第14話 ランディの毎朝②
「なよっているくせに。何でお前みたいな貧相なヤツがアイヴァー様のお世話係なんだよ!」
すれ違った際、わざとらしい大声をかけられる。
魔導服を着た男達が目の端に映った。
無視を決め込んだランディだったが、相手はそれが癪だったのか持っていた杖を掲げ、呪文を唱えた。
すると近場にあった椅子がランディめがけて突進をしてきた。
不意打ち。脛に思いっきり当たり、じんじんと痛みが広がっていく。
今まで嫌味はあっても、直接的な攻撃はしてこなかったので、油断した。
こうなると、さすがに黙ってはいられない。
ランディは声の主の元へつかつかと近づいていった。
「お言葉ですが、元帥閣下に対して仕事以外の感情を持ち合わせてないからですよ」
「はあ!?」
「崇拝されるのは構いませんが、公私混同は止めてもらえますか。だから尊敬するアイヴァー様に近寄れないのですよ」
半分は双子を侍らせている嫉妬もあると思うが、さすがにそれは言わないでおいた。
しかし忠告も虚しく、
魔導服を着た男達はランディの反抗が嬉しいのかニヤニヤと顔を歪ませた。
「なあ、お前。本当は女なんじゃねーのぉ?」
「きっとそうに違いねぇ、脱いでみろよ」
と、今度は胸ぐらを強く捕んできた。
ランディのコンプレックスを揺さぶろうとしているのだろう。
たしかに華奢であることは男としては恥ずかしいのかもしれない。
だが“女”と疑われて、怯むランディではない。
双子の前でこの発言が出来るということは、一応“男”とは認識しているのだろう。
脱いで身体の貧弱さを貶したいのかもしれない。
さすがにそこまで舐められたくはない。
「じゃあ脱がしてくださいます?」
「は……はあ!?」
ランディの発言に、逆に男達の方がうろたえた。
「男を剥く趣味なんてねぇーよ!!」
「でも疑っておいでだから――」
ランディは一人の男の手首を掴み、自身の胸へと引き寄せた。
「おい、なにすんだ。おま……っ、おおう!? 胸……意外に厚みがあるな……」
「これでおわかりでしょう? それともこの食堂でストリップショーを開きます? ああ、そうなると先輩に悪い噂が立ってしまいますかねぇ。帝都中に」
目を細め、挑発的に口角を上げる。
暗にそんな真似ができるのなら全身全霊で言いふらしてやるぞ、寮どころか国にも居づらくしてやるという脅しが込められている。
「いや、いい! くそ、行くぞ!!」
男達は顔を真っ赤にし、そそくさと逃げていった。
これでしばらくは妙なちょっかいは無くなるだろう。
ランディは腰に手を当て、ため息と共に顔を床に向けた。
――あぶなぁぁぁぁあああああ!!
やり過ぎたとは反省するが、このくらいしないと疑われ続けるだろう。
ランディは使用人服の下に、マッスルタンクトップを毎日着ているのである。
胸部コルセットの上に
大胸筋、肩の筋肉、上腕二頭筋にあたる部分に柔らかいパッドが入っており、
着用するだけで厚みのある筋肉がついているように見えるのだ。
ランディの場合は、ベストを着てるので胸圧ラインは目立たないが。
これはスバエ商会が演劇役者や細身の男性用に売っていた品物だ。
服の上からでも身体のつくりが頑丈だと見せるためのフェイク。
すぐにバレるようであれば購入者からクレームが出るので、なかなか頑丈に作られている。
もちろんランディも一人行商の時には随時着用していた。
人通りの少ない場所は盗賊に襲われる可能性が高い。
更に女だとバレたら、物品が盗まれるだけでは済まない。
ランディ自身が奴隷商や娼館に売られるという面倒くささも出てくる。
それなら男らしく見せかけた方が防犯につながる。
口調も元々丁寧語しか使わないので、なかなか女であることは見破られにくい。
「あらあら、ランディ、今のはまずいわぁ」
双子の一人、イーダがランディの肩を叩いた。
「す、すみません。わたしってば挑発的でしたね」
「まあまあ、そうねぇ。あの男、もしかしたらそのうちランディを襲ってくるかもしれないわねぇ」
「ご心配ありがとうございます。わたしは魔方陣紙が使えますしその時は撃退しますよ」
「あらあら、そんな物理攻撃的な意味じゃないわぁ」
「まあまあ、イーダ、そんな説明は不要よ。ランディにはまだ可愛くいてほしいものぉ。何かあったら私達でフォローしましょぉ」
「……?」
頬をかくランディに、双子は憂いた瞳で見つめてくる。
双子との会話には齟齬があるようだが、なぜかこれ以上説明はしてくれないらしい。
――いっそのこと男に生まれたら、こんな目にも……隣国に逃げることもせずに済んだでしょうか。
ふっとランディは窓の外を見つめた。
見上げた空は雲一つない鮮やかな青をしていた。おかげで、これ以上気持ちが落ちることは無かった。




