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第27話 おはよう攻防戦(勘違い回)②

――好きじゃありません。


と、答えそうになった。


それは逆に失礼ではなかろうか。印象がよくない。

では何と言えばいいのか。“普通です”? わざわざそれを言葉にしてしまうなんて角が立ってしまう。言われた相手の気持ちを考えると無神経であろう。


ランディの顔色は赤くなったり、青くなったりと(せわ)しない。


もういっそのこと――


「……す、すみません。今のは聞かなかったことにしてください」

「今更?」

「ついポロっと口にしただけなので、深い意味はありません」


これ以上追求されたくないと立ち上がり、勢いよく直角に頭を下げる。


「なんか歯切れが悪いね。僕に言いたいことがあるなら言った方がいいよ」

「……元帥閣下のことは尊敬しています」

「うわー、まるで取ってつけたようなセリフー」


何も言い返せなくて乾いた笑みしか浮かべられない。

元帥閣下はランディをじぃと見つめ、考え込んだ。


「そうだね……好き、というか、気になる子はいるかな」


ランディはパッと顔を上げた。

お調子者かもしれないが、これから親しい人間を見つけられるヒントになるかも知れない。


「ど、どういう方ですか?」


元帥閣下に関わる人物は極端にいない。一体誰なのだろうとランディは瞳を煌めかせた。


「そうだなぁ。あえて言うなら、自分を差し置いて他人のことをよく考えて行動したり……しているかな」


つまり優しい人。

具体的に名前を上げないのは、もったいをつけているのだろうか。

ランディは視線をさまよわせる。


――もしや皇女殿下と一致するのでは?


ランディが初めて会った時、公爵家の令嬢から自身を助けてくれた。

さらに何の利益にもならないのに怪我も治してくれた。

保護欲もかき立てられる見目の可愛らしい方でもある。殿方は放っておけないだろう。

皇帝と会う際の接点もある。だが情報が不足している。


「ほ、他には?」

「あとは、うーん。修羅場に慣れていそう……とか?」

「!?」


――あ、当たっているかも知れませんね。


特定できないよう遠回しに教えてくれるが、要素は揃っている。

カミラという公爵令嬢からも軽視され、兄姉からも蔑まれているという。

シャーロットにはその気はなくても、何かしらの衝突は多いだろう。


平民でも優しく接してくれた彼女であれば、元帥閣下と親しい間柄になれるのではないか。

宮廷での会話も楽しかった。


もし親しくなって恋人に発展したら、きっと毎日起きるだろうし、起こすたびに危険な目に遭うこともない。美男美女が揃った姿は目の保養にもなる。


「あの、差し支えなければお名前をお伺いしても?」

「それは情緒がないでしょー」


のんびりした口調で躱される。答え合わせがしたいのに表立って言う気はないらしい。


「もしわたしで、その気持ちのお手伝いが出来そうならご協力いたしますが……」

「ああ、そういうのはいいよ。どうこうなりたいわけじゃないし、まあ、君が出来ることはないかな」


含みを持った言い方。

相手がシャーロットだとして、一緒にいたいとは考えないのだろうか。

彼女が元帥閣下に興味を持っている様子はあった。

気持ちを伝えれば嬉しがる気もするし、恋人になったとしても誰も反対しないだろう。

何か障害でもあるのだろうか。


「もしかして……年齢差、ですか?」

「だからそういうのじゃないんだって。見ているだけで面白いからそれでいいの」


しかし気になるということは、好きになりかけているという意味だ。

何でも持っている元帥閣下なら不安に思うことなんてない。

アプローチすればきっとうまくいくはずなのに、なぜそれでいいと思うのだろう。


「好きな人を見てるだけいいって、どんな心理なんですか?」

「え?」

「わたしはこの歳で初恋もまだなのですが、恋がどういうものかよく分かりません。一緒にいたいって気持ちにならないことが不思議です」

「そっかー、うーん、そっかー」


元帥閣下は何かを納得した口調で(うなず)くが、声色がどこか落ち込んでいるようだった。

当たり前のことを聞かれて、呆れただろうか。

ランディがおろおろしている様子を見て、元帥閣下は少し困った顔で笑った。


「それね、二種類の感情があるんだよ」

「二種類?」

「“見ているだけで幸せだから告白までには至らない”って気持ちと、“本当は告白したいけど振られたら見ることさえ出来なくなるから言わない”って気持ちがあるの」

「元帥閣下は振られないと思いますけど……」

「過大評価だねぇ。まあ僕の感情としては前者だから、気にしないでとランディには言いたい」


これ以上は答えないからと目を(つぶ)って、ベッドを降りた。


――どうしてでしょう。胸の奥がきゅっとなってしまうのは。


複雑な感情が低徊する。自身の申し出は気軽過ぎてただろうかと、少し自己嫌悪に陥ってしまう。


「すみません。分をわきまえない発言でした。改めてお聞き流していただけると助かります」

「いいよ。ランディも誰かを好きになれるといいね」


それから何も無かったようにランディは、朝食にするか朝風呂にするかと話題を切り替えた。

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