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森を歩く

 勇者様を先頭に、僕らは森の中を行軍していた。


 僕らの旅の最終目的地は魔王領である。その道中色々な頼まれごとをするので路銀稼ぎに助けながら、といった感じだ。

 今は次の拠点となる街へ向かっていて、そのために森の中をみんなで進んでいるところだ。


 勇者様が振り返らずズンズン先に歩いていくのでひ弱な僕はついていくだけで精一杯という有様だ。といっても勇者様が走ったらあっという間に目的地へ到着できるだろうから、これでも気を使ってもらっているのだ。


 僕はちらりと、隣を歩く息切れしている同士を盗み見た。


 ベアだ。

 彼女がぜぇぜぇと息切れしているのは決して彼女に体力がないからではない。甲冑を着込んでいるからだ。とてつもなく重い鉄の塊を全身に纏って歩き続けられているのは立派な鍛錬の賜物たまものなのだろう。僕なら一歩も動けないと思う。


 僕は心配になり声をかける。


「あの……荷物お持ちしましょうか?」


「はぁ……はぁ……。黙れ……」


 すげなく跳ねのけられた。余計なお世話だったようだ。


 僕がちょっとしょぼんとしていると前を歩く勇者様とメルの会話が聞こえた。知らなかったけどメル、意外と体力あるな。グイッと足を上げ、杖を突き勇ましく歩いている様子がかっこいい。


「おいメル。お前俺のこと様付けしろよ」


「お断りします。私はゼノ様にしかそのような敬称を付けません」


「教皇は?」


「……様付けします」


「ぎゃはは!なんだそりゃ!」



 ゆ、勇者様性格悪ぃ~……。


 楽しそうに笑う勇者様と対照的にメルはぶっす~とつまらなさそうだ。相変わらず二人は仲が悪い。


 そんな二人の真後ろで、しかし二人のことなど目に入っていないかのようにアリスはマイペースに歩みを続けている。凄い鉄の心臓だ。


 スイスイと歩き、足音がほとんどしないのは自重を軽くする魔法をかけているからだそうだ。そういえば、と思いつき僕はそっとアリスに近づいた。


「すみませんアリスさん、体重を軽くする魔法をベアさんにかけてあげてくれませんか?」


 我ながら素晴らしいアイデアだと思ったが、アリスは僕の方を見向きもしない。

 と思ったら彼女はノロノロと地面から視線を上げ、いつもの無感情な黒い瞳で僕の方を向いた。ゆっくり一回瞬きをした。


「……この魔法は自分以外にかけられない……」


「あ、そうですか……」


 僕はそそくさとアリスから離れた。

 僕は振り返って救われる見込みのない、がしゃんがしゃんと辛そうな女騎士に心の中で黙祷を捧げた。


 それからしばらく単調に歩き続け、僕はなんだか心まで疲れてきたのでため息をつき、ふうと顔を上げた。


 すると樹上のティアと目が合った。彼女は斥候として木から木へ飛び移りながら周囲の様子を確認してくれているのだ。

 というか彼女の身体能力はちょっとおかしい。勇者様はゼノ様からの加護とやらを授かっているので人間離れしているのは納得できるが彼女はシンプルに人外じみていて驚く。


 するっと木から降りて僕の横に着地し、ニコニコと話しかけてきた。

 何を言うつもりか。彼女とのコンタクトのせいでさっきはろくでもない目に遭ったので僕は少しだけ身を固くした。


「ねぇ、次の街で食料とか補充するんでしょ?」


「あ、はい」


「じゃあ私とデートしようよ。買い物一緒に行こ?」


「デ、デートって」


 僕はあっさり動揺した。僕が慌てたのを見抜いてか彼女は笑った。「どう?」と確認してくるので僕は冷静を装って返事した。


「……財布にしようったってそうはいきませんからね。自分のものは自分で買ってくださいよ」


「あ、照れてる?」


「照れてません!」


 彼女は僕の反論を聞いているのかいないのか、「じゃあ約束ね」と言ってまた木の上へ登って行ってしまった。


 くっ……弄ばれている……。


 ティアは男の扱いに長けているのだ。気を持たせるようなことを言われたからってぬか喜びしてはならない。

 そう僕のプライドは拒否していたが、彼女に手玉に取られる感覚はやや気持ちよかった。


 ちょっとだけ元気出た。


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