トンネルの奥へ
「ドラゴンの首を持ち帰るやつが必要だろうが」
そう勇者様に言われ僕はドラゴン討伐に同行することになった。
て、低級魔物との戦闘にも役立たずだからと連れて行ってもらえないのにいきなりドラゴンとの戦闘なんて、ふ、普通に死ねるぞ……。
翌日昼頃には目的の鉱山に到着し、採掘トンネルを僕ら6人は順調に進んでいた。
この奥にドラゴンがいるはずだ。
鉱夫が追い出されてから無人化していたトンネルにはコウモリやトカゲ型の魔物がそれなりに住み着いていて軽い戦闘があった。
その戦闘自体は全く問題がなかったのだが、僕は衝撃を受けていた。
え?勇者パーティーの戦闘ってこんな感じなの?
戦いの場に出たのは最初に無能が露呈して以来初めてのことだったのでその内容に驚いた。
戦っているのはほとんど勇者様とティアだけだった。
たまにメルが補助魔法をかけたりアリスが取りこぼした魔物に火球を飛ばしているけど適当っぽい。
というか勇者様とティアが強すぎる。
勇者様はゼノ様からの加護を授かっているから分かるがティアもめちゃくちゃだなぁ。
僕はメルに話しかけた。
「え、こんな感じなんですね」
「はい。これは世界救えるな~って感じしますでしょ」
メルがあくびしながら眠たそうに言った。今朝は早かったからしょうがない。
いいのかなぁ。まあ、いっか。
イージーに越したことはない。僕の中で不安だった魔王討伐への気負いも少し軽減されてきた。旅の最後までこんな感じについていくだけで済ませられるのかも。
道中意外と起伏があり、いつの間にかすりむいたようでメルの膝から血がにじんでいた。
「膝、魔法で回復しないんですか?」
「回復魔法は術者本人には使えないんですよ。だからヒーラーは二人体制が理想です」
「へ~」
僕は気分が上がり、手持ち無沙汰なのもあってメルと談笑していた。
勇者様が壁を伝って「おらぁ!」と天井に張り付いている魔物を蹴散らすのを特等席で観賞している。楽しい。
ふと横を見るとベアが例によってガシャンガシャンと全身甲冑を身にまとい剣を構えていた。ヘルムも着けていて表情は分からないがきっと真剣な顔をしているに違いない。
僕は堅苦しい女騎士を「おいお~い」と和ませようと上機嫌にベアに話しかけた。
「いやぁベアさん、気を抜かないのは流石ですね」
「黙れ、話しかけるな」
「ごめんなさい」
忘れてました。気が大きくなってました。
初めて戦場に立って浮かれていた僕は反省しそこからは静かについていった。
そして僕らは、あっさりと何の困難もなく、ドラゴンのいる最深部に到達した。




