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第33話 兄からのアドバイス

あくる日。

元帥閣下の部屋の前には強化結界が施され、中に入ることさえ許されなかった。


次の日も次の日も扉を開けることは出来なかった。


ランディは立ち尽くす。

手にした魔法陣紙も魔石も役には立たなかった。


今まで毎日起こし切れたことはないし、いつも通りの時間経過。


――なのに、どうしてこんなにわたしの足が重いのだろうか。







「ほらよ。今回の納入分。中身を確認してくれ」


帝国軍寮の勝手口。

兄のジョシュアが魔導具一式をまとめた箱を渡した。


「ありがとうございます」


ランディはいつものように明るい笑顔を振りまく。

そう、いつものように。

協力してもらっている兄には心配をかけたくない。


そんな気持ちでいたにも関わらず、ジョシュアは片眉を上げ「ああ?」とドスを利かせる。


「どうしたお前、ちょっとキショいんだけど」

「…………」


ランディはそのまま(うつむ)いた。

随分な物言いだがランディの演技は見抜かれていた。

抜け目がないなぁと苦笑してしまう。


ジョシュアは腰に手を当て、ふっと息を吐いた。


「お前、ちゃんと食べているか?」

「おかげさまで」

「嘘はつくな。見ない間に細くなっているからな。何があったんだよ」


こうなるとジョシュアは折れない。

ぶっきらぼうだが彼なりに妹を気遣っているようだ。

ランディは目を泳がせながらも、観念したように口を開く。


「えっと、実は……仕事の上司、を怒らせてしまって……」

「それってお前が悪いの?」

「そう……そう、ですね」

「じゃあ、謝って終わりだろ。難しいことか?」


謝りたい相手が会ってくれない――という言葉は飲み込んだ。

元帥閣下のおはよう係の仕事は外部には漏らせない契約だ。

仕事の上司が部下と顔を合わせないなんてあるか、と疑問を口にされたら、だんだんと観念し始めて、全てを話してしまいたくなる。


唇を噛んで地面を見つめていると、ジョシュアは頭をぽりぽりと()いた。


「おい、思い詰めた顔をすんな。世の中そんなに単純じゃないって言いてぇんだろ。言える範囲でいいからお兄ちゃんに話してみ?」


ほら、と言われ、ランディはぽつりぽつりと話し始める。


「……そ、そうですね。例えば、ジョシュア兄さんを好きだという人がいるとします。わたしがその方に兄さんのプライベートを勝手に話していたり、お節介をかけたりしたらどう思います?」


「別に。オレは全然、悪い気はしねぇけどな」


「そうですよね……」


そういえばジョシュアは女性なら来る者拒まず主義だが、彼女を作っても長続きはしない。

そんな兄に相談したのは間違いだっただろうか。


「待て。今度は遠い目をするな。誰だって好かれる分には困りはしないだろ。何、そいつ怒ってんの? 潔癖すぎねぇ?」


――そうでもないと思いますが……


兄の軽いノリに少しだけに吹き出しそうになってしまったが、まだ気分は沈んでいる。


「うーん、そんなことで怒るクソ野郎が、お前が尽くそうする相手とは思えないけどな」


ジョシュアは鞄から水筒を取り出し、蓋を開ける。


「別に仕事が嫌じゃないんだろ?」


ランディはこくんと頷いた。


「いじめられているわけじゃないんだろ?」


肯定。


「雇い主のこと、嫌いじゃないんだろ?」


肯定。


「でもその方はわたしを嫌いかもしれない」


改めて口にすると悲しくなった。

もう二度と顔を合わせてくれないかもしれない。


ジョシュアは持っていた水筒に口をつけ、ぷはーと息を吐く。


「……怒った時ってさ、感情をそのまま吐いちまうだろ。今なら気分も落ち着いているだろうし、無理矢理にでも会ってみてさ、お前の言いたいことをぶつけてみれば?」


「無理矢理……ですか?」


「誰かに頼んで呼出すとか、誘拐とか、色々あるだろ」


「それって究極の二択すぎませんか。誘拐なんてしたらわたしの人生が終了してしまいます」


「嫌われていると思って会えないことに気が病むなら、いっそのこと会って嫌われているって分かった方が気持ちは楽だろ」


確かにそうだと、ランディは頷いた。


「それにさー、嫌いだから会いたくないんじゃなくて、お前をビビらせすぎたから会わないって可能性もあるんじゃねーの?」


「え……?」


「つい怒りすぎてビビらせちまって傷つけたから近づかないっつーか、近寄らせないって感じ?」


確かに怖かった。公爵令嬢の発言が元帥閣下の怒りに触れたせいであんな態度に出たのだろう。

こうして時間を置くとお互い冷静さを取り戻しているはずだ。

ランディと同じく元帥閣下の拒絶も後に引けなくて続けているだけなのかも知れない。


――それでも。


「もし会ってみて、やっぱり嫌われてたら?」


「切ればいい」


ジョシュアはまるで何でも無いことのようにさらりと言い切った。


「せっかく縋り付いて上げているのに、お前を許さないのならそいつが狭量ってこと。ならもう切り替えていくしかないぞ。お前の人生の一番はお前にしろ。何のために逃げたんだ」


穏やかな声色で、けれどわずかに責める。


「気持ちなんて商売も恋愛も同じ。ギブ&テイク。一方的じゃ報われないぞ。ランディ」


そう言い切ると、自分の言葉を反芻させたのか、気恥ずかしそうに眉を寄せるジョシュア。


ふふ、っとランディの口から笑いがこぼれる。

真面目になりすぎず、程良く適当な助言をくれるのは正直ありがたい。

目の端に浮かんだ涙が笑い涙になりそうだ。


「わたし、ジョシュア兄さんの慰め方、好きですよ」


「やめろ。お世辞はいらん」


「少し元気が出ました。」


そのランディの笑顔は今日初めて浮かべた笑顔よりも弱々しかったが、ジョシュアは満足した。

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