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初戦

 バトルはリディスの弓から始まった。


「なっ?!」


 リディスの放った矢が正確にタンクの左目を抉った。何に襲われたのかも分からないプレイヤー達が、焦りながらも武器を構える。


 回復魔法を唱えようとしたヒーラーから、すかさずMPを奪って距離を詰める。

 プレイヤー達の動揺が収まらないうちに、私達は一斉にヒーラーを取り囲んだ。


「は? ええ?!」


 最初にヒーラーを潰す。メギド封じだ。


 五人の攻撃が全てヒーラーに降り注ぐ。ヒーラーは耐えれるはずもなく、なす術なく沈んだ。


 避ければ済む斬撃と違い、プレイヤーの魔法は厄介だ。モンスターの使う魔法はエフェクトが派手だから避けれるが、プレイヤーのは避けにくいのだ。

 私はすかさず、メイジからもMPを根こそぎ頂戴した。


 私達の姿を視認したプレイヤー達から驚きの声が上がる。


「な、なんだお前達! プレイヤーキルは出来ないはずだろ?!」

「違う。俺達、モンスター」


 シャモアが短く応えながら、大剣目掛けて鋼鎖を放つ。


「目覚めし者だ。どうぞ宜しく」


「目覚めし者?! なんだそれ! くそっ! おいこっちもヒーラーを狙うぞ!」


 相手もヒーラーを狙ってきた。うちのヒーラーはシュウだ。シュウはプレイヤーなので、プレイヤーからの攻撃は弾かれる。だけど、それを悟られるわけにはいかない。

 私達は陽気な最強モンスターパーティという設定なのだ!


「創造!」


 ブランが地面に手をつき叫んだ。

 途端、シュウの足元の大地が競り上がり、高い柱となってシュウを持ち上げた。


「ブラン、サンキュー」

「良い眺めだろー」


 柱の上から、シュウは私達に向かってバフを振り撒いてきた。


「くそっ! 何なんだよっ! こんな柱、ぶっ潰せばいいんだろうが!」


 斧が柱に向かってスキルをぶち込む。


 でも大丈夫? その背中、ガラ空きだよ?


「油断大敵でござるよ!」


 モスとリディスが容赦なく背中に猛攻を仕掛けた。


「これで二人目、でござる!」


 残りはメイジ、大剣二人、タンク。


 四人は武器を構えて、私達と距離をとっている。こめかみに冷や汗が流れているのが見えた。


 突如降って沸いた災厄に、歯軋りしている。

 その気持ち分かるなぁ。

 私も何度も経験したよ。

 でも、あなた達は負けても死なないんだよね。


 そう思うと、気持ちよく戦える。うん。モンスターと戦うより、プレイヤーとの方が気が楽だな。罪悪感を抱くポイントがない。


 強いって最高だ!


 リディスがすっと手を上げると、大剣持ちの一人を指さした。


「お前、隣の大剣をやりなさい!」

「え、え?」


 大剣持ちは、隣の仲間に襲いかかることはなかった。

 でも、眷属化が全く効いていないというわけでもなさそうだった。


「か、身体が動かない!」


 眷属化はしなくても、身体の自由は効かないようだ。言うことを聞かないプレイヤーに、リディスがプンスカ文句を言った。


「もうっ! なんでやんないのよ!」

「身体の自由は奪えてるぞー。プレイヤーは操りにくいんさー」

「自我がある者は眷属化出来ないのではござらんか?」

「むーなんでよ! プレイヤーなら心が痛まないと思ったのに! でもこれで十分だわ。ブラン、やっちゃいなさい!」

「分かったぞー」


 ブランが意気揚々と大剣に飛びかかった。


 ブランを食い止めようと、もう一人の大剣が躍り出てきた。が、その剣はブランに届く前にシャモアによって弾き飛ばされた。


 タンクには、防御力無視のスキルを持つモスが向かう。


 私はメイジ担当だ。

 MPポーションで回復してくるので、こまめに奪いながら、一気に距離を詰めた。


「ひっ!」


 メイジからしたら、一瞬で目の前に私の顔があったのだろう。青ざめた顔で、息を呑む音が聞こえた。

 私はほんの数センチ先にあるメイジの顔に向かってにっこり微笑んだ。


「何かちょーだい」


 そして、盗む。


 すれ違いざまに盗んで、離れたところで手にした戦利品を眺めた。

 アルテミスの弓。


「うー。かぶった」


 溜め込んでいたアイテムも全て失ってしまったシュウの為に、杖をプレゼントしたかったのに、残念だ。


「え? え? それ、私のアルテミス!!!! なんで?!」

「えっと、貰っちゃった」

「そんなあぁぁぁ! やっと出来たところだったのにいぃぃぃ!」

「え、え、泣かないでよ。悪いことしてる気になるじゃん」

「してるじゃん!」


 バァン!


 その時、背後で破裂音が響いた。

 振り向くと、シャモアの鋼鎖に絡め取られていたプレイヤーが、そのままバラバラに引き裂かれたところだった。


 こわ! シャモアの戦い方、えぐい!


 気がつけば、他は全て終わっていた。

 プレイヤーたちは全て光の粒子となって消えたあとだった。


「後はアオだけだぞー」

「う、うん。そうなんだけどさ」


 私はさめざめと泣くメイジの少女に目を戻した。


「嘘。私だけ……。みんなやられちゃったの? えー……ううう。アルテミスの弓、やっと作ったのに……」


 呆然と仲間のいなくなった草原を見つめる少女を、六人で取り囲んだ。


「アオ、何したんさ?」

「泣いてるわよ。可哀想に」

「な、何にもしてない! コレ、盗んだだけ!」


 なんで私が悪者みたいになってんの?!

 みんな楽しそうにやってたよね?!

 シャモアなんて、引きちぎってましたけど?!


 まあ、プレイヤーは死んでも生き返るけど、奪われた弓は戻ってこないもんね。確かに私の方が悪質か。


 うーん。


 ぶっちゃけ、アルテミスの弓はいらない。だから返しても良いんだけど、タダで返すのも勿体ない。


 私は中腰になって、座り込む少女と視線を合わせた。


「ね、あなた、氷結のクリスタルって持ってる?」

「うん、……いえ! はい!」


 少女はこっちが申し訳なくなるほど、全身を硬直させながら大声で返事をした。

 私は努めて怖くないように微笑んだ。


「じゃあクリスタル十個と、この弓交換しない?」

「じ、十個!? そんなに持ってないです!」

「何個持ってるの?」

「……五個です」

「じゃあ五個」

「一個!」


 値切ってきた!

 意外に胆力あるな!


「んー、四個!」

「一個!」

「うー三個! これ以上まけない!」

「ううう。分かりましたぁ」


 かなり値切られてしまったけど、いらない弓より集めにくい素材の方が嬉しい。うん。ウィンウィンだね!


 私はクリスタルと引き換えにアルテミスの弓を返した。


 弓を受け取った少女は、立ち上がるとヘラヘラ作り笑いをしながら、すすすっと後退りした。


「えへへ。じゃあ私はこれで」


 そのまま立ち去ろうとしている。

 リディスがガシッと、その肩を掴んだ。そして女王様の微笑みを浮かべた。


「ついでに経験値も置いていきましょうか?」


 にっこり。


「え? え?」

「モス、やっちゃって!」

「承知したでござる!」

「え? え? ぎゃあああ!」


 ちーん。


 ご愁傷様。

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