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お買い物デートwith盗賊

 拠点となる少し大きな街に着き、僕は本当にティアとお買い物デートをしていた。


 街の中央広場では市が開かれていて、ガヤガヤと沢山の人が行き交っている。横を通り過ぎる人たちが、ティアのスラッとした体躯と愛嬌のある笑顔に見惚れている。


 ティアはいつもニコニコ楽しそうにしているので、それだけで一緒に買い物をする相手として好ましかった。僕は久しぶりに楽しい気持ちになれたので、デートに誘ってくれたティアに心の内で感謝した。


 彼女がおもむろに口を開いた。


「私ちょっと前に、優しいだけの役立たずなんて要らないって話したけどあれ、撤回するね」


「え?」


「優しいだけで十分役に立ってるよシオくんは」


 僕は嬉しさ半分恥ずかしさ半分で面映ゆくなった。鼻先がむず痒くなったのでそっと掻いた。

 ティアは、まるで世間話でもするような軽い感じで僕を褒めてくる。


「庇ってもらってなんていうか、ぎゅ~って嬉しかった。私ってさ、貧乏育ちなんだよね。嫌われてるのが当たり前の生活だし。だからね、うまく言えないけど嬉しかった」


「……そ、そうですか……その……あの、こちらこそありがとうございます」


「え?なんで?」


「いや……わざわざ言葉にして褒めてもらえるっていうのは、嬉しいですから……」


 これを言うためにデートに誘ってくれたんだと思うと、こちらこそと感謝を述べたくなる。彼女は他人にもっと冷たい人だと思っていた。でもそれは全然勘違いだったんだなと思い知る。


 彼女は僕のお礼を聞いて少しキョトンとした後ああ、と微笑んだ。


「そういえばシオくんは人の感謝に飢えてるんだったね。偉いよシオくんは。頑張ってる頑張ってる」


「もう!日記のことは忘れてくださいってば!」


 そうやって揶揄われるのも、今はそんなに嫌じゃなかった。自然と口角が上がってしまう。


 なぜか瞬間脳裏に、幼馴染ソィス神官メルがジトっと睨んでくる想像がよぎって慌てて追いやった。いやいやそういうんじゃないから!てかソィスはともかくメルはなんでだよ。


 僕がうぬぼれたことを考えて恥ずかしくなっていると、ティアは少し俯いてそっと呟いた。


「シオくんはほんとに偉いと思う。勇者パーティーにふさわしいと思うよ。……それに比べて私はな~……」


「え、それに比べてなんですか」


 何を言うつもりなのかと僕が反射的にティアの方に顔を向けると、ちょっと気まずそうに笑って彼女は言った。


「いや~それに比べて私は勇者パーティーにふさわしくないなって。だって私盗賊だよ?単なるコソ泥。だから実はちょこっと肩身が狭いんだよね~」


 僕はその言葉を聞いて愕然とした。何を言ってるんだこの人は??


「ティアさん、あなた夜の番も斥候も宝箱のピッキングまで出来て何が勇者パーティーにふさわしくない、ですか」


「や、だって言っちゃえば私犯罪者だよ?ほんとは石を投げつけられるべき存在なのに神様に選ばれたってだけで勇者パーティーにいるっていうのがほら、笑っちゃうよね」


 人ごみの中を歩きながら、彼女は顔を伏せたまま苦笑交じりにそう言った。


 僕はキレた。日記の時然り、彼女は僕をキレさせる才能があるようだ。

 この有能すぎる人ですら勇者パーティーにふさわしくないというなら、僕は一体なんなんだ?


 僕はぐるりと周囲を見渡した後、ティアにぴしゃっと強めの語調で言った。


「ちょっとここで待っててください」


「え」


 僕は市場の人ごみに紛れ込み、スッと手を伸ばし陳列台に売られていた無数のリンゴの内一つをかすめ取ってティアの前に帰ってきた。

 ポカンとしている彼女の鼻面にズイと突き付ける。


「シ、シオくん……そのリンゴ一体……」


「と、盗賊だからなんですか!盗むくらい……僕にだって出来ます!」


 立ち止まっている僕ら二人を避けるように人ごみは流れていく。彼女はきゅっと口を結び、僕を見つめる。


「でも見張りも斥候も、ピッキングも僕にはできません!だからティアさんは胸を張っていい!盗みなんてありふれた、誰にでも出来ることなんて気にしなくていいんです!」


「シオくん……」


「あなたは勇者パーティーの一員なんですよ!?」


 僕の、ある種怨念のこもった魂の叫びを聞いて彼女は固まった。僕と視線がかち合う。そして、彼女は糸がほぐれるようにフフッと笑った。


「声、震えてるよシオくん」


「な、何を笑ってるんです!いいですか僕は真面目に!」


「分かった、分かったよ。シオくんの気持ちは十分伝わったからさ、無理しないで。リンゴ、返しに行こ?ね?」


 僕の震える手を彼女は掴んで、果物売り場の方へ引っ張った。彼女の笑っている横顔に、髪に光が当たってきらめいた。


「む、無理なんてしてません!ほんとにわかってるんですか!?僕の言いたいことはですね!」


「はいはい。あーおかしい。リンゴ一つ盗むだけでそんなに震えてさ。シオくんはほんとになんにも出来ないんだね」


「ぼ、僕はぁ!」


 仕方ない子供をあやすように笑うティアに先導されたまま、僕はリンゴを返しに行った。


 僕が誠心誠意店主に頭を下げるとティアも同じようにした。店主はそんな僕ら二人を見て、愉快そうに肩を叩いて許してくれた。


 冷静になった僕が反省して少し落ち込んでいると、彼女は僕の腕をするりと取って


「あーあ、どうせならルビーの指輪くらい盗ってきてくれたらよかったのに」


 と言ったのでやっぱり僕は彼女が理解できないと思った。


 でもその横顔があまりにも楽しそうだったので、僕は少しほっとした。


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