掲示板
翌日、素材集めに訪れた草原では、十数組ほどのチャレンジャーが彷徨いていた。私達の姿をみとめてプレイヤー達が色めき立つ。
「あいつらじゃねーか?」
「眼帯にロリにイケメン。子供もいるな間違いない!」
「いくぞー!」
プレイヤーが目の色変えて走り寄ってくる。
スーパーの特売に群がる主婦みたいだ。怖い。
「な、何なのよ?!」
「あー、噂が広がったな。予想以上の口の軽さだ」
「ロリとは何でござろう?」
「モス、気にするな」
「どうする?」
「やる。でも三組だけ」
「そうだね。絶対時間はすぐに終了させて連続で三戦。んで逃げよう」
「分かった」
返事をしながら、シャモアがプレイヤーめがけて駆け抜けていった。負けじと私達も後を追う。
「俺は子供じゃねーぞ! 目覚めし者だこんにゃろー」
ブランが叫びながら大地に両手をつく。途端に競り上がって来た岩壁を、モスが乱蹴りする。いつもの必勝コンビネーションだ。
モスとシャモアがあっという間に二人を倒した。その時、横から見ていた外野が叫んだ。
「おい! 参戦してもいいか?」
「頼む!」
「よっしゃ! 行くぞー」
わお、飛び入り参加だ!
ここがプレイヤーのズルいところだ。後から何人でも追加で参戦できる。
人数が減ったら追加、減ったと思ったら追加。
もう、ズルい!
「キリがないわ」
リディスが矢を放ちながら盛大にため息をついた。
「相手してるだけで一日終わっちゃうじゃない」
「中にはなかなか手強いのもいるでござる。鍛錬にはなるでござるよ」
「限度があるだろー」
うーん。村を作る野望のある私達にとって、素材集めが重要なミッションであることは間違いない。
プレイヤーにかける時間を削らなきゃな。
折角来てもらったのに悪いけど、戦う相手を絞らせて貰おう。
でも絞ると言ってもどうしよう。
とにかく逃げる? 草原には近寄らない?
それに私達の外見は既に広まっている。
草原以外でも襲われ出したら、目も当てられない。
「ねえシュウ。これってその内落ち着くかな」
「暫くは無理だな。一月くらいはこんな感じじゃないか?」
「草原以外でもこうなる?」
「なるな」
まさかここまでの事なるなんて、想像を遥かに超えている。
私達と戦う事がプレイヤーの利益になるって、本当だったんだな。
「私達もう、隠された存在じゃなくなってるね」
「だな。いつまでも秘密にしておきたかったか?」
「……ううん。コレで良いと思う」
この世界の頂点の座を目指すなら、プレイヤーとの衝突は避けては通れない道なのは確かだ。言ってみればこれは覇権争い。それならば、姿を隠したままでは筋が通らないだろう。
弱い時は、秘密を知られて狙われるのが怖かった。でも今は、襲われても勝てるのだと分かった。お陰で堂々とプレイヤーに、その座を明け渡せと迫る事が出来る。
本当に私達はステージを一段上ったんだ。
それにしても、この猛攻。
うーん。どうしよう。
取り敢えず、話してみよう。何事も会話からだ。
「シャモア、全員捕まえて」
「分かった。捕縛」
あっという間に、鋼鎖によってぐるぐるに自由を奪われたプレイヤー軍団が出来上がった。
九名が輪になって、纏めて鎖で巻かれている。
私はその一団を見下ろしながら、剣を鞘に収めて近づいた。情け容赦なくアイテムをポイポイ盗みながら説教をたれる。
「あのさ。後から後から新手が来ても困るわけ。大勢で挑みたいなら、最初から合同パーティですって言ってくれるかな」
「はい。……え? モンスターが喋ってる」
「本当に喋るんだ」
プレイヤーが変なところに反応して来た。そりゃ驚くよね。私でもモンスターにいきなり説教されたら面食らうもん。でも、言わなきゃ伝わらないから仕方ないでしょ。
シュウが隣で楽しそうにうそぶいた。
「喋るよ。俺たちはベル・ウェスの生み出した最終進化系モンスターだからな」
シュウは違うよね?
でもまあ、そう言うことだ。喋る事に納得したなら、次に進んでいいかな。
「私達もモンスターだからね。プレイヤーと戦うのはやぶさかでないんだよ。でも節度を持って挑んできて欲しいわけ」
「いやでも、節度って言われてもさ。いつでも誰でも挑んで良いのがモンスターだろ」
プレイヤーの男が目を白黒させながら反論して来た。
「だから、俺達最強。お前ら雑魚。選ぶ権利、こっちにある」
「少なくともあと幾ばくかは強くなければ、こちらも萎えるでござる」
シャモアとモスが辛辣だ。
ほんの数日前までは、私達の方が雑魚だったのに。
でもコレで良い。今大事なのは、舐められない事だ。
「そう言う事。ルールはこっちで決める。私達と戦いたいなら、それに従って」
「ルールって、何だよ。クエスト条件か?」
私達を何かのクエストだと思っていたのか。それは申し訳ないことをした。
じゃクエストじゃないって分かれば、チャレンジャーの数は減るかもしれない。
「ごめん。討伐報酬とか何もないよ。私達クエストじゃなくて単なる野良モンスターだから」
「野良がこんなに強い訳ねーだろ!」
「そんな事言われても事実だし。だから、私たちに挑戦して来ても何にも良い事ないよ」
「あるぞ」
口を挟んで来たのは、シュウだ。
「成功報酬は、名声だ」
それ、報酬って言うのかな。
まあシュウが言うなら、そうなんだろう。現に縛られているプレイヤーの何人かの目がギラついた。怖いな。
「えっと。ルール一つ目。私達は草原でしか挑戦を受けない。他の場所で見かけても、スルーして欲しい」
「他の場所にも出没するのかよ! 本当に野良か?!」
そこはもう、受け止めて欲しい。
最新のAIならこんなモンスターもあり得ると納得してくれないかな。
「後のルールはまた、考えてから伝えるから。今の話広めておいて。草原以外で襲って来たら……身ぐるみ剥ぐからね」
「げぇ!」
――――――――――
その夜。シーハオ草原に唐突にある物が現れた。
掲示板だ。
街の酒場やギルド本部にある、クエストボードとほぼ同じ。ただ決定的に違うのは、そこに書かれている物がクエスト内容ではないと言う事だ。
そこにはヤケに美麗な文字でこう書かれていた。
『こんにちは。こちらは目覚めし者です。
戦いを挑む人は、代表者と人数を書いた紙を貼っておいて下さい。
その中の誰と戦うかは、こちらで指名します。
次回は三日後の夜七時から行います。
掲示板を通さないバトルは受け付けません。
ルールを守って、楽しくやり合いましょう!』




