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下剋上

「おお。これが絶対時間の中か! すげー。感動だ」


 レベル1になったシュウが初めての絶対時間に興奮している。


 あの後、レベル上げのためにダンジョンに行くに当たって、問題が生じた。それは私達が絶対時間の中にいる時、シュウがダンジョンで一人ぼっちになってしまう事だ。今まではシュウは最強だったから問題なかったけど、今のシュウを一人にしたら瞬殺されてしまう。


 そこで試しにシュウとパーティを組んでみた。すると、シュウも一緒に絶対時間に入る事ができたのだ。残念ながら、シュウは絶対時間を通しても回復することはなかった。そこはプレイヤーとリポップするモンスターの違いなのだろう。


 私が解体作業を実際にしているところも、初めて見れて大喜びしていた。


「何だそれ」

 とか

「ずるいだろ」

 とか、散々騒いでいた。


 えへへ。羨ましいでしょ。今や自慢のスキルです。


 ちなみに、ややこしいので二人のシュウは髪色で呼び分けている。前のシュウは青髪だったから青シュウ。今のシュウは茶シュウだ。チャーシューとも言う。


 そしてあっという間に、シュウが茶シュウになってから三日が過ぎた。


 シュウは破竹の勢いでレベルを上げて、今はもうレベル68だ。私達もダンジョンで戦うようになったので、一気にレベル74に上がっていた。


 今のステータスは


HP  77,120   MP  10,020

STR 1,156   DEF 947

VIT 956   INT 1,015

AGI 1,075



 正直、もうレベル上げは装備の為の作業になっている。

 早く99になって、最強装備で揃えたい。


 シュウは引くほどよく食べた。

 その甲斐あって、ステータスだけなら以前のシュウに匹敵するまでになっていた。


「そろそろ平原行ってみるか?」


 ステータス画面を見ていたシュウが、意外な提案してきた。


「どうして? 今はタオって人がいるから近寄らない方が良いって言ってたのに」

「だからだよ。リベンジしに来たトップランカーを返り討ちにしてやろう」


 シュウは意地悪そうにニッと笑って


「大丈夫。勝てる」


 と太鼓判を押した。


 え? プレイヤーと戦えって言ってるの?

 今まで徹底してプレイヤーを避けてきたのを知っている筈なのに、急にどうしたんだろう。


 強くなったと言っても、今まで通りの生活を続けていくつもりだし、目覚めし者の村だって、プレイヤーの脅威から身を守る為に欲しいと思っているのに。


「不意のバトルは仕方ないにしても、わざわざこっちから戦いに行く必要はないんじゃない?」

「そうだぞー。プレイヤーを見たら逃げる。俺らはずっとそうやってきたんだからな」

「だから、もう逃げる必要ないんだよ。みんなの方が強いんだから」


 シュウの言葉を疑うわけじゃないけど、だって、そもそもステータスはプレイヤーより大型モンスターの方が高い。それでも大型だってプレイヤーにボコボコにされてるじゃない。


