魔王城へ
次回投稿が最後です。最終話まで書き溜めて一気に行きます。一週間以内には投稿します。
目が覚めて僕は決意が固まっていた。
隣で寝息を立てるアリスに「ありがとう」と言って額をそっと撫でた。
数日後、ティアは食料を調達し、旅立ちの準備を整え終えた。
「シオくん、どうするの?」
「僕も、一緒に行きます」
「……そっか」
彼女は、きゅっと口を結び顔を伏せて、「ありがと……」と言った。
ベアが僕の下へ、リュックを背負ってやってきた。
「行くのか」
「はい」
「そうか……」
ベアは僕に握手を求めた。
「残念だ。こんなことならお前が役立たずと呼ばれていた頃の方が良かったな」
僕は笑って彼女の手を握った。それから二冊の本を彼女に差し出した。
「……?なんだこれは」
「一冊は、真実を書いたものです。司教と辺境伯から聞いた、勇者パーティーの全てを記してあります」
「お前……」
「公表するもしないも、ベアさんに任せます。それでもう一冊は……」
下に重ねていたボロボロの革の本を上にずらした。
「嘘を書いたものです。僕が書き溜めた偽の日記です。僕より、ベアさんの方が大切にしてくれる気がして……」
「あの時の……」と呟いて彼女は
「ありがとう。私の一生の宝物にするよ」
と受け取った。それからガバっと、背の高い彼女は僕の頭を抱きかかえるように抱擁して、ポンポンと撫でた。
「さて、それじゃあ私は行くよ、勇者たち。また会おうな」
彼女は、アリスとティアにもそれぞれ握手して、手を振って去っていった。
これで、とうとう勇者パーティーは半分になった。
僕とティアとアリスの三人は、魔王領に向け旅立った。
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魔物は全然強くなくて、魔物と王国軍が衝突している激戦区を避けて移動したからだろうか、何匹現れようが僕らの侵攻を阻めなかった。
どこまでも広がる荒野を歩きながら僕は、かつてこの三人で夕暮れの街を手をつないで歩いたことを思い出していた。
石の塔が橙色に反射して、こんな温かくてきれいな景色見たことないと思ったな。旅に出て良かったって、あの日は本当に思った。
……それから僕らはずいぶん変わった。今や魔物の屍と草のまばらに生えた固い大地を踏みしめ歩いている。
美しい思い出と比較してノスタルジーに浸ることを僕はずっと繰り返した。変わらない景色も相まって、本当に前に進んでいるのか分からなくなったりした。
「星が綺麗だね。ね、アリスちゃん」
「……うん」
夜になるたび、僕らは固まって眠った。三人でも会話に困ることはなくて、アリスだってふくふくと幸せそうに笑う。
「ティアさん、体は大丈夫ですか?」
もちろん魔物化の衝動はどうなんだ、という意味を込めて聞いた。彼女は少し小さな声で「うん」と頷いた。
「あのね、魔物になるのは多分心とリンクしてるんだ。苦しくなったのは勇者くんが死んだって聞いてからで、変身したのはベアちゃんが私をかばって撃たれたからだから、不安になったら危ないんだと思う」
彼女は寝返りを打ってこっちを見た。
「だからね、シオくんがついて来てくれて本当に感謝してる。来てくれなかったら私多分あっという間にまた魔物になっちゃってた。魔王城に行くって決めた時から実はシオくん来てくれ来てくれ~って祈ってたんだよ」
「ああ、そのせいですかね。来ちゃったの」
僕が冗談を言うと彼女は笑って僕の肩をぐりぐりと殴ってきた。
「来ちゃったの、じゃないよ!全く、私みたいなろくでなしの盗賊、おまけに魔物にそんなに優しくしてどうするつもりだ~!」
じゃれるような笑顔から彼女は少し真剣な顔になった。
「ねぇシオくんはどうしてついてきてくれたの?」
「……」
僕は星空を眺めながら考え込んだ。ずっと考えていたことだったが、言語化するのは初めてだった。
「……なんでしょうね、多分みんなの言うことを否定したいんだと思います」
「否定したい?」
「司教とか勇者様とか、誰もかれもがこの世に希望はないって教えてくるんです。本当は世界ってクソなんだぞって、達観したみたいに言うんですよ。果てはメルさんまでもが望みは天国に託して、この世には絶望して死んでいきました」
「……」
「きっとみんなの言うように、世界はずっとこんなことを繰り返しているんだと思います……。もしゼノ教が失墜しても、今度は別の何かが権力を掴んで、欲に呑まれて腐敗していく。平和よりも幸福を追求して、それを永遠に繰り返してきました。でも僕は、それを断ち切りたいんです。絶対的な平和を一時的でもいいから、もたらしたいんです。人類が、一瞬でも平和を知って欲しいんです。そうしたら今度こそみんなが希望を信じられるようになる。……そのために魔王に会います」
「……やっぱりシオくんって凄いね……こんな素敵な人がいるんだなぁっていつもびっくりするよ」
僕が語り終えると彼女は微笑んで見せた。その表情はまるで幸福を味わっているかのようだった。
それから「でも」と頬を膨らませた。わざとらしい怒ったふりだ。
「お前のためだ、くらい言ってよ」
「……まぁもちろん一番はティアさんのためですけどね」
「遅いよ!」
既に眠ったと思っていたアリスが口を開いた。
「私は……シオのためだよ……」
「……えぇ~、ここは私をフォローするでしょアリスちゃん……」
僕はくっくっとこらえきれず笑った。ティアもしょうがないと言う風に笑ってから、アリスの頭をそっと撫でて言った。
「……もしまた私が魔物に変身しちゃって、二人に襲い掛かったら躊躇なく殺してね。余計なこと考えたらダメだからね」
僕は返事をしなかった。
それから僕らは幾夜も、長い旅を乗り越え魔王城までたどり着いた。




