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第50話 お祝いパーティ②

「お、お兄様、冗談はおやめください。パーティーを台無しにするおつもりですか」


瞳を潤ませ訴えるが、第三皇子は腕を組み強気に出る。


「お前、誰がこのイベントを開いたと思ってんだよ。主催は俺だぞ」

「しかし魔法はお父様にも止められて……」

「責任ならとるさ」


皇族としての尊大さはばっちり。“お父様”の言葉にも臆さない。

第三皇子は考えるそぶりをしながら意地の悪い顔をした。嫌な予感がする。


「なあ、お前が主役なんだぜ。チンケなメシにダンスだけじゃつまんねぇだろ。少しは面白い余興を見せてくれよ。みんな楽しみにしてんだぜ」

「ですがお兄様もご存知の通りわたくしは魔力制御が出来ておりません。万が一事故が起きたらどうなさるのですか」

「結界を張ってやるよ。その中なら大丈夫だろ」


ランディはシャーロットから教えてもらった家系図から皇子の情報を思い浮かべた。

確か――第三皇子の魔力属性は水。


「結界生成“シンアイスワールド”」


招待客はどよめいた。

第三皇子はランディの答えを待たず、自身の周りにクリスタルのような結界が展開されていく。


「驚くなよ。皇族ならこれくらい朝飯前だぞ」


目を丸くしていたランディを皇子は鼻で笑う。


結界の中に閉じ込められた状態だが、外観は薄氷で作られており、周囲からは二人の様子が垣間見れる。

ランディは汗ばむ手を握る。

皆を守るために張ったというより逃がさないためと言った方がよさそうだ。


「とは言っても初級の回復魔法ってのは花が無いよなぁ。誰も怪我してねぇし。攻撃魔法はどうだ? お前、魔力を持ってない頃から全属性魔法を馬鹿みたいに勉強してたから、今の実力で出来る魔法はわかるだろ?」

「そんなこと――」


ランディは戸惑ったように目を伏せた。


――まあ、魔法を見せろと言われれば、見せることは可能なんですがね。一応。


ここで行商だった時の職業病が発揮されるとは。


ランディは万が一を考えて、護身用にヒールのアーチラインに魔法陣紙を仕込んでいた。

チョーカーには発動用の魔石も埋め込んでいる。


発動可能な代替魔法はシャーロットの属性も考え“光裂”魔法。


光のエネルギーを濃縮した小さな光球を作り出し、弾けさせる魔法で、爆発的な衝撃と強烈な光で視界を奪う効果がある。

いわゆる目眩ましだが、圧力波が生じるため使用者は、発動と同時にその場からすぐに離れなくてはならない。

だがここは結界の中。

結界が張れる第三皇子の実力ならば、防御魔法も使えるだろうから怪我の心配はない。

ただし代替魔法を一種類しか持っていないランディの場合はそうはいかない。


更に問題点を上げるならば代替魔法は、魔法陣紙用の呪文を唱える必要がある。

第三皇子を前にしての実行は恐ろしくリスキーだ。


これで、もしシャーロットは魔力に目覚めていなかったのだと思い込まれたら?

これで、もしここにいる者が偽者だと気がつかれたら?


――きっとわたしも皇女殿下も非難どころか破滅してしまう。


思えば魔力に目覚めたお祝いなのだから、魔法のお披露目くらいは想像するべきだったと反省する。

成り代わりの基本は、本人に成り切るだけでは無く、不測の事態にも対処出来るよう、前準備を徹底して行うことだ。

自身のブランクを嘆くが、今は何がベストの対処法かを考えるのが先だ。


「お兄様、やはり考え直してください。今のわたくしの実力では皆様に満足できる魔法なんて発動できませんわ」

「その評価はお前じゃなくて、皆が決めることだ――なぁ?」


手を広げ、結界の外にいる招待客らに答えを求める。

彼らは手を叩き、第三皇子に同調する。


この場にいる皆はシャーロットの魔法に期待しているのだ。

シャーロットの魔力開花を嘘だと暴きたい者、謙遜からくる態度と思い、後押ししている者、悪意善意込みの期待だ。


このまま何もしないという選択肢もあるが、兄皇子が許すはずも無い。

断り続ければ、最悪攻撃を仕掛けてくる可能性もある。


すでに魔力制御が出来ていないと予告はした。

誰にも気づかれず“光裂魔法”を発動させれば、魔力暴走で片付けきれる。

それに魔力に目覚めた片鱗を見せておけば、シャーロットの体裁も保てる。

考えようによっては、これ以上ボロが出る前に早々に退場も出来るし、今後、第三皇子が皇帝から咎められる可能性もある。

そう思えば少しは溜飲が下がる。


どの程度の怪我をするかは分からないが一つ言えるのは――死にはしない。

もし、怪我をすればシャーロットが静かに休める理由も作れる。


良いことずくめ、とは言えないが、これなら仕事としては及第点ギリギリ。


ランディは悩んでいる風に顔に手を当てつつ、チョーカーにつけてある魔石の位置を確認する。

気分が悪いふりをしながら手で口を押さえれば呪文は聞こえないだろうし、倒れれば床に敷いた魔法陣紙に魔石が当てられる。


問題はその後だ。

どうやってシャーロットに経緯を伝えるか。

怪我をした後、医療室より先にシャーロットの部屋に行けるよう付添人を誘導しなくてはならない。


第三皇子は場の空気に飽きつつあるのか、妹を傍観しながらも結界の外にいる招待客と談笑を始めた。


――これは好機。


招待客に目線が移った隙にランディは踵を動かし、ヒールに隠した魔法陣紙を床に落とした。

周囲からは不審がる声は上がらない。誰もランディの行動には気づいていない。

あとは気分が悪そうに(うずくま)るだけ。


自身の描いたシミュレーションが上手くいくようにと願いながら、チョーカーに指をかけた次の瞬間。


――コッ。


手にしていたチョーカーが、するするとただの絨毯の上に落ちた。

だがランディは呪文を唱えるどころか、身体を曲げることも出来ずに固まっている。


代替魔法は不発。


なぜならランディの手首を強い力が捕らえていたからだ。

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