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第29話 解雇

「ランディさん。一体何があってブランズダル公爵家を敵に回したの」


帝国軍寮、家政婦長室。


カミラと廊下ですれ違った翌日、ランディは朝から急を要する内容だと家政婦長から呼び出されていた。

心当たりは大いにある。

ランディの額からは大量の汗。膝に手を乗せソファに座り、身体を縮こませていた。


「すみません……解雇でしょうか?」

「その言葉が出るってことは、やっぱり何かあったのね」


家政婦長はテーブルの上に紙の束をどさりと置いた。

ランディは手に取り一枚一枚、中身を確認する。


「カミラ様への不敬罪、脅迫罪、虚偽罪、性的なハラスメント。その罪状からアイヴァー様の従者として不相応だと書かれたランディさんへの退職勧告願い。ついでに私への監督不行届。よくもまあ、ちまちまとどうでもいい話を羅列したこと。ここに記載されている話は間違いないのかしら?」


全ての紙に目を通す。

宮廷の薔薇園と廊下で二回出会った程度だが、カミラをよほど怒らせていたらしい。


不敬罪は許可無く発言したこと。自ら名乗り出なかったこと。

脅迫罪はアイヴァーに会わせないと(すご)んだこと。

虚偽罪はカミラ自身がシャーロットやアイヴァーに対して失礼な発言をしていると嘘をついたこと。

性的なハラスメントはカミラを性的な目でじろじろと見たこと。


受取り手の話一つでここまで自分が悪人になれるのかと逆に感心してしまった。

反論したとしても、立場上、男が一に対し、向こうは侍女を含め女性が複数人。

性別も地位も含めて不利だ。


「はい、一応は……」

「ランディさんって我慢癖が時々出るわよね。それじゃあダメよ。あなたの観点の話も教えてくれないと、雇った私の見る目もないと言われてしまうわ」


ランディはカミラと出会った際の会話内容を家政婦長に話した。

おそらくは“おはよう係”の存在がそうさせているのだろう。

確かに礼は失していただろう。

だがこの時の会話が罪状として返ってくるとは思わなかった。

普段の元帥閣下とのやり取りが気軽すぎて、初対面の貴族に取るべき態度を忘れてしまっていた。


「だからなのね。もう一つおまけのアイヴァー様のおはよう係の推薦状」


更にテーブルに追加される一枚の紙。


「申し訳ありません。ここまで大事になってしまうとは露知らず」


家政婦長に迷惑をかけてしまった。

誰に雇われてここにいるのか。自分だけの失態では済まされない。


「いいのよ。こんなのは握りつぶせるんだから。私を誰だと思っているのよ」


一介の家政婦長ではないと勝ち気な発言だ。少し心強い。


「まあいいわ。とにかく一部の貴族って面倒くさいの。ランディさんもこんな大物をよく捕まえたわね。アイヴァー様のおはよう係やシャーロット様の話し相手役も射止めたんだからそういう才能があるのかしらね。少し感心したわ」


「それって褒められているんでしょうか」


「まあ、今後はこういう場面に遭遇したら報告してちょうだい」


「はい」


いくら仕事外で起きた話とは言え、上流貴族に目を付けられるということは、ゆくゆく帝国軍寮にも追求が及ぶかもしれない出来事だ。

気落ちしているランディに対し、家政婦長はからっと笑う。


「さて、結論から言うとランディさんを帝国軍寮からは解雇しないわ」

「え、いいんですか?」

「少し条件が変わるけれどね」


そう言いながら家政婦長はウィンクをした。


「素直にはねるとますますヒートアップするのが、あのブランズダル家なのよね。表向きはおはよう係を下りてもらうわ。しばらくは裏方の仕事をしてもらえるかしら。後回しにしていた地下倉庫の整理や荷物運搬の仕事もそこそこあるのよ。ちょうどいい機会だわ」


すると家政婦長の部屋をノックする音が聞こえた。


「あらあら、私達をお呼びと伺いましたぁ」

「まあまあ、どうしましたぁ?」


と、よくランディを気遣ってくれる双子の使用人が登場した。

今日も明るくマイペースで、見ているだけで元気をもらえる気がした。


「イーダさん、ニーナさん。訳があってランディさんにはおはよう係を一時的に抜けてもらうことにしたの。彼に裏方の仕事を教えてくれるかしら?」

「あらあら、いきなりな話ですねぇ」

「まあまあ、ランディったら誰かさんの機嫌でも損ねちゃったぁ?」


双子は顔を覗き見た。


「……えへっ」


ランディは頭をかいて誤魔化した。


それから二人から掃除の仕方や道具場所の説明を受けながら、地下倉庫に向けて廊下に出た。


三人がいなくなった家政婦長室が静けさを取り戻す。

バタンと閉まるドアの音が妙に響き渡った。


「さて、公爵令嬢様のお手並みを拝見しましょうか。案外上手くいったりしたら、ランディさんの今後はどうしましょうかね」


家政婦長は大きなため息をついた。

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