第17話 買い出し①
昼刻。心地のいい陽気が満ちる帝都の第一商業区、大広場。
食材や雑貨など日用品を売っている店舗や露店がところ狭しと並んでおり、
大勢の人で賑わっている。
その中の一組、
メイド服を着た顔がそっくりな二人と、
サスペンダーとソックスガーターを身につけた使用人服の少年はやや注目を浴びていた。
「あらあら、男の人が手伝ってくれるのは助かるわねぇ」
「まあまあ、仕事が楽だわぁ」
ランディと共に歩くは、帝国軍寮の使用人である双子のニーナとイーダだ。
頭の高い位置にお団子を束ね、清楚に身繕いもしているのに、
胸が大きく、くびれもありセクシーな体型をしている。
通りすがりでさえ見惚れるほどの美少女が二人もいるのだ。
それだけでも目立つというのに、
その二人に挟まれたランディは身長の二倍もある荷物を持たされていた。
今日は元帥閣下を想像以上に早めに起こせたので、午後に空き時間が出来た。
家政婦長にお願いし、他の仕事を回して貰っていた。
その結果、買い出しの手伝い――いわば荷物持ちに駆り出されていた。
全ては自立資金を貯めるため働けるうちに働く。
幸い体力はある。
ただ――自分の身長の二倍の高さの荷物を持たされるとは思わなかったが。
おそらく双子が本来持つであろう購入物の一切を渡されているのだろう。
双子はご機嫌で同じ鼻歌を口にしている。
「あらあら、ランディは毎日もっと少し早く元帥閣下を起こせないかしらぁ」
「まあまあ、本当ねぇ。そしたらずっと荷物持ちが楽になるのに……」
「毎日この量をですか……お二方のお役には立ちたいのですが、元帥閣下のお目覚めに関しては
傾向と対策がさっぱりです」
「あらあら、ランディったら、いい子ね」
「まあまあ、流石、帝国軍寮の唯一の花だわ」
「なんですか、それ。花に例えるならニーナさんとイーダさんの方ですよ」
双子のごきげんとは裏腹に、ランディはやや意気消沈していた。
もちろん、たくさんの荷物をもたされたことではない。
元帥閣下を起こしきれない憂鬱さにある。
早くて三日目、遅くてデッドラインギリギリの六日目のラインをうろついている。
元帥のその日の夢見だったり、睡眠の深い浅いによるから
気分次第で起こす方法がころころと変わる。
「あらあら、でもランディはよく頑張っているわよねぇ」
「え?」
「まあまあ、元帥閣下の元で働く子は善意でも悪意でも、長くて十四日勤務が限界よぉ」
「どうしてですか?」
「あらあら、前者はプレッシャーで心が折れる。後者は返り討ち。たまに既成事実目的の子も出てくるけど、骨抜きにされて使い物にならなくなるの。一体、何されているのかしらねぇ」
双子は同時に首を傾げる。
「そうですねぇ……」
遅れてランディも首を傾げた。
「まあまあ、つまりランディは貴重ということよぉ。家政婦長の選別眼はさすがねぇ」
「あらあら、神経が図太いのはいいことよぉ」
「それ、褒められているんですか?」
「「あらまあ、もちろんよぉ」」
きゃいきゃいと騒ぐ三人がいる中で、不快な笑い声を上げながら近づく男がいた。
「うひょぉ~う、激マブが二人もいるじゃねぇの!」
腰に携えたサバイバルナイフ、革の胸当て、
身なりから希少な財宝を探し出す冒険者のようだ。
顔は真っ赤で息が臭い。昼から泥酔しているようだ。
「あらあら、激マブなんて死語ですけどぉ」
「まあまあ、生きている時代がきっと違うのよぉ」
双子の顔は柔和な笑みを作っておきながら、小声での会話はなんとも辛辣である。
「なあ、何でメイドなんかやってんの? そんな仕事よりおれ達を一晩満足させられたら銀貨一枚やるぜ?」
双子の肩を抱き寄せ、ニヤニヤと下品に口角を上げる。
「止めとけよ」と後から追ってきた仲間が慌てて窘めるが、聞く耳を持たない。
呆れと嫌悪。双子は眉間にしわを寄せた。
「あらあら、手を離してくださるぅ? 仕事中なんですけどぉ」
「まあまあ、私たちがどこのメイドか知ってて声かけているのぉ?」
二人の不穏さがだんだんと表面化する。
「はぁ!? それがどうした。おれらは世界各国を渡り歩く冒険者様だぞ!?」
財宝がある場所に生息する巨獣を倒せるほど強いし、金も持っていると言いたいのだろう。
メイド服を着た女性は、権力者の使用人である場合が多い。
しかも双子の袖には帝国軍の紋章がついている。
恫喝すれば、彼女らのバック――つまり帝国軍が黙っていない。
普通に考えれば不遜な態度を取る者はいないのだが、言動から察するに他国出身なのだろう。
双子も強気な態度だが、わずかに身体は強張っている。
その様子を見たランディは荷物を地面に置き、双子の一歩前に出た。
「乱暴は止めてください」
「ああん!? なんだぁ? ひょろっちいくせに冒険者様に楯突こうってか!?」
「そうです。彼女達が困っているじゃないですか。それにわたし達は仕事中で、あなたにお付き合いは出来ません。冒険者を名乗るなら雰囲気くらい察してください」
冒険者の男はランディのセリフにたじろいだ。
子供に諭される屈辱。
しかし自身のプライドが許さないのか、引くに引けなくなり、ランディの肩を小突いた。
するとランディの身体は高く宙に浮いた。
重力に従うまま、地面に激しく叩きつけられ、口から血を吐いた。