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第19話 おはよう攻防戦(……あれ?)①

今日はいつもと同じ朝だった。

青い空に白い雲。小鳥のさえずりも聞こえてくる。

ランディはいつものように戦闘態勢を整え、扉をノックしたが――


「どうぞ」


と、耳を疑いたくなるようなはっきりとして返事が聞こえた。

おそるおそるドアノブをひねる。


窓から入る風に揺れる髪の毛。

ベッドの上には脱ぎ散らかした寝間着。

ランディが視界に入ると、その人は目を細めた。


間違いなく元帥閣下は起きていた。


手持ち無沙汰感に戸惑うが、

実は斬新な寝ぼけである可能性も考え、距離を取りながら声を掛けた。


「おおおおおお、おはようございます。もう起きていらっしゃったのですね」

「まあね。今日は宮廷に呼出しされてた日だから」

「ええっ!? そういう日は起きられるのですか!?」

「約束は守るって決めているから」

「そ、そうでしたか。着替えのお手伝いを呼びましょうか?」

「いや、そういうの面倒くさいし――」


彼はチラリとランディに顔を傾ける。

ランディはランディで、彼が羽織っているシャツから素肌が覗いているのに気づき、

ボタンを留めるくらいならいいかと手を伸ばしかけた。

すると、どこからともなく鏡台が現れた。

元帥閣下がすたすたと鏡台前の椅子に座ると、ランディを手招きして――


「髪、結って」


そういいアンティーク調の木箱を手渡してきた。


「ええ~、小心者に何をお願いしているんですか」

「僕のおはよう係を続けていられるんだから小心者ではないでしょ」

「うぅ……なら家政婦長を呼びます」

「あの忙しい人をこのくらいで? 待っている時間が勿体ないなぁ。やっぱりランディが結ってよ」

「…………失敗しても知りませんよ」

「誓約書にも書いてあったでしょ。この部屋での不敬は咎めないって」


口を尖らせたランディだったが、

元帥閣下から受け取った木箱を開けると瞳をキラキラと輝かせた。


「はわわっ、こんなに綺麗な髪飾りたくさん……!」


蝶や花、幾何学的な模様のバレッタ、リボン、ヘッドドレス、カチューシャ、ピン。

デザイン性にも溢れシンプルなものからゴテゴテとしたものまで

様々な形の髪飾りがところ狭しと積まれていた。

まるで海賊が集めた宝箱のようだ。

あからさまに高価そうな宝石や貴金属も使われているのに、

乱雑に扱って傷がつかないのだろうか。内心ハラハラする。


「欲しい?」

「いえ、要りません。これは元帥閣下のための最高級品ですから」

「ランディにも似合うと思うけどな」

「庶民が手にしたところで気軽には身につけられません、勿体ないですから。でもこうしてみると眼福ですね~」


慎重に中を探っていると、

琥珀色の大きな宝石が嵌められた髪留めを手に取った。

透き通っているのに艶っぽく落ち着きもある。

きっと元帥閣下に似合うだろう。


「こちらでよいでしょうか」


ランディは、元帥閣下の前に選んだ髪留めを差し出した。


「なんでそれ選んだの?」

「あれ、気に入りませんでしたか?」

「ああ、いや。昔、仕えていた人たちはよく青色のアクセサリーを選んでいたから」


元帥閣下は不思議そうに小首を傾げた。

薄氷色の髪がさらりと揺れる。その色を見てランディは軽い笑みを返す。


「確かに青は髪色に合わせられて調和がとれますが、わたしは逆にアクセントが欲しくて琥珀色を選びました。補色といって互いの色を最も目立たせる組み合わせで、華やかに魅せる効果があります。言うなればスパイス加えたって感じですかね。同調色より持っていない色を身につけた方が楽しいじゃないですか。それにほら、気分もメリハリが出ませんか?」


鏡越しで元帥閣下の頭に髪留めを合わせる。


そこで、はたとランディの動きが止まった。

いつもの職業病と言うべきか、つい興奮気味にプレゼンをしてしまった。

思わず調子に乗ってしまったと赤面をしてしまう。


「……ここは元帥閣下の気分を聞くべきでした。色を選ぶというのは本人の気分に合わせるべき……なのです」

「なんで急にテンション下がっているの」

「自分が子供っぽいかなと思いまして」

「僕がお願いしたんだから気にしなくていいのに」


ランディは元帥閣下の髪に櫛を通す。

ずっと撫でていたくなる長くて艶のある髪。

とても実年齢が千を超えているとは思えない。

むしろずっと寝ているのにこの髪の毛のキューティクルはどうなっているのか。


――そういえば行商先の子供たちにもこうやって髪を触っていたなぁ。


ピン留めや、リボン、ヘアバンドを売った時に、

サービスで色んな女の子の髪をアレンジしていた。

凝った髪型にすると売れ行きも良かった。


子供達の笑顔を思い浮かべると自然と鼻歌を口ずさんだ。


「君ってさ、僕を起こす仕事飽きない?」

「それどころか毎日緊張のしっぱなしです」

「ふーん。確かに僕を起こす子は恐れ多いと辞退する小心者か寝込みを襲いたいと言う野心家の二択なんだよね」

「ええ、それはニーナさんとイーダさんにも聞きました」


――でも、気持ちは分かるかもしれない。


前者はどんな行動が不敬にあたるか常に不安になるし、

後者は既成事実を作ってまでも手に入れたいと目論んでいるのだろう。


「だから君は特別に見える」


ランディの手が止まる。


どういう意味だろう。ここは照れるところだろうか。


今は元帥閣下の後頭部しか見えないから、表情は(うかが)い知れない。

まじまじと鏡越しで確認するのも気が引ける――深い意味は無いだろうけど。


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