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第44話 その日の夜(閑話)

その日の夜更け、ランディ達も寝付いた帝国軍寮。

カランと氷がグラスに当たる音が静まり返った闇夜に心地よく響く。


最上階にあるバルコニーには二つの影があった。

彼らは手すりにもたれて、ゆったりと外の景色を眺めていた。


「それにしてもシャーロットに目をかけていただけるとは。魔法が使えるようになったと言ってはしゃいでましたよ」

「ふーん、今日来たのはそのお礼ってわけ?」


煩わしそうにため息をつく。

バルコニーの欄干(らんかん)に設置された木製のテーブルには、小さなキャンドルとボトルクーラーが置かれており、すでに何本かのボトルは空となっている。


「お祝いはいいんだけどさ、大事な娘にはついてなくていいの?」


かなり乱暴に魔力路をこじ開けた。シャーロットの身体には相当な負担がかかっているはずだ。

おそらく今頃は頭痛やめまいといった体調不良を訴えているだろう。


「私がついたところでかえって邪魔になるだけでしょう。しかしどうして急に? あなたにはシャーロットが赤ん坊の時に相談した気がしましたけどね」

「そうだったっけ……? たぶん面倒くさかったんだろうね」


どうでもよさそうに告げると、ボトルを宙に浮かせ、持っていたロックグラスに醸造酒を注ぎ足した。


「僕のおはよう係にいいとこ見せたかったのと、お邪魔虫を減らしたかっただけだからね」

「その言い草は、あの子が聞いたらショックを受けますよ」

「そんな玉じゃないでしょ。君の子供なんだから」

「まるで私が腹黒みたいに言いますね」

「そうでしょ。だってあの魔力路の封鎖現象は僕じゃ無くても治せたはずだよ。しかもあの色の二色眼だから、もし僕に見せたとしたら症状はすぐ教えたんじゃない? 君の怠慢もあると思うんだけどな」


グラスを口へと運びながら、横目で軽く睨む。


「私としては娘のあがく姿を見てみたかったんですけどね」

「悪趣味~」

「子供の成長を見たいと願う親心だと言ってくれませんか? まあ、あがく方向は間違えてましたがね。おかげで(したた)かにはなってますよ。あの子は」

「そう? 僕のライバルどころか、話にもならなかったけどねぇ」


彼は今日のやりとりを思い出し、ふっと息を吐くように笑った。

だがその言葉にもう一人は首を傾げる。


「――ライバル?」

「ああ、なんでもない。こっちの話」


そう言ってそっぽを向くと、もう一杯、また一杯と、酒をすすめていった。

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