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78.冤罪

 フィリアが城館に来てから1週間。ようやく家に帰る許可が下りた。

 家は無事だろうか。燃やされてないといいけど、と物騒なことを考えるのには訳があった。



『あの冬来虫事件は、魔消しが起こした自作自演』



 そんな噂が街中で流れているらしい。フィリアも昨日聞いたばかりだ。


 その噂をわざわざ教えてくれたのは、どこかの隊の副隊長補佐で、冬来虫による腫瘍が大きくなっても魔消しには頼りたくないと最後まで抵抗していた男だった。


 団長より少しだけ小さい腫瘍が2つもあり、その男を引き摺ってきた同僚曰く、魔力の総量も減り続けていると言われたそうだ。


 本人が別にいいというなら放置すればいいのにとも思うが、ぶすっとした顔で腕を出されたので魔消しをした。もちろん、「一生憶えてろ」と心の中で呟くのも忘れずに。


 アルグレックやミオーナに、あの時感じていた醜い感情を否定されなかったことで、フィリアの気持ちはとても軽くなった。


 だから心置きなくそう思っていたことがバレたのか、副隊長補佐の男はフィリアを睨め付けたあと勝ち誇ったように言ったのだ。



「今街でどんな噂が流れているか知ってるか? こんなことが起きたのも魔消しのせいだ、魔消しが起こした自作自演に違いないって、みんな言ってるぜ!」

「はあ」

「……っ、だから! 捕まるまで、精々怯えて暮らすんだな!!」

「はあ」


 まともに取り合っていないフィリアを見て、副隊長補佐の男は大きな足音と共に出て行った。


 もしその通りだったら、捕まるまでに証拠隠滅してしまうと思うけれど。まあ実際は違うのだから返事の仕様がないのだ。


 噂自体はどうでもいい。ただ、あのアイス屋のバリーおばさんや肉屋の号泣店長、顔見知りの娼婦たちは信じてないといいな、と思った。




 帰宅が許された時、団長は誰かに送らせようと言っていたが断った。あの3日間以外は回復薬も飲まず、体調もかなり良くなった。


 身体だけではない。心もかなり軽い。


 ミオーナが教えてくれた食堂の料理長を始め、何人もの人に声をかけられた。それはお礼だったりお詫びだったり挨拶だったりと様々だが、明らかに「魔消しへの視線」とは違うものだ。


 戸惑いながらも安堵する。意地も無駄じゃなかったと。


 そのうえ懐までかなり潤いそうなのだ。これで浮かれないはずがない。朝から足取り軽く帰宅すれば、家も無事だった。


 ほっとしたままベッドにダイブすると、フィリアはすぐに寝入ってしまった。やっぱり自分の家が一番安心する。




 甲高い鐘の音とけたたましく扉を叩く音で目が覚める。ぼんやりと窓に目をやれば、まだまだ外は明るかった。



「おい魔消し!! いるのは分かってる!!」

「今すぐに出てこい!!」



 穏やかではない声色に、フィリアは怪訝に思いながらドアを開けた。そこには騎士が数人立っていて、その内のひとりが首を傾げたフィリアの胸ぐらを掴み、そのまま外に殴り飛ばした。


 左頬を抑えながら混乱したフィリアに、殴った男は嫌な笑みを浮かべた。他の騎士たちはフィリアのことなど気も留めず、ずかずかと家へ入っていく。



「通報があった。お前が魔虫の親玉を隠しているってな」

「は……?」

「言っただろ? 捕まるまで精々怯えて暮らせ、って」



 その台詞には覚えがある。この男は、昨日噂を教えてきた副隊長補佐の男だ。言い返そうにも、口の中が切れて痛い。


「あったぞ!! 冬来虫の王虫(キング)女王虫(クイーン)の入った瓶が!!」

「は? なんで……ぐっ!」

「ははは! これで決定だな!! こいつを縛っておけ!!」


 蹴り飛ばされ、荷馬車に放り込まれる。抵抗する間もなく拘束され、すぐに馬車は動き出した。



 何もしていないのに。完成に濡れ衣だ。でも誰が? さっきの副隊長補佐の男か?


 混乱したままのフィリアを乗せた馬車が一瞬停まり、再び動き出した。どこに連れていかれるのか。あの半地下のような牢屋だろうか。冤罪で、あんなジメジメとした暗いところに入れられるのか。


 フィリアの頭の中に、アルグレックの顔が浮かんだ。




 とっくに城館に着いていてもおかしくはないのに、馬車はまだ動いていた。揺れた帆から覗く景色は明らかに夕焼け色をしている。

 それからしばらくして、ようやく馬車が停まった。



「降りるぞ」



 フィリアは目を瞠った。帆を開けて声を掛けてきたのは、フィリアも知っている男だった。





 一方その頃、城館では騒ぎになっていた。


 第三部隊の副隊長補佐デニスは、険しい顔の団長を前にして背中に汗をかいていた。


「どういうことだ。説明しろ」

「はっ! ……私は魔消しの女があの冬来虫を作り出し、その王虫と女王虫を隠し持っているとの報告を受け、捕縛に向かいました」

「ほう? 第三部隊隊長のバースからは止められたと聞いているが?」

「そ、それは……」


 デニスは言葉を詰まらせた。団長の横にいる隊長のバースは、魔消しを受けてからすっかりあの魔消しの女に絆されてしまった。


 それまでは自分と同じように、団長が魔消しの女のことを気に掛けることを苦々しく零していたのに。


 だから自分があの魔消しを捕まえて吐かせれば、隊長も元に戻るどころか、これ以上の出世まで狙えると思っていた。それなのに。



「もちろん裏付けは取ったよな? まさか騎士ともあろう者が、確たる証拠もなしに乗り込んだ訳ではあるまい」

「……」



 鋭い視線に、ごくりと喉が鳴る。隣で鬼のような剣幕でこちらを睨む隊長ですら優しく見えるほど、恐ろしい威圧を感じる。



「それで? 通報があったと言った者は? ペアの魔虫を見つけたと言ったのは?」

「それは……」



 そう言われてようやく気付いた。両方同じ人物。同僚のマイクだ。

 背中に嫌な汗が流れる。有志を募って行こう、手柄を立てようと背中を押してくれたのも、彼だ。



「ペアの魔虫はとっくに死んでいた。それに、それが置かれていた場所は、全く使われていない、埃を被った部屋だとも聞いている」

「……」

「最後に一番聞きたいことを聞こう。フィリアはどこだ? なぜ城館(ここ)に来ていないんだ?」

「……っ」



 そんなこと、こっちが聞きたい。縛っておけと言ったはずなのに、いつの間にか荷馬車ごと消えていたのだ。もちろん、マイクも。


 どうして俺がこんな目に。伯爵家の次男であるこの俺が、こんなところで終わるはずはないのに。

 魔消しは悪のはずだろう。


 だからずっと魔消しを受けることを拒否していたのに。そしたら魔力総量が減っていると言われ、副隊長補佐まで外される話があると聞いて焦ったのだ。



 待て。忠告してくれたのは誰だったか。


 それも全部、マイクだったじゃないか。



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