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行商人

 NAME アオ(暴れウサギ)


 HP  537   MP  70

 STR 48   DEF 34

 VIT 42   INT 27

 AGI 31


「お、アオも結構数値があがったな」


 ステータス画面を確認していると、ブランが覗き込んできた。


「うん。今日レベル11になったんだ。……で、ブランはどうしてモグラに戻ってるの?」


 ブランはいつもの姿に戻っていた。青いツナギにゴーグルをかけたモグラだ。


「こっちの方が落ち着くんだ。……見てみるか? 俺の新装備」

「うん!」


 ブランがステータス画面を扱うと、重装備を着込んだノームの姿になった。

 なんとういうか、五歳児が鎧を着こんでるみたいな。ドット絵の勇者みたいだ。


「かわいいじゃん」

「俺はかわいいを目指してないっての」


 すぐにモグラに戻った。


「人型人型って言ってたけど、やっぱり生まれながらの姿が一番落ち着くんだよなー」

「そっか。私は早くウサギを脱したいよ」

「じゃあ早く20にならなきゃな」

「頑張る!」


 折角人型になれたのに、何だか勿体ない気もするけど。まあ私も見知った姿でいてくれた方が、安心感があって嬉しい。

 けど、見知った姿とは言え、今のブランのモグラ姿は、進化前とは少し違っていた。


「……なんかブラン、大きくなってない?」

「そうか?」


 ブランは両手で自分の身体を触りながら首を捻った。


「進化すると、前の姿も成長するんだよ」


 肉を焼いてきたノアが口を挟んできた。そして肉を持つ手を休めると、ウルフに変身した。


 現れたのは、見知ったウルフよりも二回りほど大きな狼だった。毛の色の黒ではなく灰色に近い。一目で並のウルフとは別格だと分かった。


「おっきい! 強そう!」

「だろ」


 ノアはすぐにワーウルフに戻ると、誇らしげに口元を歪めた。


「そう考えると、ブランは変化が少ない方だね。ちょっと背が伸びただけだもん」


 ノアほどの別格感がない。


「だな。まあ俺はこの姿を気に入ってるし、変化が少なくて逆に良かったよ」


 ブランは満足げに丸いお腹をぽこんと叩いてから、ノアの前に座り込んだ。あぐらをかき、足首を両手で持ってゆらゆら揺れる。

 私も並んで座った。


「他に進化について、聞いてない事ある?」

「うーん、そうだなぁ。あ、性別な。今回俺は、晴れて雄になったんだぞ」

「え? ブランは前から男の子じゃん」


 進化は性別まで変わる事があるの?


