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第26話 おはよう攻防戦(勘違い回)①

「はあぁ~……」


元帥閣下は今日も今日とて目覚めが渋い。

ランディは元帥閣下の部屋で深いため息をついていた。


――皇帝陛下、もう一回お会いする約束をつけてくれないでしょうか。


勤務初日からの起床ペースを考えると、今までは四~六日の不安定なペースだったが、最近では三日に一回のペースになっている。

一応は順調と言えるだろう。


ただ起こし続けていて分かったことがある。

元帥閣下は起きてもやることがない。

シャーロットに様子を聞かれてから、起きた後を観察していたが、基本は部屋の中でじっとしていることが多い。

やりたいことが無いから起きないのではないか。


立場上は元帥の地位にいるが、隠居同然の身だ。


望めば何でもやれるのだろうけれど、何もしていない。趣味もないのだろう。


今まで起きた朝だけは一緒に過ごしているが、好きな物は知らない。

食事の希望も無ければ、出された物は全て平らげている。


長い年月を生きている方だ。

人生の楽しみがもう無いのかもしれない。


なら誰かと一緒に探せば、起きる楽しみが生まれるのではないか。

友人や恋人はいないのだろうか。今の暮らし方だと身内はいないようだ。


これまでに皇帝陛下と会う以外で親しげにしている人物を見たことが無い。

聞いた話の限りだと、打算や見栄で近づく貴族やその力を崇拝する魔導士が周囲に多いらしい。

今や腹を割って接する人がいないのだろう。


だが世の中は広いのだ。


もし自身が貴族という立場なら何かしらの催し物を開いて、出会いの場が作れたら、

気の合う相手が見つけられるかもしれないのに。

残念なことにランディでは、財力も立場も人望も無い。


腕を組んで考える。

元帥閣下と純粋にいてくれる相手。一番いいのは離れる理由の無い家族を作ることだ。

その前に恋人をつくるところから始める必要があるが。


好きな相手が出来れば、ランディの仕事が無くなるかもしれないけれど、逃亡中の身としては長々と同じ場所にはいられない。

それはちょうどいいタイミングになるのかもしれない。


ランディにとって悪い話ではないのだが、なぜかほんの少し気落ちしている自分がいた。

名残惜しいのだろうか。家政婦長や使用人仲間もいい人達だ。

ランディは頭をふるふると振った。


――まずは元帥閣下にどういう人物が好ましいのかを聞いてみましょうか。


ベッドに近づき、まじまじと寝顔を見つめた。


相変わらずの端正な面差しに、流水のような美しい髪の流れ。

閉じた瞼から生えるまつげは長くて、まるで人形のようだ。

その一方で寝相はセクシーな大根の抱き枕に顔を寄せて、すぴすぴと寝息を立てている。

謎のアンバランスさにも関わらずしっかりと情景は調和している。不思議なことに。

そう評していると、


「――今日は起こしてくれないの?」


ずささささーーっと煙を立て、ランディは壁際まで後ずさった。


「びびび、びっくりしました……っ!」


完全に不覚だった。

あっさりと目覚めを見たのは二度目だ。普通に起きる姿にはどうしても慣れない。


「ん、びっくりしたのはこっち」


元帥閣下は額を押さえながら、むくりと起き上がった。

不意打ち過ぎて心臓がバクバクしている。起きるなら起きると言って欲しい。


「起こさずにだいぶ僕のことを見ていたようだけど、何かな。殺す隙でも狙ってた?」


口調はいつも通りのおっとりさ。

別に狙っても構わないといった余裕があり、それが逆に不穏さが見え隠れしている。


「あはは、まさか~」


当たらずとも遠からず。ランディは目を泳がせた。

アイヴァーは冗談のつもりで言ったのだが、普段と違う態度に(いぶか)しさを覚える。


「ふーん、じゃあなんで?」


元帥閣下は首を傾げた。

ランディは顔に笑みを貼り付け、どう誤魔化そうか頭をフル回転させた。


「……えーっと……す、好きな人はいますか?」

「――ん?」


先ほど考えていたことをつい口にしてしまった。


――いやいやいや、これじゃまるで自分が告白しているみたいじゃないですかっ!


ランディは顔に両手を当て、うずくまった。


急にこんな質問はおかしいだろう。

まずは友人となり得るような好ましい人物像が聞きたかったのに、ド簡潔に尋ねてしてしまった。

これではまるで駆け引きのように“好き”だと伝えているようなものだ。

もし元帥閣下が気まずく思ってしまったら、今後の接し方がギクシャクしてしまう。


「君、それってだいぶ、明け透けじゃない?」


今度は冷や汗が垂れる。

傍から見れば必死に誤魔化そうとしているようにしか見えないだろう。

その無表情は素直な疑問なのか、不快感があるのか、好意的に捉えているか。

どういう感情に向いているのだろう。どちらにせよ否定しなくては。


ランディはパタパタと手を振り、


「えっと、あの、違うんです。私は元帥閣下のこと……」

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