ぶ扉に向かって視線を送る花音は、にんまりしはじめた。


 すると、ひょいっと魔女の帽子を被った者が表に出てきた。


「……実はそうでもない。わたしが確認できた笹倉コレクションは、たった二種類だけ。つまり、笹倉コレクションは他の誰かに渡っているということ」


「夏実さん……」


 私は、誰が立っているのかすぐにわかってしまった。


 そして、あり得ないほどの圧力を掛けていることも理解する。


「夏実さんの手にあるの、何ですか……」


 明らかに黒い拳銃である。そんなものを、夏実が両手でしっかりと握りしめていた。


「これも笹倉コレクションのひとつ。あらゆる噂を拘束することができる玩具なの」


「撃たれたら、痛そうだね」


 花音は最初から、警戒していたのだろう。


 日本刀を既に構えており、まるで隙が無かった。


「いま撃つ気はないよ。ご挨拶代わりに、です」


 ため息をつきながら銃口をおろす夏実は、少しばかり残念がっていた。


「小鳥ちゃんと噂の男の子のイチャラブを止めることになるとは、わたしとしてはかなり想定外でしたの」


 いやいや、殺意あったでしょう……。


 夏実のことは、しばらく信用できなさそうだ。



「心配しなくてもだいじょうぶ。玩具の銃弾しか入ってないので、仮に引き金を引いても軽く痛い痛いと感じるだけですね」


「そ、そうなんだ……」


「だからね。小鳥ちゃんに、試し撃ちしちゃうね」


 パーン。玩具の銃弾が、私のおでこに直撃した。


 とても痛い。痛いけど、天使の羽のお陰でなんとか体制を維持出来ているって感じがした。


 すこしばかり、よろめいたかも。


「夏実さん、どうして撃ったの……?」


「笹倉コレクションを奪われたら嫌だなーって思って、つい……」


 感情的になって暴発でもしたのかな。


 いまは、そういうことにしておこう……。



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