「そう思うだろー。でもな、進化前の個体には性別がないんだよ。アオも自分が雌って自信ないだろ?」

「うん。リディスが最初に女の子って言ってたから、何となく雌なのかなぁとは思うけど」


 もっと言うと、雄なら付いているはずのモノがないからだ。


「みんなそんな感じさー。人型になってやっと雌雄がはっきりするんだ」


 じゃあ私も雄である可能性が残ってるんだ。

 というか、進化しても人型じゃなかったら一生どっちか分からないままなんだ。それはちょっと嫌だ。どっちでも良いから知りたいな。


「進化したいってモチベがまた上がったよ。頑張ってレベル上げなきゃね」

「レベル11って事は、そろそろ北側かー?」

「明日からの予定だ」

「そうなの! バンバンレベル上げちゃうよ〜」

「そっか、北側かー」


 ブランは少し考え込んでから、


「なあノア、俺明日、新武器の素材を買いに行くんだけど、一緒に行こうぜ。アオは初めてだろ」

「ああ、それは良いかもな」


 どうやら明日の予定はショッピングに決まってらしい。


 ブランは進化したので、メイン武器を槍に変える。

 武器に毒のエンチャントを付ける為に『毒蜘蛛の糸袋』なるアイテムが必要なのだという。


「いいな。私もいつかエンチャント武器が欲しいな」

「今使ってる奴もそうだぞ?」

「そうなの?!」


 全然知らなかった。

 改めて見てみると、ダガーの持ち手に小さな赤い魔石が埋まっていた。


「イーグル以外は火弱点の敵だからな。今はそれで十分だろう。北側に行ったら持ち替えの練習も追加するぞ」

「モンスターによって武器を持ちかえるの?」

「その為にモンスターの弱点をすべて覚えるんだ。相手を見た瞬間、対応する属性武器に持ち変える。心配しなくても、その内反射で出来るようになる」


 既にシャモア以外はみんな出来るらしい。

 シャモアは嘴で攻撃する為、武器を持っていないのだという。


「じゃあシャモアは進化で武器を持つ様になったら、覚えることが沢山だね」

「弓になる。問題ない」

「あら。弓だって、武器は持ち替えないけど矢を使い分けるのよ。楽したいなら、シャモアはずっと飛行型ね」

「う。頑張る」


 そんなこんなで、買い物に出かける事になった。


 行き先は街だと思っていたら、平原北側の端っこに案内された。

 そこには巨大なクリスタルが聳え立っていた。高さ三、四メートルはありそうなそのクリスタルは、青く複雑に輝いていた。


 クリスタルのすぐそばには、大きなリュックを背負った若い男性が立っていた。


 プレイヤーを見れば逃げていたので、がっつり人間の姿をした人を目の前にすると、すこし足がすくんだ。


「心配しなくていい。この人はNPC。俺たちと同じように作られた存在だ」

「作られた? でも全然モンスターに見えないけど」

「この人の役目は行商人。街から離れた場所でもプレイヤーが買い物できる様に、フィールドのあちこちに存在する。当然だが自我はない」

「私たちは街に入れないから、たまにこうして利用させて貰ってるのよ」


 そうは言われても、どうみても人間にしか見えない行商人が、実は自我を持たない作り物だとは。何故か少しだけ寒気がした。


「話しかけてみろ」


 ドキドキしながら話しかけると


「何が欲しいんだい?」


 という台詞の後に、ポップアップで品物がズラリと表示された。ポーションや武器防具の他にも、モンスターの素材なんこも売ってあった。


「ハムはないんだね」

「レアだからな。もう少し先のフィールドに行けば売ってあるぞ。高いけどな」


 欲しいものは沢山あるけど、無駄遣いも良くないので、何も買わずにウィンドウを閉じる。すると行商人が話しかけてきた。


「蛙の涙は買ったかい? ここから先は強力な敵が出てくる。準備はしっかりしておきな」


 まさか話しかけられるとは思ってなかった。私はドキドキしながら


「はい。ご丁寧にありがとうございます」


 と返事をしたが、行商人は聞こえていないかの様に、済ました顔で立っているだけだ。


「返事をしても無駄だって。決まった台詞を繰り返してるだけだからなー。ノアが言ったろ。自我はないんだ」

「そうか。びっくりした」

「すぐ慣れるわよ」


 私は行商人の立っている場所から伸びる道の先を目で追った。道は真っ直ぐに森に続いていた。


「ここから先はヤーミカッタの森。次のフィールドよ」

「行商人は次のフィールドに出現するモンスターのヒントをくれるんだ」

「強いモンスターが出るの?」

「プレイヤーはここで、最初のボス戦があるらしい。野良モンスターのレベルもあがるしな」

「いずれは私たちも進むんだよね?」

「アオのレベルが15になったらな」


 今が11だから、あと四つ。意外とすぐ進むことになりそうだ。


「頑張る」


 シャモアは既にレベル14らしいので、私がみんなを待たせることになってしまう。

 レベルの低い平原にずっといるせいで、ノアとリディスは全くレベルアップ出来ていない。それなのに、二人とも文句を言うどころか、嫌な顔ひとつせずに、全力で私たちのサポートに徹してくれている。


 胸を張って仲間だと言えるように、少しでも早く強くなって、次のフィールドに進まなくては。

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