VSシュウ
混乱する戦場の怒号に混ざって、剣のぶつかり合う音が響いた。
やっぱりシュウは強い。
シュウは青シュウだ。つまり普通のプレイヤーと変わらないステータスしかない。
シュウと打ち合い始めてもう一分は経過している。
これだけのステータス差がありながら、私は未だにシュウに有効なダメージを与えれていない。
どうしてダメージが通らないんだろう。
そんなわけ無い。立ち回りがどんなに精錬されていても、ステータスという圧倒的な支配力の前では無力だと、私は骨まで叩き込まれている。
私は剣を振るいながら、問いかけた。
「何かしてるね?」
「当ててみな」
言って、シュウは私の攻撃を刀身で弾いた。
まただ。
私の攻撃は悉くパリィされている。私の方が圧倒的に早いはずなのに、ビタっとタイミングを合わせられてしまう。
何で?
よく観察していると、シュウは私が剣を振り下ろすよりも先に動き出している。
癖を、読まれてる?
「伊達に付き合い長く無いってこと?」
「一つ目はあたりだ」
一つ目。という事は、まだ何かある。
「攻撃する場所を見てるだろ。それに連撃の初手の方が上に来る。モンスター相手なら問題ないが、これから先プレイヤーと戦うなら矯正した方がいいな」
「ご丁寧にどうも!」
パリィと言っても、これだけステータスに差があれば僅かながらもダメージは通る。それなのに、思うように削れない。
そもそも私は双剣使いだ。左右交互に打ち込む事もあれば、同じ軌道でほぼ同時に切り込むこともある。
前者は、百歩譲ってパリィで受けれたとしても、後者は無理だろう。パリィの判定はとてもシビアだ。コンマ数秒のずれも許されない。ほぼ同時に繰り出される攻撃を、両方パリィするなんて無理だ。
それなのに、ダメージが通らない。
私はシュウの動きを観察する。洗練されている。無駄な動きが一つもない。ノアも凄いと思っていたけど、シュウも圧巻だ。
そして気づく。うん。やっぱりニ撃目はガッツリヒットしている。思いっきりシュウの腕に当たっている。なのにノーダメージだ。
私の連撃は、一撃はパリィされ、もう一撃はちゃんとヒットしている。でもシュウに入っているダメージは、パリィを通して入る僅かなダメージだけだ。本当ならシュウをぶった斬っている筈の方のダメージが、判定されていない。
「分かんない。ヒント頂戴」
降参です。
何ですかそれ、スキルですか?
「ははっ。プレイヤーのモーションには短いけど無敵時間があるんだよ」
「無敵時間?」
無敵時間。攻撃を受けても判定が通らない時間。
おそらくほんの短い時間。一瞬にも満たないほどの時間。そのピンポイントのタイミングに私の攻撃が当たるように、技を出している。
一つはパリィし、もう一つは無敵時間に当てる。
え、それって、もう天文学的な確率じゃないの?
何それ。どれだけ頑張っても、辿り着ける気がしない境地です。
これが何万人というプレイヤーの頂点の戦い方。
単純にステータスだけでは語れないシュウの本領。
シュウが生徒を見守る教師の目をしている。
今後避けられないだろうトップランカー達とのバトルの為に、シュウは頂点の戦い方を見せてくれているんだ。
シュウはその為に、今日私達にバトルを挑んでくれたんだ。
私は素直に心に浮かんだ二文字を口にした。
「脱帽」
「そりゃ光栄だ」
「うん。良い男すぎて、惚れそう」
「!」
ビシィ!
あれ、入った。ダメージ通ったね。
「……アオ、俺の耐性のなさを舐めんなよ」
「え? 今日はいつもより防御力高いよね」
「ああ、アオ対策。っじゃなくてだな。……いいや。言葉にすると泣けるから」
よく分からないけど、シュウの心意気は伝わった。シュウは現状で満足しようとしていた私達をもっと高みまで引き上げようとしてくれたんだ。
「シュウ、ありがとう」
ネタが分かれば、対策なんて簡単だ。
シュウが合わせたタイミングを、ズラす。
私は今までと同じモーションで、わざとニ撃目をずらした。無敵時間を避けて攻撃する。
ビシィ。
うん。今度はちゃんとダメージが入る。
ダメージを受けて体制を崩したシュウから、すかさず武器を盗んだ。
「シュウ、勉強になったよ」
手元にあるのは、いつもヒーラーの時に使っている杖だ。
一発で目的の物が盗めた。
「あー! ウェトリアロッド!」
悲痛な声で非難してくるシュウに、私はにっこり微笑んだ。
「私達のヒーラーにプレゼントします」
それはもちろん茶シュウの方だ。
自分のものを盗まれて、もう一人の自分に渡される。シュウは物凄く複雑な表情で顔を顰めた。
「うーー。複雑だ」
ふふ。
さて、シュウのレクチャーも終わったようだし、目的の物も手に入れた。そろそろ終わりにして、みんなの加勢に行かないと。
双剣をクルクルと回して水平に構えると、私は別れの言葉を口にした。
「じゃあシュウ、後から反省会ね」
「まだ負けてないけどな」
シュウも正眼に構える。
切先越しに、二人で笑い合った。
私は地面を蹴り、大きく振りかぶる。
斬り結び、すれ違い様に背後をとる。振り向こうとしたシュウの後頭部目掛けて、剣を振り下ろす。
「シュウの剣技、最高だったよ!」
「っアオもな」
シュウはそのまま光の粒子となって消えていった。
あー。楽しかった。
さて、気を取り直して、私は私のお仕事をしよう。
そう。追い剥ぎだー!
残っているプレイヤーは二十名ほど。大急ぎで収穫しなきゃ、盗り損ねちゃう。
全速力で戦場を駆け巡り、出会ったプレイヤー片っ端から装備を盗みまくる。
倒す必要はない。ただ盗むのだ!
「お?」
西の空に目を転じると、有翼のモスが空に飛び上がっていた。龍人フォルムにドラゴンの翼が生えている。進化による変化だ。モスの場合出し入れ自由な翼が生えたらしい。
モスは空中で、溜めのようなポーズをした。後屈の構えで両の掌を合わせている。その掌の間に、どんどんエネルギーの球が出来ていく。
「三軍爆骨にしてやるでござる!」
そして溜まりに溜まったでっかい光弾を、おおきく振りかぶって、投げた。
「いっけえ! ドラゴンブレス!」
えー! ブレスって口からだからブレスじゃないの?
もう名称詐称じゃん! 掌からって! ってか投げれるの?!
光弾は流星のように太い尾を引きながら、戦場を走っていく。
そのブレスの軌道上にいたプレイヤーが一瞬にして光の粒子になって消えた。というか、ほぼ全滅だな、これは。
「カメハ○ハかよ!」
「なんじゃそりゃ!」
外野からブーイングが飛んだ。




