リベンジ
先程のバトルで、私は一つ新しいスキルを手に入れた。
【質草】 奪った物を対価と引き換えに返還することができる。
それ、スキルなくても出来るよね。さっきやったよね。
これは流石に死にスキルになりそうだ。
一組目とのバトルが明けると、すぐに別のパーティが襲いかかって来た。
「わわっ。何で?!」
「さっきのバトルを観戦してたんだろうな。チャレンジャーだよ」
「返り討ちにするでござるよ」
飛んできた矢を刀身で弾き飛ばしながら、私は一気に懐に飛び込んだ。
今度の敵は、先程のパーティよりも弱かった。
今回は雑談する余裕すらある。私達はチャットで会話しながらサクサク戦った。
「結構プレイヤー相手でもやれるもんだなー」
「だから言ったろ。さっきのパーティ、そこそこ強い奴等だからな。モスにボコられた斧いたろ? あれ、俺のフレ」
「ご友人でござったか! それは失礼いたした」
「いいんだよ。あいつがいたからわざと襲ったんだから」
シュウは物凄く楽しそうに、くくくっと含み笑いをした。
「悔しがってるだろうなぁ。あ、でも口の軽い奴だから、アオ達の噂をどんどん広めるかもしれないな」
話しているうちにシュウはそわそわし出した。
「俺このバトルが終わったら、ちょっと様子見てくる」
何だかとても楽しそう。シュウのためにも最速でバトルを終わらせた。
「よしっ終了。じゃあ俺ちょっと行ってくるな」
「うん」
見送ろうとした時、また横からチャレンジャーが現れた。
「また?!」
すぐにバトルに突入する。そんなループが何度も繰り返された。終わればまた次が来る。引く手数多の状態に、正直辟易した。
だってプレイヤーはアイテムを落とさないし、解体も出来ない。まだまだ素材集めがしたい私達にとって、際限なくプレイヤーに時間をとられるのはごめんだった。
「撤退しよう」
私達は次に現れたチャレンジャーを振り切って、転移で逃げた。
――――――――――
カツオはマガダにいた。五、六人で輪になって大声で話している。そこにいる面々は、もちろんさっきアオ達にボコボコにされた奴等だ。
俺はニヤケそうになる顔を必死で引き締めながら、何気ない風を装って近づいた。
「随分と騒いでるな。何かあったのか」
「お、シュウ! 良いところに来たな」
顔が真っ赤だ。酒を飲んでいるのか。いや、これは単に喋りすぎて酸欠気味なだけだな。ほんと、面白いおっさんだ。
「シュウ、草原で変なモンスター見た事ないか?」
「あ? この間言ってたウサギのことか?」
「いや、ウサギじゃない。パッと見はプレイヤーなんだよ。普通に喋るし」
「じゃあプレイヤーだろ?」
「いや、攻撃して来たんだって!」
知らないフリをするのも大変だ。
そもそも俺は嘘が上手じゃない。カツオくらい単純な相手じゃなければ、すぐに見抜かれてしまうだろう。
「バトル出来たんなら、モンスターだろ。プレイヤーキルが出来る様になった話は聞かないぞ」
「ああ。さっき試してみた。プレイヤーキルは出来ないまんまだったよ」
「ふうん。新種がまた出たんだな。人型モンスターなんて珍しくもないだろ」
「そんな呑気な話じゃねーんだって!」
カツオが口から唾を飛ばしながら否定して来た。汚い。ゲームなのに変なところがリアルだ。
「しかも名乗りを上げたんだぜ。目覚めし者だ、どうぞ宜しく、だってよ! 主人公かよ! そんなモンスターありか?」
息巻くカツオの横で、メイジの少女がボソッと呟いた。
「……かっこよかった」
「あ? あの鋼鎖か?」
「超絶美形。どストライク。推すわー」
「……モンスターだぞ?」
「カツオさん。人権は二次元にこそあるんだからね!」
おお。シャモアに聞かせたいぞ。そしてこの子には、シャモアの中身を教えてみたい。
というか、この子さっきギャン泣きしてたメイジじゃないか。泣きながらそんな事考えてたのかよ。
「見たことない技ばっかり使ってくるんだ。俺は早々にやられちまったんだけどな。こいつ」
と、メイジの子を指差して
「レイラってんだけど、レイラはMPとアルテミスの弓を盗まれたらしい」
「何か聞いたことある話だな」
「ああ。白狐が探してたウサギと同じだ。けどな、今回は交渉に応じてくれたらしい」
「氷結のクリスタル三つと引き換えに弓を返してくれたんですよ。最初十個と言われたんだけど、値切りました!」
レイラが成果を誇るように、指を三本立出てみせた。
「この間のウサギと言い、モンスターの中で武器集めが流行ってんのか?」
「くそっ、あのギルガメッシュめ」
アオー。変な渾名つけられてるぞー。
「リベンジするぞ。シュウ、付き合えよな」
「俺?」
どうしよう。俺もそのギルガメッシュパーティの一人なんだけど。
でも、リベンジか。
それは悪くない。むしろ良いぞ。
俺もトップランカーの端くれとして、今のアオ達と全力で戦ってみたいという欲はちゃんとある。
そして何より、ノアのいない今、アオに剣士の手解きをするのは俺の役目だろう。
いくら全力を出しても、うっかり殺してしまうなんて事は、あのステータス相手じゃないだろう。
いや、あるか? 俺はあいつらの手の内を知り尽くしている分アドバンテージがあるもんな。
だがプレイヤーキルの封じられたこの世界では、常にプログラムされた敵としか戦えない。自由意志で動き回る敵との真剣勝負なんて、興奮するなという方が無理って話だ。
「三日後でもいいか?」
「何でだよ」
「俺にも準備があるんだよ」
三日もあれば、みんなはもう雲の上の存在になっている。うっかりキルの心配は完全になくなるだろう。俺というヒーラーなしでも、問題ないはずだ。
「仕方ねぇなぁ」
「よし、じゃあ三日後の夕方にくるよ。ジョブは大剣でいいか?」
「いいぜ。どうせメイジじゃ無力化されて終わるからな」
さあ、残り三日。アオ達の装備を完璧に整えてやらないとな。何せ三日後の相手は俺なんだから。




