第65話 闇オークション②
「紳士淑女の皆様! 続きましては今回、趣向を変えた“特別枠”商品をご紹介します!」
司会者が声を高らかに宣言した。
薄暗い中をスポットライトが舞台の中央を四方から照らす。
スモークが焚かれると観客が興奮を示した。
期待を高めるには充分だった。
皆が息を呑んで、商品の登場を待ちわびる。
ゆっくりと床下から一人の少女が現れた。
ランディは姿勢を正し、顔をまっすぐに向けつつ、視線では会場の様子を探る。
中央から外に向けて幅広の階段、円形の客席。
競り落とされたらそのまま相手の元に行く段取りなのだろう。
足枷が外された理由も納得だ。
舞台が明るすぎて観客側は見づらいが、見ている者は全て同じ白い仮面で目元を覆っていた。
財力がある者だと一目でわかる仕立ての良いスーツやドレスと言った正装をしている。
――商売人の娘が、品として売り出される日が来ようとは……
ランディの姿を見るなり観客は一斉にどよめいた。
「……こ、これは」「嘘だろ」「美しい」「まさか……シャーロ――」「しっ、名前を出すな」「他人の空似だろうがそっくりだな」「おい、こんなの皇帝に知られれば殺されるぞ」「お、俺は帰るぞ!」
次々に囁き交わす声。
怖れている者、好奇の目を向けてくる者と様々だ。
「さて、おわかりの通り、こちらはどこの国とは申し上げられませんが、とある国の妖精と謳われるお姫様です。すでに皆様はどなたか想像できているのでしょう。とは言ってもご安心ください。偽者です。いやぁ、私、偽者なのに安心してくださいと初めて口にしました」
会場からどっと笑いが起きる。
こめかみが動きそうになるが、ランディは何とか堪え、無表情を貫く。
「今回の趣向は初めての試みです。好評であれば今後の目玉商品にも据えたいと思いますが……反応は上々のようですね。いやはや、これでは本日の最後の商品が肩透かしにならないか心配ですねぇ」
会場の反応に気分を良くした司会者はテンションを更に上げた。
「どうでしょう。この本物と見紛う繊細さは」
司会者が無遠慮にランディの髪に触れた。
この馴れ馴れしさはあえて、偽者を強調するための行動だろう。
本物であれば無礼極まりないからだ。
カツラだから我慢はしているが、嫌悪感はますます深まっていく。
「愛でるもよし、嬲るもよし。更に容姿からご想像の通り、穢れを知らぬ少女! さて今回初の“特別枠”商品はいかほどからスタートさせましょうかねぇ」
大袈裟に手を広げた。
すると観客から野次が入った。
「おい、さっきから人形みたいに座っているが、そいつは喋れるんだろうな! いい声で鳴いてもらわないと困るぞ!」
ランディの無表情が気に食わなかったのだろう。
下卑た笑いが起きた方向に司会者が頭を下げる。
「これはこれは大変失礼しました。――さぁ、お前。声を聞かせなさい」
ランディに向かって司会者が意気揚々と顔を向ける。
話題もないのに何を喋らそうというのか。ましてやこの状況。
命乞いか、同情を誘うか、それとも反抗的に暴言を吐くか。
だがこの舞台に上がる前から、ランディの腹は決っている。
ほんのりと薔薇色に染まった唇が静かに開いた。
「――わたくしが、誰だかわかっていての狼藉なのでしょうね?」
肘掛けにしなだれ、司会者を横目で睨んだ。
会場はピリッとした空気に包まれる。
穏やかな物腰を感じさせる口元、静謐を携えた姿、それでいて威厳を示すセリフ。
一部の小心者は、恐ろしい者を見る目で黙って席を立ち、急いで出口に向かっていた。
その行動には、本物かもしれないという疑惑がつき、不安を覚えた者の声でざわめき出す。
「まさか、本物……?」
「シャーロット様が潜入調査に協力したという手も考えられないか?」
「ひぃっ! オ、オレも帰るぞ!」
司会者も驚きはしたもののすぐに我に返り、場を収めようと取り繕う。
「み、皆様! 落ち着いてください! 驚かれた方もいらっしゃったようですが、これは演出です! ここまで本物そっくりだと、さらにお気に召すでしょう!」
大声を張り上げ、語尾を強くするが、
「偽者だという証拠はどこにある!?」
と非難の声があがる。司会者はすかさずランディのカツラを外した。
いつもの短髪が露わになる。
観客達が安堵のため息をついたのは、ほんの束の間。
「……愚かね。わたくしが本物のままでこの会場に紛れるとお思い?」
天使のような笑顔を浮かべるが、その瞳は凍てついている。
「この場が不正なものであると証拠が欲しかったのですよ。仮面はつけていらっしゃる皆様はまだ身分が割れていないとお考えなのでしょうけれど、これでまでの違法オークションの日時、会場、これまで参加した皆様の名簿、取引方法、わたくしがその情報を把握していない可能性は考えられないのかしら」
椅子から立ち上がり、堂々とした振る舞いで会場を見回す。
いかにも不正を暴こうとする正義の執行者にしか見えない。
「……ま、まさか、本当に検挙するために紛れて……?」
これからどうやって更に偽者の証明をしていくのか。
まるでパラドックス。
全ては無事に生き残るためのハッタリだが、シャーロットの妙な信憑性がある。
観客はだんだんとしらけ始めた。
この空気ならオークションを中断できるかもしれない。
次々に仮面を付けた参加者が席を立つ。
司会者はおろおろと止めに入るが、誰も気に留めない。
対処の術が見つからず、助けを求めるように脇の壁を見上げた。
すると、
ドンッ――と、舞台からまばゆい閃光とすさまじい爆発音が響いた。
光の柱が司会者を粛清しようとしたのだ。
床には大きなハンマーで叩かれたような亀裂が入っていた。
会場がしんと静まり返える。
この場にいる者達の額には冷や汗が浮かんでいる。
その光が放たれた先は上方。
二階には特別観覧席といわんばかりのバルコニーが設けられていた。
会場全体を眺望できる個室。
その中には扇で顔を隠していた者が佇んでいた。
「…………興醒めよ」
眼光炯々に会場を見下ろすシャーロットが姿を現わした。




