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第49話 お祝いパーティ①

シャーロットもとい、ランディは控えの間から大広間を覗き見する。


顔を上げれば豪華なシャンデリアが光を放ち、下を向けば大理石の床に真っ赤な絨毯が敷かれている。

壁にはオペラを題材とした絵画が飾られ、端には立食形式で様々な料理が並び、楽師による穏やかな音楽を演奏している。


きらびやかな黄金の輝きに包まれていた大広間。


このまま外聞を気にせず、庶民では滅多にお目にかかれないこの空間を楽しみたい。


が、そんな誘惑には乗るわけにはいかない。

シャーロットであれば、そんなことはしないからだ。


「よう、シャーロット。相変わらず顔だけはいいな」


声の主はシャーロットの部屋で見かけた第三皇子だった。

思わず身構える。

シャーロットの兄姉で唯一ランディとして顔を合わせていた人物だ。

今回の仕事の第一関門である。


鏡で練習した通り、シャーロットに寄せた表情筋を使い、笑みを浮かべる。


「お兄様、この度はわたくしのためにパーティーを開いてくださりありがとうございます」


ランディは両手でスカートの裾を軽く持ち上げて、礼をする。


「気にするな。これでようやく本当の家族になれたんだ。お祝いくらいするさ」


その言葉にランディは安堵した。

不審がられている様子はない。

妹をいびっている割には入れ替わりに気づかないのか。

口調や声のトーンは似せているとはいえ、よく聞けばわずかに声質が違うはずだ。

その違和感に気がつかないのは流石に妹が偽者を用意するとは思わないからだろうか。

冷静に分析しながらもバレて困るのは自分であるが。


――もしかしたらアイヴァー様がわたしに内緒で本物に見えるよう錯視魔法をかけてくれたかもしれませんね。


「まあ、色んな貴族には声をかけているが形式ばったものじゃない。お前も気軽に参加しろ」

「ところでお兄様……」


ランディは会場内を見渡す。


「あの、他の皆様は……? お父様達は後から来られるのですか?」

「ああ、誘ってみたんだがな。皆、忙しいそうだ」


第三皇子は至極どうでもよさそうに答えた。

家族は全員来ない――教えられていないのか本当に断ったのかはわからない、が。


――やっぱり、わたしが来てよかったですね。


大きなため息をつきたい気分になった。

家族との関係性は詳しくは知らないが、第三皇子がシャーロットの期待を裏切ったのは確かだ。


「そう、残念ですわ」


悲哀を込めた笑みを浮かべ、気にしていない風を装う。


そしてエスコートは近衛騎士から第三皇子へと代わる。

兄の手を取り、大広間へと足を進めた。


これからシャーロットのお祝いパーティー、もとい戦いが始まる。






パーティーは形式ばったものではないという言葉通り、気さくなものだった。

大袈裟にシャーロットを脅しておいて、蓋を開けてみれば、場に緊張感は無い。

色んな貴族を呼んでいると言っていたが、会場に来ている人間は若い者ばかり。

第三皇子の知り合いを呼んだ程度なのであろう。

他愛ない街中の雑踏を眺めているようだ。


「シャーロット様、おめでとうございますぅ」

「今日もお美しいですわね」

「属性が光だなんて、滅多に現れないと聞きますのに……」

「元帥閣下のお力添えをいただいたというのは本当ですの?」

「魔法はどの程度扱えますの? 皇族の方でしたら中級魔法なら十歳でマスターすると聞きましたわ」


四方八方にいる貴族令嬢からランディの元に集まる。

わかりやすい相手の思惑は不快を通り越して愉快になってしまう。


ランディの表情筋は緩むことなく、穏やかな笑みを保ち続けた。


第三皇子殿下でさえ入れ替わりに気がつかないのだから、他の招待客が気づくはずもない。

彼女らは完全にシャーロットと思い込んでランディに礼をとる。


いつもは自分が頭を下げる立場であるがゆえ、慣れない光景だが、何事も無いように振る舞う。


シャーロットの評価は気持ちいいほど三分割されている。


一つ目は花のような可憐な美貌ゆえの羨望。鑑賞としての遠巻きで見ている者達。

二つ目は魔力に目覚めた皇女側について利があるのか打算している者達。

三つ目は自分より優位に立つことを許さず、わかりやすいマウントを取りに来た高慢な者達。


この場に多いのは三つ目の方だ。


好奇、疑惑、邪推。

本当に魔力に目覚めたのなら、取り入れる価値があるのか今のうちに潰すべきかを判断している。

もし虚偽であれば、このパーティーはまたとない断罪の余興になるあろう。


この場にいる貴族は暇なのか。権力にしか興味が無いのか。


本物のシャーロットであれば魔力に目覚めはしているが、まだ制御や訓練までには至ってない。


魔法が使えるにはそれ相応の鍛錬と努力が必要だ。

皇族だから優秀なのは当たり前。

常に誰よりも能力があり、気品があり、羨望されなくてはならない。

努力なんて表に出せないシャーロットの今後を思うと不憫でならない。


「シャーロット様は光属性なのですよね? 差し支えなければ初級の回復魔法を見せていただけないかしら」


と、ある少女が声をかけてきた。


――早速ですか。


確か――ランディは頭の中で調べあげた貴賓客の資料のページをめくる。

ネルゴール伯爵令嬢だ。

皇族にお願い出来る立場ではないはずなのに、無礼講といわんばかりの気軽さだ。

シャーロットの気弱さにつけこんでいるのだろうか。


ランディは微笑みを保ちつつ毒づいた。


もし彼女の兄姉達であればこうした発言を許さないどころか血の雨を見るだろうに。

シャーロットは侮られすぎている。


「実はまだ制御が出来なくて、お父様に公然では使用を禁止されているの」


と、予防線を張る。

お父様――つまり皇帝の名前を出しておけば押してもこないだろう。


「まあ、残念ですわ。シャーロット様が発現される魔法をこの目で見ておきたかったですわ」


案の定、伯爵令嬢は引いた。

あからさまに眉間に皺を寄せたので、シャーロットを陥れる目的もあったのだろう。

それでも皇帝陛下に逆らうのは怖いとみた。


――まあ、ハッタリなのですが。


おそらくいつかは魔法をお披露目の機会もあるだろうが、今日は偽者なので無理だ。

流石に今日のことを誰も「魔法を使うなって本当ですか」なんてくだらない質問を皇帝陛下にはしないだろう。

ところが――


「別に魔法くらい、いいだろう?」


と背後から声がかけられる。

ランディは心の中で声の主に悪態をつきながら振り向いた。

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