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嫌な予感

 目を覚ました。


 夢の内容を、覚えている。


 はぁ……はぁ……。


 荒い息が聞こえて、誰かと思ったら自分だった。


 心臓がドクドクとうるさくて鳴りやまない。腕が痺れたように持ち上がらなくて、ぽっかりと、喪失感が僕に穴をあけていた。


 大ババ様……?ソィス……?


 僕はブンブンと頭を振った。

 夢から目覚めなければ。


 所詮夢だ。惑わされて、いつまでもぼーっとしている暇はない。


 立ち上がろうとして、膝が震えていることに気付いた。


 ちくしょう。クソみたいな夢だ。


 ~~~~~~~~~~


 せっかくベアと和解出来て幸せな気持ちで眠りについたのに……。


 せっかくのいい気分が最悪な夢見で全て吹き飛んでしまった。

 幸福になるのは大変なのに不幸になるのは簡単だ。


 休憩所で頭を冷やしていると勇者様が扉を押して宿に帰ってきた。


 勇者様がルンルンとご機嫌なのを見て僕は無性に腹が立ってしまった。


 僕やベアが大変な思いをしているときにこの人は悠々と遊んで、薄情にもほどがあるではないか。


 僕はムラムラと怒りが湧いて、勇者様にちょっかいを出してしまった。


「仲間の一大事に遊んでる場合ですか」


 勇者様が僕の存在に気付きピクっと立ち止った。

 僕は言ってしまった、と思ったが、今更取り消すことはできず、変に強気になっていて取り消す気もなかった。


「ベアさんは何とか意識を取り戻しました。でもまだ病み上がりです。遊んでばかりいないで見舞ってあげたらどうですか」


 勇者様は僕の言葉を鼻で笑って、見透かしたように言った。


「おう、羨ましいならお前も遊べ」


「何を……!ベアさんのことも……」


「誘ってもらって悪いが、俺はお前が夢中になってる美人の看護ごっこは遠慮しとくぜ」


 僕が勇気を出して言った言葉など、勇者様にはそよ風にも満たないものだった。


「今夜は公務が忙しくてね。辺境伯殿から「お礼」を受け取りにいかなきゃあ。へへ。俺一人のご招待だぜ。まぁ、娘は一人だからそれも当然か!ぎゃはは!」


「この……!」


「おい雑魚、落ち着け」


 勇者様が笑いを引っ込めて、僕に威圧するような目を向けた。

 僕は勢いを失いビクッと身を縮こまらせた。


 勇者様がため息をついた。


「はぁ……。嫌だねぇ。メルもお前もちょっと嫌なことがあるとすぐガタガタ抜かすんだから。雑魚はこれだから困る。……悲劇なんてのは、瞬きの合間に襲い掛かってくるものだというのに……!」


 勇者様が芝居がかった口調でそうふざけた。


 僕がまごついて何も言えなくなっていると、勇者様が背中の聖剣を抜きながらギロッと真剣な目を向けてきた。


「……おい、それよりお前、聖剣について説明してやる」


「……は?」


「これは特別な力を持った奴なら誰でも扱える武器だ。俺はゼノとやらの神から授かった加護があるから扱えるわけで、別に俺一人専用の武器じゃねぇ。強力な祝福がかかってるだけなんだ。効果は……」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 僕は手を振って急に説明を始めた勇者様を押しとどめた。だが、無意味だった。


「そんなの教えてどうしようって言……」


「黙って聞け。効果は様々だが身体能力の向上や魔物への特効。あとは相手の秘める魔力とかがなんとなく分かるって感じだ。以上。分かったか?」


 一息に語り終えて確認してくる身勝手な話し相手に僕はむくれた。


「……分かりません。なんで僕にそれを……」


「よし。いいか、一つ教えてやる。不安ってのはな、感じるだけバカなんだ。何もかもなるようにしかならねぇ」


「だから……」


「だから不安を感じる暇があったら遊んだほうがマシだ。俺が遊んでる間にベアは元気になったんだろ?俺の方が賢かったな」


「……」


 勇者様はせせら笑って、部屋に帰ろうとした。


 僕はしばし黙ってしまったが、勇者様を何とか呼び止めた。


「ちょっと」


「あ?まだなんかあんのかよ」


「らしくないアドバイスやめてください」


 僕が勇者様に向かってそう言うと、彼は少しだけ目を見開いた。それからそっぽを向いた。


「は?クソが」


 声からほんの少し険が取れていた。階段をどたどたと上がっていき、それから荷物を整理してまた宿を出ていった。


 何もかも達観したような勇者様が、少しだけ驚いた反応を見せたことが愉快で、僕はにやけた。心臓がバクバクなっていた。


 勇者様と入れ違うようにしてティアが宿に帰ってきた。


「あ、シオくんおはよー。ってもう夜だけど」


「ティアさん、どこへ行ってたんですか?」


「昨日勇者くんに言われて一日中見張りしてたんだよね。なんか嫌な予感がする、とか言って。なんもなかったんだけど」


「あの人適当だよね」とティアはあくびした。


 僕はそれを聞いて再び不安が蘇った。嫌な予感、という言葉が、根拠がないだけに真実味があるような気がした。


 勇者様が宿を出ていくのを引き留めた方が良かったのではないか、と急に感じた。


 僕が考え込んでいたら、ティアが「そうだ」と思い出したように言った。


「ベアちゃん目を覚ましたんだね。言ってよ~。昼頃様子見に言ったら普通に起きててびっくりしたんだから」


「あ」


 忘れてた。安心して眠りこけてしまったせいでみんなに報告してなかった。


「メルちゃん、部屋に閉じこもってるからもしかしたらまだ知らないかもよ」


「伝えてきます」


 メルが正気を失ったように取り乱していたのを思い出し、僕は急いで彼女の部屋に向かった。


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