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VSハヤト

「随分と早かったね」


 私は慌ててシナモンロールを飲み下すと、ニヒルな私を召喚した。


 ハヤトの他に五人いる。つまりパーティメンバーの一人も欠ける事なく辿り着いたという事だ。


 私はウェトリアワンドのスクロールを投げ渡した。


「おめでとう。君たちが優勝だよ」


 ハヤトはそれを、なんの感慨もなさそうに後ろに控えていたメイジに手渡した。


「六人だね。では対戦相手を一人選んで」

「一人?」

「ああ。一人相手に五分凌げればハヤト達の勝ちだ。簡単だろう?」


 だって前回六十六人だったからね。いくらなんでも六人で相手したら瞬殺してしまう。


 ハヤトは少し心外そうに眉を顰めたが、すぐに気を取り直したように笑顔に戻った。


「では、アオを指名しようかな」


 え、私?

 良いけど、てっきりモスかシャモア辺りかと思ってた。若しくは迷宮を作って疲弊しているブランやリディス。

 見ればハヤトの仲間はメイジ中心だ。ハヤトと一人のタンク以外は全員杖を持っている。私とは相性悪いんじゃないかな。


 私の頭の上の疑問符が見えたのだろう。ハヤトは穏やかに部屋にいる目覚めし者達を見た。


「他の人達は、何かしら消耗しているみたいだし。それに、アオを倒さなければ目覚めし者に勝ったとは言えない気がするからね」


 え、そんな事ないのに。

 寧ろ最弱な方ですよ、私は。


 でも私はモスの“ブレス”やブランの“落とし穴”のようの大量破壊攻撃がないから、戦いやすい相手なのかもしれないな。


「ハヤトが良いなら、私に異存はないよ。……ブラン」

「ほいさー」


 ブランが壁に手をつくと、迷宮が一瞬で砂となって崩れ落ちた。

 息もできないほどの土煙の中で、戸惑うプレイヤー達が騒いでいる。


「優勝者ハヤトー! 今からバトル始まるからみんな逃げてねー! あ、宝箱はそのままにしているから、早い者勝ちよー」


 リディスの掛け声で、土煙の向こうに宝箱を探し求める人々の影がわさわさと動き回りだした。


 うーん。これ煙が去るの待ってたら時間がかかりそうだな。

 そう思っていたら、一陣の風が通り抜け、土煙を外へと押し流した。


 風の目には、ハヤトの一団。

 ワンドを掲げた女性が、無表情で立っていた。


「余計なことかとも思いましたが、面倒でしたので」

「うん。カーラありがとう。助かったよ」


 カーラと呼ばれたメイジは、恭しく一礼するとワンドを仕舞った。


 え、護衛魔術師?!

 やっぱり貴族だ!


「さて」


 土煙の引いた夜の草原で、ハヤトは満月を背負って剣を抜き放った。夜風に金髪が揺れる。


「目覚めし者の主領アオ。お相手願おう」


 やだ! 主人公?!

 その地位は渡さないんだからね!


 私も負けじと双剣を抜き放つ。


「お手並み拝見といきょっ」


 ……噛んだ。


 コインを投げるシュウの肩が震えている。くぅ。

 笑いたければ笑うがいいさっ。


 弾かれたコインが月光を反射しながら放物線を描く。


 さて、まずはメイジ達を無力化しますか。

 コインが落ちた。地面を踏み込もうとした次の瞬間、すぐ目の前に低く構えたハヤトがいた。


 っ早いな。


 出鼻を挫かれた。のけぞってハヤトの一閃を紙一重で交わし、そのままバク転してアゴを蹴り上げる。が、これはギリギリで避けられた。


 すぐに次の攻撃がくる。

 

 面倒だな。勿体無いけど先にハヤトから沈めるか。

 そう考えながら後方に飛んで避けた時、いきなり身体が重たくなった。


 どうやら悉くデバフをかけられたようだ。

 パワーダウンにスピードダウン、魔防ダウンに至ってはアイテムとの重ねがけだ。


 えーい。小癪な。やっぱりメイジから沈める!

 ハヤトとは最後にゆっくり遊ぼう。


 私は北に陣取っているメイジに向けて大きく踏み出した。


「アオ! 今すぐ全装備を魔防にふれ!」


 横からシュウの緊迫した声が飛んできた。

 え?


 一瞬思考が鈍った瞬間、右肩に鋭い痛みが走った。

 魔法の被弾。しかも単なるファイヤーランスだ。

 続いて腹に、そして胸に、矢継ぎ早に魔法が降り注いでくる。それが結構痛い!


 私のステータスは


HP  261,053   MP  32,315

STR 3,728   DEF 3,053

VIT 3,083   INT 3,274

AGI 3,467


 もうプレイヤーの六倍はあるのに。

 最早魔法なんて蚊に刺された程度の痛みだと思ってた。


 ポーションを飲もうとしたところに、またハヤトの剣が邪魔をする。


「急げ! 魔防装備だ!」

「いや、そんなの作ってないし!」

「ちょっとシュウ! たかだかファイヤーランスが何であんなに効いてるのよ!」


 リディスが責めるようにシュウに詰め寄っている。


「魔防は上がりにくいんだ。物防はDEFが上がれば上がるけど、魔防はそうじゃない。一応VITに依存しているんだが、VITはHP、物防、魔防、攻撃力全てに影響するステータスなんだ。VITが100上がっても、魔防は28から36しか上がらない。因みにこの計算式を発見したのもハヤトだ」

「ごちゃごちゃ難しいわね! でもそれプレイヤーも同じでしょ。結局プレイヤーの六倍以上ある事に変わりないじゃない」

「プレイヤーは、属性防御アップのアビリティを三つ取っているんだ。アオは持ってないよな」


 なんじゃそりゃ。持ってないよ!


 私の今のVITは3083。って事は魔防は1000ちょっとくらいか。装備込みで1200くらい。


「一般的なプレイヤーの魔防は?」

「装備込みで700強!」


 げぇ。

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