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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅰ 出会い
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楽譜を探しに


 私は、人型を連れて廊下に出る。


 廊下の窓辺から見渡せる空は、青く澄んでいた。


「楽譜、一緒に探そうね。どこに落としたとか心当たりあるところから探してみたいところだけど」


「頭が軽い……。被りものを作ることのできるお部屋はどこにあるの?」


「被りもの……帽子……」


「ここ、気になる!」


 人型は、ひときわ気になる教室を見つけた様子だった。流石に学校の中にお店なんてないと思いながら看板を確かめる。


 家庭科室。授業で裁縫とかする際に入るところだ。

 しかしながら、鍵がかかっており、中には入れなかった。


 でも、教室から明かりが漏れている。一応、誰がいるのか気になったみたいで、人型はなんとかして教室内を覗き込もうとする。


「うーん、むりっ……」


 人型の忍耐力が少し足らなかった。



 両腕の力を抜く人型は地面に転げた。もし教室内に人がいたら、探している楽譜にたどり着く為の足掛かりになるかもしれないと思っていただけに非常に残念がる。

 

「帽子……帽子はどこにぃ……」


 人型は思わず涙腺が溢れ、泣きわめきそうになった。


「どうして入れないのぉ……」


「鍵が開いてないからとしか」


「ーー失礼します」


 学生がひとり、家庭科室から出てきた。


「紺色のベレー帽は完成間近まで行ったから……」


 美しい赤みのある髪を揺らぐ彼女は、胸ポケットから紙切れを一枚取り出す。


「帽子職人になるためには……いまから図書館に足を運んでみようかな。アイデアの引き出す発想力を鍛えなくっちゃ」


「すみません、あっ……」


 声掛けした私のことを見向きをせずに、彼女は立ち去っていまう。


「いまの感じたと、自分たちのこと見えてなかったような……」


「あー。なるほど」


「自分にはさっぱりなんだけど、なにか分かったのですか?」


「あくまでも推測なんだけど」


「教えてください」


「幽霊は基本的に生きている者の瞳に映らない」


「ふえっ……やっぱり……自分が、幽霊だから……」


 顔が赤くなる人型の精神は既に限界だった様子といえる。その場で泣きじゃくり、愕然として座り込んむ。


「探しもの、どこぉ……」


 ただ単に、感情が赴くままに泣いていた。


「涙は拭いてほしいかな。もしも人型さんの探しものが見つからないのなら、迷惑かけない範囲で旧校舎の音楽室のところにいれば良いから……」


 微かに生暖かい私の身体が、人型を包み込む。


「ふええ……」


「よしよし」


 柔らかい手で人型の頭を撫で始めた。


 早く泣き止んでほしいけど、流石に黙っておく。



 あと、私の包容力とか皆無すぎるのだけど、何故か人型の膝枕になっていた。




「もうだいじょうぶ」


「……泣き止んだみたいだし、そろそろ音楽室に戻ろうかな」


「ひとつ気になることがあって。こんな自分を連れ回して平気ですか?」


「楽譜見つかるまでは付き合ってあげれますが、それ以外のことは深く考えてないです」


「失礼しました……」


 丁重なお辞儀をした人型は緊張気味で、恐縮している。


 早いとこ楽譜を見つけてあげたいが手掛かりが皆無すぎる故に、発見難易度が爆上がりしてそうだ。


「ちなみにだけど、楽譜って私が書き下ろすとかは駄目なの?」


「探している楽譜はいじめられていた親友と、自分との合作なのです。赤の他人に一からつくってもらうのは、個人的には良い印象を持ちません……」


「合作ねぇ……」


「そ、そうです……」


「演奏してみたいね。九回ほど」


「なにか不吉な予感がします……」


「えっと、何でかな?」


「なんとなく……で、ごめんなさいです」


「人型ちゃんは別に謝らなくて良いから。花音くんの噂の影響があるかもだから、九回も演奏する気はなくて」


「噂……?」


 人型はきょとんとする。どうやら、噂のことを理解していないようで。



「意地悪なこと……?」


「噂を意地悪呼ばわりされるのも面倒だね……」


「ご、ごめんなさいです」


「ううん、気にしてない。……帽子を作ったりしたお話しとかない?」


「自分が……帽子をつくったこと……」


「そう、帽子をつくったこと」



「自分にできるのですか……?」


「それは手取り足取り、教わっていたりしたらたぶん」


「うーっと、思い出せるような、ないような」


「わからなかったら別に良いのだけど」


「帽子……生地の調達からやって……。ボボッっと突然、靴入れの上に置いていたキャンドルに火がついて……」


 人型は頭を抱えて思い出そうとするのに、必死だ。


「生地の専門店に踏み入れたりとか?」


「そうです。自分は親友と生地の専門店に入ったことがあります」


「少し、思い出してきたかな?」


「ううっと、専門店には正座している店員がいたはず……。紺色の着物で身を包みこむツインテールな格好で……様々な美しい生地を勧めてきました」


「どんなの?」


「派手な赤いチェック柄の布生地に、落ち着きのある緑の丸がランダムドットとなっている厚めの生地、赤や黄色の花が咲いているデザインのものあったような……。あとは、夜の池がプリントされた一風変わったものまであって、幅広い需要に答えるためにたくさんの生地が商品として用意されていて……えっ?」


 どうしてはっきりと覚えているのか理解できていない人型は、驚きを隠せない。


 あらぬ方向の引き出しが開いているみたいで、楽譜を探せるのか別の意味で心配になってきた。



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