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ターニングポイント

「やはり一番に思い当たるのは拠点でござるな」


 絶対に私達しかしない事と言えば、ティグナルの穴で暮らすことだ。

 ブランの穴掘りスキルはどんどん上がっているので、新しい効果が現れたのかもしれない。


 ブランはステータス画面を確認して


「何にも書いてないけどなー」


 と首を捻った。

 表示はされない隠し要素みたいなものなのかな、と考えながら私は食後のデザートに手を伸ばす。

 桃奈印のシナモンロールだ。

 これは美味しいだけでなく、全ステータス五%アップという優れものなのだ。


 そう言えば、これも私しか知らないレシピだな、そう思いながら美味しく頬張る。桃奈が私にくれたプレゼント。言わば姉からの贈り物だ。

 有難いなぁと、何となくシナモンロールの情報を見た。


「あ」


 分かったかも。

 

 あまりの事に、もう一度確認してみる。うん。やっぱり間違いない。


 シナモンロールの説明に、当然あるべき一文がなかった。


「これ、全ステータス五%アップってなってる!」

「最初からそうだよな」

「違う。『食後三十分』の一文がないの!」

「え?」


 どんな料理も、食べれば食後三十分間だけステータスが上乗せされる。HPだったり、STRだったりと効果は様々だけど、全てに共通するのが『食後三十分』という縛りなのだ。

 その縛りが、なくなっていた。


 これって、食べる度に五%ずつプラスされていくって事?

 三十分だけじゃなくて、永遠に?


 まるでこだわりなく、さらっとシナモンロールを召喚した時の桃奈を思い出す。

 そんな凄いものなら、一言教えて欲しかった!


「いや、最初に食べた時はちゃんと『食後三十分』ってあったぞ?」


 ブランが首を傾げた。桃奈印だから「もしかして通常より長く効果が続くのでは?」という期待を込めて確認したから間違いないらしい。


 私はと言えば、正直あまり覚えていない。

 食後三十分はデフォルトだと思っていたから、あまり注目していなかったからだ。


 自分で作ったのに、情けないなと反省している横で、シュウが裏返った声を上げた。


「ちょっ、生姜焼きも『食後三十分』がないぞ?!」

「え?」


 私は食べ散らかされた食事を慌てて見た。


 今日のメニューは生姜焼きと味噌汁とポテトサラダ。デザートのシナモンロール。

 その中で『食後三十分』の記載があるのは味噌汁だけだった。


「なんで味噌汁だけ?」

「アオ! やっぱりお前が原因だ。何か思いつかないか? 味噌汁だけしなかった事!」

「えー。全部普通に作ったよ?」


 分からない。

 調理法? 煮たらダメとか?

 材料? 海藻はダメとか?


「生姜焼きは肉と生姜と醤油、酒、砂糖。ポテトサラダはじゃがいもとハムときゅうりとマヨネーズ。味噌汁は豆腐にワカメ、ネギと味噌に昆布出汁。シナモンロールは小麦粉、スパイス、バターに蜂蜜と砂糖。全部バラバラだね」


 これだけじゃ分からない。いったん全ての料理を作ってみて、効果の永続するものとそうでないものに分けた方がいいかもしれない。


「……味噌汁だけ、全て採取した素材でござるな」


 うちの頭脳派が閃いた!


「他の料理には、スキル『下拵え』で入手した物が混ざっているでござる」


 肉、ハム、マヨネーズの卵、バターのミルクと蜂蜜。

 本当だ。


 私は下拵えの欄を確認した。


【下拵え】レベルMax 解体、血抜きが出来る。全ての素材が入手可能。入手した食材の効果が著しく上がる。


「いつの間にかレベルMaxになってた。食材の効果が上がるって一文が追加になってる」

「それだ!」


 つまり、私が下拵えで手に入れた食材で作った料理は、「食後三十分」の縛りが消える。


「私の料理は食べれば食べるだけ、ステータスが上がるって事?」

「……だわね。……気持ちが追いつかないわ」

「なんか、震えてくるでござる」

「試しに、俺が解体した肉で何か作ってくれよ」


 ブランが差し出した肉は鶏肉だったので、照り焼きチキンを作った。

 出来上がった照り焼きには、従来通り『食後三十分』の記載があった。


 逆に、私が手に入れたハムで、調理師でなくても作れるサンドイッチをリディスに作ってもらった。驚いた事に、『食後三十分』の記載はなかった。


「確定だな。シナモンロールも誰が調理するかも関係ない。アオが解体した食材が、特別なんだ」


『下拵え』はユニークスキルだ。だからこれは私しか出来ない事なのだ。ゲームバランスを完全に崩壊させるチート能力。それを手に入れてしまった。


 単なる思い付きで始めた解体だったのに。消えていく肉が勿体無いな、くらいの軽い気持ちだったのに。

 それがまさか、こんな結果になるなんて。


「……」

「……」


 なんかゾワゾワする。

 

 あまりの事に全員が、絶句していると、シュウが長い溜息を吐いた。そして言い含めるように静かに口を開いた。


「……自覚しよう。もうステージが変わったんだと」

「ステージが?」

「ああ。後四、五日もすれば、アオ達は狩られる側ではなく、プレイヤーを狩る側に回る」


 私達は一日三食は食べている。それを五日続けたら、十五回。それで今のステータスが約二倍になる。


 シュウは戸惑う私達の目を一人一人ゆっくり見つめ、不敵に笑った。


「おめでとう。下剋上達成だ」

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