 私達の方が強いと言われても、はいそうですか、とは簡単には思えない。だって私達は負けたらそこで消滅なんだもん。


「みんな、どう思う?」


 私は仲間の意見を求めた。ブランとリディスは懐疑的。でもモスはヤル気のある顔をしている。そして意外なことに、シャモアもモスと同様に前向きな顔をしていた。


「小生は、いけると思うでござるよ」

「私は正直怖いわ。強くなったのは分かるけど、刷り込まれた恐怖は簡単には消えないわ。ドラゴンでさえ一人で倒しちゃうんでしょ?」

「強くなったと言ってもドラゴンに比べたら俺は雑魚さー。勝てる気しないぞ?」

「あれはな、ドラゴンには決まったパターンがあるから出来るんだよ。アオ達の立ち回りについて来れるプレイヤーは限られるって」


 でもそれは私達も条件は同じだ。

 自由意志で立ち回ってくる敵とは、殆ど戦った事がない。


「無理に戦う必要あるのかしら? 折角人型になれたのにまた狙われちゃうわ」

「でもみんなならこの世界の頂点になれるんだぞ」


 頂点。そんなものは目指してなかったけど。

 いやモスとかノアはロマンを感じるんだろうけど。もちろん人並みには私もワクワクするけども。


 求めてきたのは、そんな大それた物ではなく、何者にも怯えずに生きていける環境。ん? それって結局は頂点と同義なのかな。


 でも頂点って言ったら、急に敷居が高くなる。

 格下の敵に怯えながら、こそこそと暮らすのは頂点の生き様ではない。


「本当に勝てると思う?」

「勝てる。一人を狙い撃ちにされるとツライけど、みんな飛んで逃げれるだろ。想定できる一番ヤバい状況が飛べないブランが集中して囲まれた時だけど……」

「それは石壁に閉じ籠るぞ」

「うん。だから本当に問題ない」


 ブランの岩壁は魔法も通さない。シュウの思い描く最悪のシチュエーションですら、さしたる恐怖を感じなかった。

 あれ? 本当に勝てそうな気がしてきた。


「この間言ったはずだ。自覚しよう、と。ステージは変わったんだ。みんなはもう捕食者側になったんだよ」


 シュウがガンガン推してくる。


 でも、そうか。

 私達はついにここまで来たのか。

 目覚めし者が連綿と願ってきた、命を奪われない領域に。


 守護者を受け継いだ時に感じた、肩に置かれた先人達の手の温もりが蘇ってきた。託された夢の場所に、私達はいま立っているのか。


 そう考えると、ふつふつと湧き上がるものがあった。


「……決をとろう」


 掟に直接触れることではないけれど、これはとても重要な判断になる。決をとるのが正解だろう。しかもこれは多数決ではない。


「満場一致でない限り、先には進まない。今まで通りの生活をしよう。じゃあ始めるよ。プレイヤーに挑むか、現状維持か」


 すぐにモスとシャモアが『挑む』に一票を投じた。


 慎重派のリディスとブランに視線が集まった。

 二人はどう考えるのだろう。


 特にリディスはノアだけじゃなく、沢山の仲間を失ってきている。前に聞いたカーマという人も。


「なあ、シュウ」


 ブランが口を開いた。


「俺らが積極的に襲い出したら、プレイヤーはどんな反応をするか分かるかー?」


 そうか、こっちの気持ちだけじゃなく、相手の反応も考えなければ。


「喜ぶ」

「俺らと戦う事が、プレイヤーの利益になるのか?」

「最近イベントもないからな。暇してる高位のプレイヤーは泣いて喜ぶ」

「そんなもんか?」

「間違いない。誰が最初に討伐できるか、盛り上がるぞ」


 そんな目の色変えてやってくるプレイヤー、普通に怖いんだけど。というか、向こうからガンガン攻めきだしたらヤバくない?


「俺らが倒してもプレイヤーは死なないんだよな。ちゃんと復活するんだよな?」

「するぞ。なんだブラン。プレイヤーを殺してしまうかもって心配してるのか?」

「まあ……。プレイヤーはあからさまに自我あるだろ。やっぱり躊躇うさー」


 襲ってくる奴は仕方ないけど、こっちから攻めると寝覚悪そうじゃないか、と口を尖らせた。


 それでプレイヤーの反応を訊いたのか。そんな事考えもしなかった。殺しても死なないのがプレイヤーだと思っているから。


 ブランも知識としては持っているけど、心が追いついていないという事か。


 そう考えている私の中で、リディスは小さくため息を吐いた。


「プレイヤーがこの世界に飽きたら、サービス終了。プレイヤーはお客様。楽しませるのも目覚めし者の役目なのかしらね」


 リディスはそう呟くと、もう一度シュウを問いただした。


「勝てるのよね?」

「ああ。勝てる」


 シュウが力強く太鼓判を押した。


 リディスは一度キュッと目を瞑ると、決心したみたいに顔を上げた。


「……やってみましょうか、プレイヤー攻略。でもいきなりトップ相手ではなくて、手頃なの見つけて、挑んでみるっというのでどうかしら?」

「……だな。じゃあ行き先はツティーシニーじゃなくってシーハオ草原辺りが良いさー」


 これは、二人とも賛成に一票という事だ。

 残りは私だけ。


 私はノアの結晶を握りしめた。

 

 みんなを見る。緊張した顔、興奮した顔、不安げな顔。様々な顔を一つ一つ確認して、私は小さく頷いた。


 ベル・ウェスの頂点。それは今までプレイヤーだった。

 でも今は、これからは。その座を私達が戴く。これはその第一歩だ。


 みんなの前に、右手を差し出す。


「行こう。やっとここまで来たんだから」


 その手の上に、ブランが手のひらを重ねた。


「狩られる側からの脱却だな」


 モスの手が重なる。


「ボコボコにするでござるよ」


 シャモアが横に並んで手を伸ばした。


「借り、返す」


 リディスが小さく笑いながら、柔らかく手を重ねた。


「カーマに、ノアに、見せたかったわ」


 そこに、唯一のプレイヤーの手が乗った。


「絶対に死なせないから、全力で行け」


 円陣を作って、間近にある仲間達と笑みを交換し合った。

 私は左手を一番上に置いて、みんなの手を包み込むように挟んだ。


「私達がここに至ったのは、先人達のお陰だ。その感謝を忘れずにいよう。モモから続くこの道を、私達はこの先も進んでいく。ここから先は後人の為の地固めだよ。ーー全力で行こう」


 さあ、反撃だ。

次は月曜日です。

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