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第37話 本屋にて①

本とは、あらゆる需要や欲求に対して文章として答えを教えてくれる手段だ。

知識、経験、思想。

自分が知らない世界や存在を短時間で教えてくれる。

本から得られた情報や感じたことは想像力や精神力を鍛えてくれるだろう。


というわけで、ランディは息を切らしながら本屋の前に立っていた。


大多数の人間と接してきた経験はあるが“友人”は作ったことはない。


一般的には親しく付き合うことのできる相手だという意味は理解している。


趣味もない、誰にでも気が合わせられる性格。

今まで誰からも好きにも嫌いにもならないような、当たり障りのない行動しかしてこなかった。

毒にも薬にもならない、いてもいなくてもいい存在。それが立ち位置だった。


異性どころか同性の友人がいない。

寂しい、と思うことはなかった。

毎日の仕事で人とは接するし、人間は一人でも生きていかなければならない時もある。









ノーウェリア帝国、帝都の第一商業区、大通り。


立ち並ぶ建物の一角にある本屋でランディは呆然と立ち尽くしていた。


書店には料理本、娯楽小説、学習参考書等の大衆向けの本はあったが、“友達の作り方”といった本は置いていなかったのだ。


店長である老人がふぉふぉと笑う。


「そりゃそーじゃ。お金を払ってまで知りたい情報じゃないからな、気が合えば皆友人みたいなもんじゃろ。むしろそんな本が売れるどころか、作ってもおらんじゃろうて」

「そ、そんなぁー……」


がっくりと肩を落とすランディ。


「残念じゃったのう」

「では他にそういった情報を取り扱っているところはありませんか!? もしくは達人などいらっしゃれば……!」

「何じゃお前、その歳で今まで友達がおらんかったのか?」

「うぐ……っ」

「なんとっ! では幼い頃は何をして遊んでおったんじゃ?」

「うぐぐぐ……っ」


ランディは老人の顔がまともに見られず、目を逸らしてしまった。


仕事第一かつ拝金主義の一家に生まれ、幼少期はお店屋さんごっこなるもので、兄達と遊んでいた記憶しかない。気づけばそれが実践に代わり、更に一人行商生活まで行えるようになった。


物心ついた時には、ある程度文字も書けたし、計算も出来たから、父であるケネトにも学校に行く必要は無いと判断されていた。


学校は楽しそうだなとは思ったことはあるが、行けなくて悲しいという感情は無かった。

そう思う暇が無いほど、仕事の日々は充実してたのだろう。


仕事相手としての接し方は知っている。しかし友人としての接し方は知らない。

ランディの煮詰まった表情を見て、老人はたくましい髭をさする。


「困っとるのう。大したアドバイスは出来んかもしれんが、若者には若者の意見がよかろう」


老人は奥で本の整理をしていた店員を呼出し、事情を説明した。


「はぁ~マジ~!? キミ親しい友達シタトモいないの~!? 超かわいそぉ~!!」


ド派手な化粧にアクセサリーをじゃらつかせた装飾過多な女性が、ずずいとランディに迫る。


「アタシとなっか~? って言いたいとこだけど、彼氏いっから男友ダントモはNGなんよね~」


ごめんね~と手を合わせながら謝る。


「でも悩みごとなら聞いちゃるよ~。おじいちゃん、奥の部屋借りるね~」


そう言いながら、来い来いと手招きし、ランディを従業員専用の休憩室に連れて行った。

室内は椅子とテーブルだけといった簡素的だった。

ランディを椅子に座らせると、向かいには女性店員が腰掛けた。


「で、友達がいなかったキミが、今頃何で友達を作ろうと思ったわけぇ~?」

「わたしと友達になりたいという人がおりまして。お恥ずかしながらどう友達になればいいのかわからなくて……」


女性店員は腕を組み、うんうんと頷く。


「えっと、ランディ君と言ったっけ。その人はキミと友達になりたいと言っていて、キミもその人と友達になりたい、でいいんよね?」

「は、はい」


女性は眉間に皺を寄せ「ん~?」と小首を傾げた後、


「はぁ~!? それって何の問題もないじゃ~ん! 話、終わりじゃ~ん!!」


と言って、目をくわっと開いた。


「いえ、大ありなんです! えっと、実はその方、だいぶ年上でして、気軽に接するなんてとても難しい問題なのです!」


ランディも負けずに目を潤ませ言い返す。


「そういう悩みかぁ~。イメージはアタシとおじいちゃんの関係を足して、花を引いた感じか~」


女性店員はなるほどなるほど~と指を顎に添えた。

足し算は何となくわかったが、引き算の方は何で花を抜いたのだろう。


「ま、ランディ君はいつも通りでいいんじゃないの? 馴れ馴れしくすんのは恥ずいって言えばいいの。友達なら分かったって言うからさ~」


あっさりとした物言いにランディは目を丸くした。

確かにそうかもしれない。仕事に取り組む姿勢のように考えていた。

仕事のようにやってみます精神ではなく、出来ないものは出来ないと言ってみてもいいのかもしれない。

だが一つだけ気がかりがある。

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