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第45話 お見舞い①

次の日、シャーロットは体調を崩した。

頭痛や吐き気を催し、立ってもいられなくなったそうだ。


どうやら魔力回路が開かれたことで身体に負担が掛かったことと、魔力に目覚めた喜びから魔法を乱用した結果、魔力枯渇を起こしているらしい。


そんな状態にも関わらず、ランディを宮廷に呼び出した。


最初のうちは断っていたが、ただならぬ表情で迫る侍女の様子から、万が一の場合が起きているのかと不安になり、結局シャーロットの待つ部屋へと向かった。


ドアをノックし、恐る恐る部屋に足を踏み入れる。

息苦しそうにベッドに横たわるシャーロットを見つけ、


「皇女殿下、お加減はいかがですか」


と、声をかけるが、彼女はランディを見るや否や、興奮した様子で立ち上がった。


「ランディ! あなたにお願いがあるの。わたくしの代わりにパーティーに出て欲しいの!」


開口一番、瞳を潤ませたシャーロットはランディの胸に飛び込む。

突然の申し出にランディは目を丸くした。

それからシャーロットの腕を掴み、距離を取る。


「一体、何をおっしゃっているのですか?」


熱で朦朧としているのか自分の言っている内容を理解していないのだろう。

身体を支えている足もふらついている。

高熱が続くと異常な興奮や不可解な言動をする者もいると聞く。

ランディはシャーロットではなく侍女に顔を向けた。

だが侍女は頭を振って、シャーロットに答えるように促す。


「あなたとわたくしは背格好も同じだし、声質だって似ていると思うの」

「つまり皇女殿下に成り代われという意味ですか? そもそも男のわたしに何の冗談ですか」


とんだ無茶ぶりである。やはり熱に浮かされているのだろう。

ランディは話半分で落ち着かせようとベッドに戻るように誘導するが、シャーロットは手に持っていた書簡を手渡した。

今日を含め七日後、シャーロットの魔力が目覚めたお祝いに身内向けでパーティーを開催する内容だった。

しかし当の本人は体調不良を起こしている。

現に両頬は真っ赤で、ランディの支えが無ければ立ってもいられないのだ。


「休むなんて出来ないわ。かといって日を遅らせたりしたら、わたくしが魔力に目覚めたことが嘘だと思われる。お父様に失望されたくない……」


魔力枯渇、それに加え魔力制御もまだ上手くできていない。

更に目覚めたばかりの間は、体調が安定しないとアイヴァーから教えられていた。

彼女は不安のあまり、突拍子もない提案をしてしまったのだろう。

シャーロットは両手で顔を覆った。指の隙間から嗚咽が漏れる。


書簡を読み進めていくと、どうやらパーティーの主催は兄の第三皇子のようだ。


シャーロットも当初はパーティー自体を断ったようだが、兄皇子に言いくるめられ、開催日さえも遅らせられなかったらしい。


「しかし、どうしてわたしに相談を……」

「わたくし、聞いたの。あなた――以前、スバエ商会で働いていたのでしょう?」


その言葉にランディの表情が固まる。


「スバエ商会は要望があれば小さな砂粒一つから戦争兵器といった商品も取り扱う――物にはこだわらず提供できる商品があれば提供する。物品以外も売買の対象。その中には情報や影武者も含まれている、と聞いたわ」


――どこからその情報を……


ランディは息を呑んだ。


確かにスバエ商会では裏稼業が存在している。


それは人に知られず、誰もやりたがらない合法と非合法のギリギリの線を狙ったグレーゾーンの商売だ。

ハイリスク、ハイリターンな仕事となるので、依頼人はかなりの大金が払える人間に限定される。

仕事内容は様々で、請け負う人間にしか教えられない。

それゆえランディの父でもあるスバエ商会の会長が、直々に最も信頼のおける人間を選定し動かしていた。

無論、家族であるランディも過去には携わっている。

主に貴族の毒味役や仮面舞踏会のスタッフ、暗殺予告のあった貴族子息の身代わりも経験している。


しかしそれも数年前のこと。

顔が割れ始める前には辞めており、次に行商の仕事を回されたのだ。


「やっぱり……そうなのね」


沈黙を続けたことが肯定に繋がってしまった。


「ねえ、お願い、失敗したら責任は取るわ。わたくしを助けて!」


ランディは頭を横に振る。


「いいえ。皇女殿下がわたしの前職を知っていたことに驚いてしまっただけです。わたしは主に行商担当でしたので詳しくはありませんが、もしかしたらそういう仕事もあるのかもしれません」


内心は冷や汗をかいているが、平然を取り繕って笑みを浮かべる。

今は気が弱っているからそう言っているに違いない。

協力したいのはやまやまだが、自身のお祝いを他人に任せてしまったらきっと後悔するだろう。


「そんな非現実的なお願いよりもきちんと身体を休めましょう。せっかくのお祝いなのです。その日までには治ったら取り越し苦労ですよ。それにいくらなんでも当の本人の体調不良が続けば日程くらい伸びますよ」


「そんなこと……出来る、かしら」


シャーロットの表情は沈んだままだ。

アイヴァー経由で皇帝陛下にお願いすれば、パーティーの日は延ばせるだろうだが、さすがに干渉が過ぎるか、と思ったそんな時だった。

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