表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/175

ラビリンス(自作)

 あ、ハヤトがいる。


 草原に集まった大勢のプレイヤーの中に、一際煌びやかな人物を見つけた。金糸の刺繍の施された純白の軍服に真っ青なマントをはためかせたイケメン。

 聖騎士ハヤトだ。


 こんなお祭り騒ぎは敬遠しそうな人だと思っていたので、少し意外な気がした。


 華やかなのは彼の存在だけではなかった。周りを取り囲む面々、おそらくハヤトのパーティメンバーなのだろう。特筆すべきはその女性率の高さだ。


 ナイスバディのおねーさんメイジにブリブリのキャラ声のヒーラー、タンクまでもが女性だった。


「やあ、また会ったね」


 そんなハーレムの中から、ハヤトは私を見つけるとにこやかに歩み寄ってきた。


 目覚めし者に気安く話しかけてくる人はいないのに、ハヤトは実に優雅に、実に気合なく距離を詰めてきた。

 周囲から集中する視線に慣れている。


「マガダで会ったね」


 ハヤトはそう言った後、視線を茶シュウに流した。

 茶シュウは青シュウだと、ハヤトは当然気付いているみたいだ。

 まあ、そりゃそうだろうな。


「……ハヤト。貴方がナンバーワンプレイヤーだって聞いている」


 私は明言を避けて、ニヒルに笑い返した。握手のために差し出された手を軽く握る。


「言われているだけだよ。事実かどうかは分からないさ」

「でも私を倒せれば、堂々とその称号を名乗れる」

「その為に、ここに来たからね。精々頑張るよ」


 軽い受け答えなのに、瞳の奥には闘志が燃えている。

 私達相手でも、負ける気はないようだ。


 燃えているところ悪いけど、いくらハヤトでも、ガチの勝負じゃ相手にならないと思うよ?


「ハヤトが挑戦権を勝ち取れる事を祈っておくよ」


 今日の対戦相手は指名制ではない。

 今から行うイベントの勝者が挑戦者になれるのだから。


 そろそろ時間だ。

 私は目でブランに合図を送り、私自身は全員を見渡せる程度の高さまで飛翔した。


「そろそろ始めよう。今日は新しい迷宮を用意した。私達は中心部で待つ。最初にたどり着いた者が勝者だ」


 迷宮? 一体どこに?

 と言うざわめきが起こる。プレイヤー達は周囲に目を回すが、そこには草原が広がるばかりだ。なだらかな草原は視界が開けていて、大きな人工物といえば貿易都市マガダくらい。視界は遠くの海や山まで続いている。

 迷宮と呼べそうな物は、影も形もなかった。


 今のところは。


 戸惑うプレイヤー達の反応に、私は口の端を上げた。


 ブランが腕まくりしながら、人垣の外へと歩きでた。

 自然とみんなが、その背中を目で追う。


 全員の視線を背中に浴びながら、ブランは両手を地面につけた。


創造(クリエイション)!」


 術の発動を伝える言葉と同時に、地面から壁が競り合ってきた。驚くほどの広範囲だ。厚みが五十センチはありそうな壁が、月を隠すほどの高さにまで立ち上がってくる。


 ゴゴゴゴゴッ

 という地鳴りを響かせながら、壁は幾重にも、幾重にも、複雑に空間を埋め尽くしていく。


「おいおいおい、嘘だろ?」

「何だあれは、城壁、か?」


 土煙が夜風を茶色く染めていく。

 五分程経った時には、草原の一部に城塞都市とでも呼べるほどの巨大な建造物が聳え立っていた。天井はない。分厚い壁が幾重にも複雑に重なった巨大迷宮だ。


「化け物だ……」

「新ダンジョンだ。え? ダンジョン作ったのか?」


 プレイヤー達の声に畏れと興奮が混ざる。


 そうでしょ、凄いでしょ、ウチのブラン。

 このプランを伝えた時は、相当キレられたけど、何だかんだと言っても、やってくれるのがウチのブラン君なのよ。


 自慢したい気持ちをグッと抑えて、私は声を張った。


「迷宮には各種の罠が仕掛けてある。一撃死のものもあるから気をつけて欲しい。それと勝者一人にしか旨みがないのでは、張り合いがないだろうと思って、迷宮には十二個の宝箱を設置した」


 私はマジックバッグから一本の片手剣を取り出して、見えるように高くて掲げた。


「あ、俺のエクスカリバー!」


 プレイヤーの群れから非難するような声が上がった。知らない人だ。けど、多分これをくれた白狐の人なんだろう。

 私はその人に向かって微笑みを投げた。


「取り戻したければ参加するといい。宝箱のどれかに入れておく」

「ふざけんな! すぐ返せ!」

「それは、往生際が悪いな」


 他の宝箱にも、盗んだけど不要だった武器を入れてある。

 私達には不要でも、どれもレベル99の武器だ。欲しがる人はいるだろう。


「それと当たりの宝箱には、これを入れておく」


 私が掲げたのは、サンドイッチ(ハム)だ。

 どこが当たりだよ、という雰囲気を笑い飛ばした。


「これはHPが五パーセントアップする。食後の三十分なんてケチなことは言わない。永続的に五パーセントだ」

「永続的!?」

「単純にステータスアップするのかよ!」

「くれ! いくらでも払う!」


 食いつきが凄い。さっきまでエクスカリバーを返せと叫んでいた男も、今ではくれくれと騒いでいる。

 いや、そんな簡単にあげないよ?

 ちゃんと参加費払ってね。


 やっぱり頑張れば作れる武器よりも、他では手に入らない料理の方が人気のようだ。


 宝箱の中身に料理を追加しておいたのは大正解だ。

 サンドイッチ一つで、沢山のクリスタルが手に入る。ウホウホだ。


「さらに!」


 気を良くした私は、新しいアイテムを取り出した。


「最初に辿り着いた人には、私達への挑戦権とは別に、このスクロールを贈呈する。これは…… ウェトリアロッドのレシピだぁ!」

「げぇっ」


 どおおおお!

 とプレイヤーがどよめいた。

 シュウからはガマガエルが潰れたみたいた音がしたが。


 でも安心して、シュウ。結局素材にアンゲスリュートのドロップが必要なんだから、実力のない人の手には渡らないから。


 ちなみに、このスクロールは一度使うと白紙に戻る。使い捨てのレシピだから、無闇に広まることもない。


「さらにさらに!」


 気分はもう、歳末大売り出しくらいにテンションアゲアゲで最後のアイテムを持ち出した。


「私達とのバトルで、もし五分間耐えることが出来たら、これを贈呈する。全ステータス五パーセントアップのシナモンロールだぁ! なんとこれ、SPまで上乗せされるチートアイテムだ!」


 説明がみんなの脳に定着する一瞬の間の後。

 大地が割れるのではと思うほどの驚声が響いた。

次は月曜日に投稿します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