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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編 いろいろ

いたしかたない。

僕は、今日。大好きな幼馴染に愛を伝えた。初めて会った時からずっと、隠し続けてきた愛を。でも、僕は知っている。彼女には好きな人がいて、だから僕のこの愛は彼女には届かない。好き。すき。こんなに好きなのに。笑う顔も。困った顔も。仕方ないって、許してくれる優しいところも。怒るとちょっと口が悪いところも。初めて出会った5歳の時から、ずっとずっと好きだった。それはいつしか愛に代わって。きっとこれは必然のこと。当然のように彼女を好きになった。当たり前のように求めた。でも、彼女は僕のものにはならない。なぜ?どうして?こんなにも思っているのに。僕以上に彼女を愛してる人なんていないのに。だけれど、彼女が、他でもない彼女自身に好きな人がいるというのなら。簡単に僕の思いも、愛も、なくなってしまう。届かなくなってしまう。ならばいっそのこと、僕は彼女に愛を伝えよう。ずっとに一緒に居たいけれど、それすらきっとかなわないなら。それなら僕の手で終わらせればいい。大丈夫。だいじょうぶ。だって僕はずっと君が好きだったんだから。君と一緒なら、死ぬことだって怖くないよ。


「だから、ね?俺と一緒に死のう?」


「そうかぁ、あんまり痛くしないでね?」


「…えっ。」


包丁を向ける僕に、仕方ないなぁ。と両手を無防備に広げる彼女。…えっ。


「し、死んでくれるの?」


「うん?うん。」


「…えっ。」


なんで。どういうこと?なんで?僕が幼馴染だから?かわいそうっておもってる?同情?頭が疑問だらけでまとまらない。正直、とても抵抗されると思っていた。僕にはどうしたって本当に彼女を殺すことなんてできない。だから、無様に泣いて、愛を叫んで、目の前で死んで。彼女の心に一生残り続けるつもりだったのに。なのに。ダメじゃないか。一緒に死んだら。一緒に死んでしまったら。何も残らない。何も残らないんだよ?そんなのだめだ。僕は君がたとえ誰かに愛を囁いていても、君に生きていてほしい。泣きそうなほど嫌だけれど。考えただけで涙もにじむけど。でも、僕は君が消えてしまうより、僕が消えてしまう方がマシなんだ。生きていてほしいんだ。ひどいよ、こんなに好きなのに、


「殺せるわけないじゃないかっ!!」


「ん~、そう?」


叫ぶ僕の手を、ガッと彼女の手が押さえつける。なんてことないような顔をして。驚き固まる僕と目が合うと、彼女は見たこともないような顔で笑って。するっと、包丁を奪われた。あ、


ザクッ


僕の顔の横擦れ擦れに、包丁が突きささった。彼女が、突き刺した。壁に深々と刺さる包丁と、かすれて頬から血が出る僕。僕を嬉しそうに見つめる彼女。


「はぁ~。たまらない…。可愛い。好き。愛してる…。ずっと、ずっと好きだった。私たち、両思いだね。そう。そうなの。知ってたわ。だって私とあなたの出会いは必然。初めて出会ったあの時から、ずっとずっとずっとずっと好きだった。愛してる。驚く顔も、泣く顔も、笑う顔も、私に欲情する顔も、好き。ねぇ、すき。一緒に死んでもいいの。一緒に居られるのなら。他の人なんか見ないでね?大丈夫。全部私に任せて。何も心配事なんてないわ。何も必要ないの。だって、私たちには愛があるんだから。」


恍惚とした、蕩ける様な顔で僕に愛を囁かれる。これは、夢なのだろうか。こんな、こんな幸せなことが許されるのか。僕だけじゃなく、一方的な物じゃなく、彼女も僕を好きだなんて。愛しているだなんて。夢にまで見た、彼女からの言葉に胃の腑が溶け落ちそうになる。高揚する僕の頬から流れ出る僕の血を、彼女は舐めとって飲み込んでしまった。ああ、そんな。ずるい。僕も、僕も彼女の一部になりたい。口を伝って、喉を通り、胃に溶かされては体中をめぐりたい。彼女を構成する一部になれたなら、どんなに幸せだろうか。


「殺して、殺してほしい。お願い。僕を殺して。」


「殺さない。絶望して、泣いて縋って?このまま君は、私と生きるの。」


頭の後ろに回された手が、僕を引き寄せて彼女に口付ける。彼女はそのまま壁の包丁を引き抜いて、包丁についた僕の血を愛おしそうに舐めた。

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