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聖剣の力

 僕は勇者様の遺言通りに逃げた。


 彼の遺体を置いて、聖剣はしっかりと握りしめ宿に駆け込んだ。


 全員を叩き起こし、アリスに頼んで転移魔法を使わせた。彼女の転移魔法は、彼女の記憶にある土地にしか飛べない。

 僕らは崩壊したアリスの故郷、ビカラの里跡に身を隠すことになった。


 廃墟と木々に囲まれた広場で、何があったのかとティアに問い詰められたが、説明は後回しにした。僕も、勇者様が死んだことしか分からない。


 それよりもっと気になることがあり、翌朝、確認するために僕は一人森の中に入っていった。


 息を整え、緊張を味わう。


 そして僕は、鞘から聖剣を抜いて両手で握った。聖剣は、やはり反応した。


 以前手にしたときは、確かに鈍色の鉄塊に過ぎなかったのに。聖剣から、力が流れ込んでくる。


 ……僕は勇者になったのだろうか。聖剣を託され、勇者に目覚めたのだと思うのが自然だった。


 僕はそのまま森の奥へ進み、魔物を探した。覚悟は既に出来ていた。


 ゴブリンを発見し、構えた。

 聖剣の力か、ゴブリンの体に流れる魔力が、なんとなく感知できる。これが勇者様の説明にあった、『相手の秘める魔力とかがなんとなく分かる』という聖剣の能力だろう。


 ゴブリンの体から、魔物らしい禍々しい魔力が立ち上っていたが、僕は全く怖いと感じなかった。


 ゴブリンは、こちらに気付いた。太いクラブを握っている。そのクラブは木を叩いて成形したような粗末なものだったが、かつての僕なら震えあがっていただろう。


 だというのに僕は微塵も恐怖を感じない。


 ゴブリンが何事かをわめいて襲い掛かってくる。


 まるで水中にいるような緩慢な動きだ。僕は身を引いてよけ、聖剣を叩き込んだ。

 剣が、肉に吸い込むように刺さった。手ごたえは薄く、鶏をさばくより簡単だった。


 袈裟切りにされたゴブリンがドサッと地面に倒れた。


 自分は、間違いなく何らかの覚醒をしていた。僕にゼノ様の加護が、死んだ勇者様の代わりに与えられたのか……?


 僕は確認を終え、みんなのいる拠点の方へ向かった。


 僕の勇者パーティーでの役割は「みんなを仲良くさせること」なんて曖昧なものではなく「勇者のスペア」だったのだろうか……。


 判然としないまま森を抜けると、メルが僕を見つけて駆け寄ってきた。


「シオさん!聖剣が……!」


 僕は聖剣を鞘に納めず手で光らせたままだった。説明をする準備はできていたのでぐるっとみんなを見渡した。


 なるほど、聖剣を持っていると景色が違って見える。


 メルの体からは真っ白な魔力が発光するように滲んでいて、ベアはほとんど魔力が感じられない。

 アリスの体からは、流石魔法使い、濃い魔力だ。ゴブリンに似た禍々しさがあり、だがひりつくような感じはしない。底から落ち着く香りが、泥水のように流動している。


 そしてそのままティアを見た僕は息が止まった。


 嘘だ……。


 彼女の体から、ゴブリンなんて非にならない、どす黒い突き刺さるような魔力が放たれていたからだった。


 考えてもみなかったことが、本能的に瞬時に理解させられた。


 ティアは、魔物だ。


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