桃奈から託された物
評価、ブックマーク、いいねなど、ありがとうございます!
もうすっかり夜になったけど、こんなところで終われない。みんなで女神像を取り囲むように観察した。
「石板には何も書かれてないわね」
サラウェトリアはいかにも「見てください」と言うように石板をこちらに向けて持っているのだけど、そこには何も書かれていない。
この石板、マザーハウスで見たパソコンに雰囲気が似てるな。石だけど。
何の気無しに私は指の腹で、石板を撫でた。
ウィン……。
次の瞬間、石板から小さな機械音が響き、文字が浮き上がってきた。
「お、ヒント来たな」
「でかしたぞ、アオ」
「えへへー。もっと褒めてー」
ハイタッチしながら石板を覗き込む。
現れた文字は
『アクセスキーをセットして下さい』
……アクセスキー?
「何だろう?」
「セットというからには、どこかにセットする場所があるんじゃないのかしら?」
そう言われても、この辺りは大抵探し終わっている。
不審なものは目の前の女神像と、その前の地面にある台座だけだ。
「この台座にキーとなる物を置けばいいのかな?」
私はシュウを見上げた。
だってこんなの、シュウ以外分かりっこないよね。
シュウの瞳はサラウェトリアに注がれていた。
正確には、サラウェトリアが持っている白い木の枝に。
シュウは信じられない、というような顔をしていた。
ふと空を見上げたらドラゴンが飛んでいた、みたいな顔だった。
シュウは口元を覆っていた手で、顔を一撫ですると、額に手を当てて大きく息を吐いた。
「これ単なるダンジョンやクエストじゃないぞ。……これは多分、桃奈から目覚めし者へのメッセージだ」
そしておもむろにポケットに手を突っ込むと、引き抜いた握り拳を、私に向かって差し伸べた。ゆっくり広げられた手のひらには……。
真珠のビーズが光っていた。
「これって、シャモアの?」
「同じ物だけど、出所が違う。これは桃奈からアオへ預かった物だ」
「会ったの?」
「現実の方でね。それが何でここにあるのか、全くもってこれっぽっちも分からないけどな」
シュウは幾分投げやりに言いながら、サラウェトリアの手から枝を抜き取った。
そして枝に先程の真珠のビーズを通した。
真珠は、まるであつらえたかの様に枝にピタリと収まった。
「これ、木の実だったんだ」
「他のも当ててみろよ。多分これがアクセスキーだ」
シャモアは一回驚いた様に跳ねると、すぐにあたふたとアイテムバッグを漁りだした。私も前に貰った物があったのを思い出し、バッグを探す。
真珠の木の実は全部で九つあった。
枝の方にも、木の実をセットできる様な窪みが、丁度九つあった。
「すごいわねシャモア。全部見つけてたって事よね」
「シャモアのファインプレーだなー」
「崇めろ。褒め称えろ。奉れ」
「分かった分かった。シャモアは凄い」
鼻歌を歌い全てを枝にセットすると、枝は輝く実をたわわにつけた美しいオブジェになった。
「綺麗だね」
「それでこれを、どうすれば良いのでござろう。そこの台座に置くのでござろうか」
「取り敢えず、女神様に返してみない?」
もともと女神が持っていた様に、その手に枝を戻した。
真珠は淡く発光を始めた。
ピンクに黄色、緑に青。虹色の柔らかい輝きがふんわりと周囲に広がる。真珠の光に呼応して、枝もキラキラと光り出した。
光は白色だった枝を金に染めた。光の粒子が枝を伝う様に流れ出し、女神の手を光らせ、やがて女神像全体がぼんやりとした金色の光に包まれた。
「やっぱりこれがアクセスキーだったんだ」
「桃菜からのプレゼントがキーの一部だったって事は、これは私達じゃなきゃ発生させれないイベントってことだよね」
「そうなるな」
桃奈の考えは分からない。
好意的に考えれば、桃奈が私達の為にユートピアを作ってくれたと考えられる。
でも何故か桃菜は私達を通して何かをしようとしている気がした。
桃奈は私達に何を託しているんだろう。
もしかすると私達は、その為に作られたのかもしれない。そんな風にさえ思えた。
ふと横を見るとモスが難しい顔をしていた。
「モス、どうかした?」
「……これは木の枝でござるな」
「そうだね」
「で、ござるよな」
どうしたんだろう。変なモス。
ウィン。
また小さい機械音が響き、石板に新しいメッセージが表示された。
「来た!」
みんなで石板を覗き込む。
そこに表示された文字は
『最終フェーズの準備が完了しました。
選択を要求します。守護者を選出してください』
次回は月曜日に更新します。




