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女神像

 あの後私もシャモアと水上騎馬戦に参加して、散々遊んでお腹いっぱい食べた。シュウの水魔法をシャワーがわりに服に着替えた頃には、もう陽が傾いていた。


 だけどみんなまだ元気で、誰も探検は明日にしようとは言い出さなかった。

 それ程大きな島でもないが、山を突っ切るとなるとそれなりに時間がかかる。


 この島は中央に岩山がありそれを取り囲むように森がある。青々としているのは裾野の森だけで、中央の岩山は白い岩の山肌が見えていて、岩と岩の合間に所々に草木がくっついているような感じだ。


 飾り気のない岩ばかりの山を行ってもつまらないので、裾野に広がる森を大回りしながら進んだ。


「本当にモンスター出ないなー。ベル・ウェスは何の為にここを作ったんだ?」

「プレイヤーも入れない。モンスターも出ないじゃゲーム世界としての存在意義がないよね」


 ビッグバンの中心なら何かあるかと思ったけど、今のところ穏やかな自然が広がるばかりだ。


「案外目覚めし者の為に葉山桃奈が作ってくれたのかもな」

「そんなエコ贔屓する人じゃないと思うけど。あ、見えて来た。あそこじゃない?」


 木々の切れ間に空が見える場所を見つけた。


 少し進むと一本二本と木が減っていき、ついには何もない広場になった。


「到着!」


 海に面しているが、砂浜はなく断崖になっている。海の反対側には切り立った岩の壁がある。裾野を覆う森が途切れた事により、岩山の一部が露出した場所だった。

 広場の広さはそこそこあって、ログハウスを五、六棟建てても中央にはキャンプファイヤーをして遊ぶくらいの空間は残りそうな感じだ。


 そして広場のやや山寄りには、転移クリスタルが鎮座していた。


「何でこんなところに……」

「さあな。でもクリスタルがあるって事は、ここは新フィールドなんだろうな」


 そんな事を考えながらクリスタルを登録している時、横からブランが素っ頓狂な声をあげた。


「あー? これフィールドじゃなくて街のクリスタルだぞ。だからモンスターがいなかったんだなー」

「街のって事は結界が張られてるって事だよね」

「だぞ。多分この島全体だな」

「んん?」


 あまりの事に頭の中が一瞬豆腐みたいになった。


 えっと?

 ここはプレイヤーの来れない場所で。

 んでもって街のクリスタルがある。今はまだ自然しかない場所だけど、衣食住を賄うスキルも素材も私達は潤沢に持っている。


「これって……私達の街にしていいって事かな?」

「……だよな。俺ら以外誰も来れねーんだから」

「結界石も転移石も見つかってないけど」

「だから! もうそんなの必要ないって事でしょ?!」


 おお。おお。


 棚からぼた餅!


 万歳しそうになった手を、私は無理やり握り込んで下におろした。


「ちょっと、冷静になろう。まず周囲を調べてみよう。他にも何か見つかるかもしれない」

「同意でござる。ぬか喜びはごめん被るでござるよ」


 自分で言うのも何だけど、私達はけっこう頑張って来た。


 レベル1からスタートして、最弱の土地でも死にかけた。

 百種類以上もいるモンスターを、コツコツ研究しては攻略し、地道にレベルを上げて来た。


 死にそうになった事なんて、数え切れないほどあるし、実際に大切な仲間も失った。それでも前だけ見て、心に闇を寄せ付けないように生きてきた。今の自分たちができる事を、愚直にやり続けて、やっとここまで来たんだ。


 最終目標に掲げてきた村も、結界石と転移石さえ手に入れば、実現できる所まで来ている。村づくりの為の素材だって、小さい村なら三、四個は作れるくらい集めてある。


 今目の前にある、この小さくも気持ちの良い空間。


 ここが私達の旅の終着点なんだろうか。

 ノアの夢を叶えたら、次は私の我儘を追いかけても良いだろうか。


 早鐘を打とうとする心臓を、なんとか宥めすかしながら、私達はさして広くもないその空間を、隅々まで調べた。山際の茂みや崖の下まで、何か落とし穴がないかを調べる。

 探し出してから、それ程時間も経たないうちに


「あー。なんか見つけちゃったわ」


 岩山の始まり部分。岩が壁のようになっている場所の茂みの中から、リディスのため息混じりの声が聞こえてきた。


 そこには草木に抱かれるようにして、一体の女神像が立っていた。片手に白い枝を、もう片方の手には石板を持った女神だった。


「サラウェトリアだな。光の女神でこの世界の最高神の一人だ」

「なんでこんなところに祀られてるのかしら?」

「まあ普通に考えると、何かのクエストか、若しくは新ダンジョンのヒントだな」


 という事は、ここは新しく実装されたダンジョンの入り口かなんかで、まだ見つかってないけど、プレイヤーがここに至る方法もちゃんと用意されている可能性が高いという事だ。


 そうだよね。そんな旨い話は転がってないよね。


「じゃあここはダンジョン前のキャンプ場みたいな場所って事か」

「でござろう。むう。残念至極でござる」

「まあ今のところは俺達しかいない。少なくとも新ダンジョンの初踏破者にはなれるぞ」


 うん。まだ諦めるのは早い。ダンジョンを保有する街。これを独占できれば最高だ。

 その為にもまずダンジョンを踏破して、この島の不思議を全て解き明かさなくては。


「新ダンジョンという事は、新モンスターもいるかもな」

「結界石落とすかもしれないでござるな」

「早く入る。方法探そう」

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