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第39話 双子に相談

「あらあら、どうしたのぉ。ランディ」

「お二人にお願いがありまして」

「あらあら、込み入った話になりそうねぇ。さあさ、どうぞ入ってぇ~」


双子の使用人の片割れが扉を開けた。

ランディは使用人仲間であるニーナとイーダの部屋に訪れていた。


そろそろ就寝となる時間帯。

男で通っている身としては女性の部屋に訪れたのはマナー違反だが、二人部屋だから大丈夫かもしれないと扉をノックした。


本屋の女性店員から教えて貰った“友人と親しくなる方法”を二人に試したかったのだ。


友達であれば服の貸し借りくらいは平気とは言っても、さすがに異性ではどう反応されるのか境界線を調べたい。

この二人なら気遣いをすることなく意見を述べてくれるだろう。



ランディは恐る恐る双子の私室に入る。


アイボリーやベージュなどの優しい色合いで統一された部屋。

ラックの上に置いてある瓶やおしゃれな本やドライフラワーを飾ってあり、大人の女性らしさが広がっていた。


まずは頭の中でメモした内容を思い浮かべる。


「あの! 服を一時でいいので交換していただけませんか!?」


こんなお願いは今まで経験が無く、当たって砕けろ精神で頭を下げる。


アドバイスの一つである

“服の貸し借りをする、もしくはおそろいのコーデをする”

