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打ち上げ

 飲み会の梯子。リア充のみに許されるやつだ。

 まさかそれを俺が実行する日が来ようとは。


 貿易都市マガダの冒険者ギルド本部には、酒場が併設されている。まあお馴染みの設定なので、あの雰囲気を想像してもらって間違いない。


 ちなみにややこしいのだが、冒険者ギルド本部とは、プレイヤーが個々で作るギルドの元締めみたいなもので、システムが運用している組織だ。なので受付嬢も職員もウエイトレスさんもNPC。ちなみに受付嬢は猫耳だ。これもまたお馴染みの設定に従っている。


 その酒場では今、大宴会が催されていた。目覚めし者挑戦の残念会という名の唯の馬鹿騒ぎだ。


 集中しなければ隣の声も聞き取れないような騒ぎの中、俺はリディスからのメッセージを見た。


「先に始めるわよ。シュウもそっち終わったら来てね」


 いや、俺もそっち行きたいよ。

 穏やかに呑みたいよ。


 でも流石に今日は付き合うしかなさそうだ。何せ俺の正面にはカツオが陣取っていて、先程から大声で本日のバトルを一から説明している。カツオにしたら二連敗。更にはギガントアックスの火武器を盗まれている。聞いてやらなきゃ可哀想ってものだ。


「くっそ。ギルガメッシュ対策に殆どの予備武器は持たずに行ったのに、まさか属性武器を狙ってくるとは。あんにゃろう」

「属性も置いて、無印だけで行けば良かったんじゃないですか?」

「いや、あのギルガメッシュはウサギだろ。じゃあ火弱じゃねーか」


 もう、白狐を襲ったウサギの一団と目覚めし者を同一視するのが定着しつつある。

 まあそりゃそうだろう。使っている技が同じなのだから。


「ああ。隻眼の剣士はあの時のウサギで間違いないと思う」


 いつの間にか近くにいたタオがジョッキを片手に参戦してきた。お前今日、戦ってないよな。なんで普通の顔して打ち上げに参加してるんだ。


 落ち着いて周りを見てみると、ギャラリーだった奴らも大勢混じっている。もう祭りみたいだ。


「タオが言うなら間違いないな」

「MPを盗んだり、壁を作り出したり。全部ウサギ達と同じだ。それに……あの方もいらっしゃいましたから」


 と、頬に手を当ててはにかんだ。


 ん? なんで顔を赤らめてるんだ。

 硬派な印象しかなかったが……。タオ、お前もか。


 カツオの隣でサキイカを食べていたレイラ、先日のメイジの子が身を乗り出してきた。君も今日は戦ってないよね?


「影の貴公子様ですよね! さすがタオさんお目が高い!」

「そう! 前回も素敵だとは思っていたが、今回の破壊力半端なかった! 新しい衣装、最高だった!」

「ほうほう。前は服装が違ってたんですか! それはどんな?」


 レイラが何処からともなく手帳を取り出し、雑誌記者のようにメモを取り出した。


「うむ。ボロボロのローブを着ておられたな。憂いを帯びた瞳といい、さながら追放された皇太子のようだった」

「有り得ますね! 闇に身を潜めて生きてきたんでしょうね。人民の為に不甲斐ない王国の打倒を誓って動きだした訳ですね」

「目覚めし者は皇太子が集めた義賊かもしれないな」


 いや、勝手に設定を作り出したぞ。

 そもそもベル・ウェスは、長年神々の気紛れな戦いに巻き込まれ使役されて来た人類が、反旗を翻して神を討つというストーリーだ。皇族も出てくるには出てくるが、皇帝の名前すら覚えていない。完全な脇役だ。


「お前達、モンスター相手に良くそんなに盛り上がれるな」


 おっさんには分からん世界だ、とカツオが呆れ声を上げた。が途端に女子二人の反撃を喰らう。

 

「二次元だからこそ、愛でる価値があるんですよっ。リアルにはない清潔さ、完璧さ、万能感、そして色気!」


 シャモア風呂入ってないけどな。

 趣味は石ころ集めだけどな。


 ツッコみたくなるが、まあ好意的な話なのでグッと我慢した。

 少し離れたところでは、今度は男達がモスの話で盛り上がっている。


 モスの巨乳と太腿が、いかに素晴らしいかの談義だ。

 これに関しては異論はない。


「で、カツオはどこまで生き残ってたんだ?」

「俺はアレだ、カ○ハメハ」

「おー。粘ったな」


 見たかったな、モスのドラゴンブレス。見物人の話をまとめると、そのカ○ハメハが最後の攻撃だったようだ。


「俺はモグラ少年の落とし穴にやられた」


 愉快げに言ったのは燕水。十本の指に入るプレイヤーだ。


「落とし穴?」

「あー。少年が一番やり易そうだと思って特攻したんだけどな。いきなり足元が陥没して、深い穴に落とされたんだ。俺を含めて四、五人かな。んで見上げたら少年が、申し訳なさそうに頭下げやがった」


 人の良いブランっぽいエピソードだな。


「次の瞬間土が降ってきて、埋められた。まさか土葬されるとは思ってもなかったぜ」


 おお。結構エグい戦い方してるじゃないかブラン。


「ヒーラーが不在だったのにこのザマだ。あれは暫く誰も倒せねーな」

「だな。可能性があるとすれば、聖騎士様くらいだろうな」


 やはり名前があがる。

 今までも、攻略に行き詰まって停滞した状況を打ち破ってきたのは、いつも聖騎士ハヤトだった。信頼と実績がハヤトにはある。


「聖騎士ハヤト、見に来てたぞ」


 いくらハヤトでも、今回ばかりは無理だろう。

 俺が今日アオに無敵時間の活用を伝授したのは、ハヤト対策だ。今回はこちらが先んじて手を打っている。


「だろうな。で、どうだった?」

「……なるほどね、って笑ってたぞ。期待しておこうぜ」


 マジか。

 今回でこっちの手の内はほぼ全て見せてしまってるぞ。

 それでも勝つ算段がついたのか?


 信じられない。

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