を実践しようとしたのだ。


おそろいのコーデはまだハードルが高いので、簡単な服の貸し借りなら何とか出来そうだと踏んだのだ。

さすがに男だったら迷うかもしれない。嫌がられるかもしれない。

どんな答えが返ってくるのか緊張しながら待っていると、


「あらあら、服の交換? いいわよ。どういう服がいいのかしらぁ?」

「まあまあ、ランディはどういう服を持っているのぉ?」


双子はあっけらかんと答えた。

嫌悪感を持つどころか、二人ともうきうきと自身のクローゼットに向かっていった。


花柄のスカート、刺繍の入ったブラウス、背中を大きく開けた謎のセーターなど、ポイポイポイポイとベッドの上に積み重ねていく。

しかも二人とも同じ動作をしているので、ベッドの上はすぐに服の山と化していた。


服を交換に至った経緯に触れず、ありったけの服を躊躇無く取り出す二人に逆に不安が(つの)る。


「ニーナさん、イーダさん。あの……わたしと服の交換なんて恥ずかしいとか、気持ち悪いとか、思いませんか?」

「「あらまあ、全く思わないわぁ~」」


と、二人は何事も無くあっさり答えた。


「えっと、いきなり服を交換しようと言っているんですよ。おかしいとは思いませんか?」

「あらあら、てっきり自分の服に飽きたけどお金がないから他人の服を着たいくらいにしか考えてなかったけど……他に理由があるのぉ?」

「わたしは男ですし……例えばお二方のファンに売りつけるかもしれないなど不安はありませんか?」


あまりの迷いの無さ。逆にランディの方が焦って、手をわたわたと手を動かしている。


「まあまあ、何それぇ。微塵もそんなこと考えてないわよぉ。ランディだってそんな子じゃないでしょお?」


からからと双子は笑った。そんな二人に拍子抜けする。


「あらあら、もしかして何か事情がある話なのかしらぁ?」

「そうですね、すみません。試すような真似をして……」

「まあまあ、いいのよ。それは後で教えてくれるかしらぁ」

「わかりました」

「あらあら、それじゃお着替えの時間といきましょうかぁ」

「え?」


振り返ったと同時にビラビラ~という効果音もついてきた。

双子が手にしていたのは、レースがふんだんにあしらわれたワンピース。


「まあまあ、ランディにはワンピースやドレスを一度着せてみたかったのよねぇ」

「あらあら、私服は地味色しか着ないし、一番見栄えがいいのが使用人服ってどうなのかしらとは常々思っていたのよぉ」


キュッピーン。双子の瞳のギラつきは野生の獣を想像させた。

肉食動物が獲物を見つめる目にそっくりだ。


ランディは身の危険を感じ、じりじりと後ずさった。


「「アラマア、ドウシタノ、大丈夫ヨ。オ姉サン達、怖クナイヨ」」

「突然の片言!」


狭い部屋の中、ランディに逃げる場所などなかった。

ある意味、地の利を知る双子、二対一では圧倒的に不利であった。

簡単に捕まったランディは服を剥かれ始める。


「わー! わかりました! 何でも着ますから! どうか着替えだけはわたしにさせてください~!」


観念したランディは息も絶え絶えに何とか服を死守する。


それからはめまぐるしいファッションショーが始まった。

ちなみにランディが持ってきた服は、胸がきつくて着られないというオチがついたため、モデルはランディのみとなった。


双子の衣服を全て着終わった二時間後――


「あらあら、それにしても服には無頓着なランディが急にどうしたのかしらぁ?」

「う……それもそうですね。理由をお話しします」


ランディは二人に持ってきたメモを見せた。


「……その、失礼ながらと友達の接し方を試しておりました」

「あらあら、そうだったのぉ。それなら私達は友達でいいわよね。ランディと服の交換くらいなら喜んで出来るわよぉ」

「まあまあ、そうね、キスも出来るかしらぁ?」

「えええ!?」


二人の言葉に動揺を隠せない。友達の距離感とは思ったより短めらしい。


「あらあら、驚かなくてもいいじゃない。流石に唇にとは言ってないでしょう?」

「まあまあ、ランディだって私たちにほっぺにキスくらいは出来るでしょう?」


双子は有言実行と言わんばかりに、ランディの頬に軽くキスを落とした。

照れはするが確かに嫌では無い。


「あらあら、ランディってば考えすぎね」

「まあまあ、アドバイスのメモもいいけど、親しくなるためにいちいちイベントなんて考えないでいいのよ。共通点があれば自然と仲良くなれるもの」


「共通点……とはどういうものでしょうか?」


「あらあら、手っ取り早いのは趣味が同じだと仲良くなりたいと思うでしょう。でも私達は本を読むのが趣味だけど、ランディはそうでは無いでしょう? なら他を考えるわね。例えば同じ家に住んでいる、同じ立場、同じ年齢……共通点が出来れば誰でも友達にはなれるもの」

「まあまあ。私達とランディの場合は使用人仲間ってのが共通点ね」


ランディは(あご)に手を当てた。

元帥閣下との共通点を考えるが、さっぱり思いつかない。


「……あらあら、ランディ。つかぬことを訊くけれど、この話って“友達”でいいのよねぇ?」

「はい、そうです」

「まあまあ、このアドバイスってまるで――ふがっ」


イーダがニーナの口を押さえた。

いつも以心伝心で繋がっている二人だったので、意外な行動に驚く。


「あらあら、ランディ、気にしないで。続けてくれるぅ?」

「え……えっと、拙いわたしの悩みを聞いてくださりありがとうございます。おかげですっきりしました」

「あらあら、お役に立てて嬉しいわぁ。それじゃもう遅い時間だから私達はもう休むわね」

「お休み前の時間を取らせてすみませんでした。わたしもこれにて失礼します」

「あらあら、うふふ。また明日ねぇ」


ランディは深々と頭を下げ、部屋を後にした。

双子は和やかな笑みを浮かべ、ランディは見えなくなるまで手を振った。


「あらあら、ランディったら……初々しくて可愛いわねぇ」

「まあまあ。イーダったら。あのメモ。完全に女の子同士向けだったでしょ。気づいてた――わよねぇ? 私達女性に友人のなり方なんて聞きに来るってことはきっと相手は女の子でしょ。ちょっと境界線が危険じゃなぁい?」

「あらあら、だってぇ、これでもっと相談しに来ると思うと嬉しくってぇ」

「まあまあ、悪い人ねぇ。止めようと思わない私も同罪だけどぉ」


二人はキャイキャイと黄色い声を上げる。

だが一瞬、時が止まる。


「……あらあら、でも一体、誰と友達になりたいのかしらねぇ」

「まあまあ、そうねぇ。一番身近なのは元帥閣下だけどぉ――」


一瞬、沈黙が落ちる。

双子はかつて元帥閣下のおはよう係に就いていた日々を思い返していた。

だがすぐに頭を振る。


「あらあら、やっぱりそれはないわねぇ」

「まあまあ、あの寝起きに惚れる要素なんてどこにもないものねぇ」


やがて眠気が二人を襲う。

近いうち進展が教えてくれるだろうと、そのまま寝る準備を始めた。


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