とにかくわちゃわちゃ
拠点に戻ると、モスは早速リディスに急かされて皆の服を作り始めた。
そんな頑張るモスを横目に、私達はそれぞれの持ってきた情報を整理することにした。
なんだかとても、情報がわちゃわちゃしている。どれから処理しよう。
「最初はやっぱあれだろ。シュウ、結界石ってアイテム知ってるか?」
「いや、聞いたことがないな。何の素材だ?」
「城壁~。結界石さえあれば城壁作れそうなんさー」
私達は『目覚めし者の村』構想を話して聞かせた。
「それは……実現したら凄いことだな」
「でしょ?」
「でもそんな怪しげな物が出来たら、プレイヤーは色めき立つな」
それはそうだろうけど、中に入れないのだから問題はないと思う。そう言うとシュウは微妙な顔をした。あまりプレイヤーを軽く見ない方が良い、という事らしい。
「もし俺ならテイマーになって有翼のモンスターを仲間にするな。それで突破出来るかは分からないけど、中に入る方法はきっと誰かが見つけるよ。ゲーマーはそういう事に命かけれる変態の集団だからな。まあ俺もその一人なんだが。村は、地下に作る方法を見つける方が安全だと思う」
城壁にしても地下空間にしても、どっちにしてもブランだよりだ。
でも大丈夫、うちのブランは伝説の鍛冶師だからね。その内きっと良い方法を見つけてくれると信じている。
「後、面白い発見があったぞー。転移クリスタルな、フィールドにあるのと街中にあるのってレシピが違うんだ」
「へぇ? どっちが簡単そう?」
「フィールド。街中にあるやつは結界石が使われてる」
城壁の結界だけじゃなく、クリスタルにも結界があって、重ねがけになっているってことだ。これも村作りには必要な情報だった。
「それより、そのハヤトって人、大丈夫なの? アオの何かを見咎めたってことよね。シュウ、私達プレイヤーと違うところがあるの?」
ハヤトの観察するような視線を思い出す。あれは明らかに何かを愉んでいた。ハヤトは私のどこに違和感を覚えたのだろう。
「いや、プレイヤーにしか見えないよ。ハヤトは頭が良いんだよ。俺じゃ気付かない何かに気づいたのかもな」
「違う。アオ、大人になったから」
シャモアが断定的に口を挟んできた。
「店入る前子供、出てきたら大人。見てたんだと思う」
「あー」
よく同一人物って気づいたな。成長もしたし、眼帯もしてたのに。
「鋭い人なんだね。どうしようシュウ。次に会った時、シュウが質問攻めにあわない?」
「あー、大丈夫だろ。そのくらいなら聞かれてもすっとぼけられる」
そもそもそんなに親しくないしな、と生姜焼きを口に放り込んで、うまっ、と呟いた。
そこで漸くモスがクラフトを終えて合流してきた。
「全部出来たでござるよ。お腹すいたでござる」
「ありがとう。シュウとシャモアは先に食べてるよ。ね、着てみていい?」
「当然でござる。小生はご飯にするでござるよ」
食事中にも関わらず、私達はそそくさと着替えた。
「おー! 流石リディスだな。全員カッコいいぞ!」
「ふふ。そうでしょ? 一番の自信作はモスなのよ」
名指しされたモスは聞こえないふりで、生姜焼きを食べている。もちろん着替えてない。
どうせ明日から着ることになるのに。
「じゃあ全員揃ったし、最後、俺からいいか?」
どうやらシュウからも何か報告があるらしい。
神の国で何かあったのかな。少し心配になる。
二週間もいなかったから、余計にシュウの有り難みが分かった。いてくれるだけで、安心感が全然違うのだ。
また暫く会えない、なんて言われたら嫌だな。
そう思っていると、全く予想外のことを言い出した。
「俺、強くなったんだ」
「? シュウが強いのは初めから知ってるさ?」
「いや、そうじゃなくて……。レベルアップもしてないのに、ステータスが上がったんだよ」
レベルアップじゃなくて?
何が言いたいのか分からない。だってそんな事ありえないでしょ。
「それ、ご飯食べた後だったんじゃ?」
「違う。気づいたのは深夜だから。それでな。ここ二週間でアオ達狂気的に強くなったろ? 俺達に何か予想外の事が起こってるんじゃないかと思うんだ」
確かに強くなった自覚はある。けど、レベルも装備も上がったし、進化もしたし、思い当たる要因が多かったので深く考えてこなかった。
「アオ、今のステータス、裸でどのくらいある?」
私はステータス画面を呼び出した。
ステータスを見るのは久しぶりだ。進化した時も、後がつかえていたから、種族とスキルだけ確認して、ステータスまで見なかった。最後に見たのはレベル60になった時だ。あの時も強くなったと喜んだものだったけど。
久々に見たステータス。その数値を見て、私は固まってしまった。
NAME アオ(ロキ)
HP 45,319 MP 6,008
STR 700 DEF 510
VIT 582 INT 624
AGI 640
「嘘。一週間前の三倍近いんだけど……」
レベル60の時はHPは15,975だった。そこからまだ一週間しか経っていない。
「やっぱりか。それ、俺とほとんど変わらない」
シュウがため息をついた。途端にみんなが色めきたった。
それぞれステータス画面を呼び出して自分の数値を確認し出した。
「マジか! 俺もだ!」
「小生もでござる! STR 722!」
「何で?」
「来た、俺たちの時代」
訳がわからない。
でも嬉しい。
こんな異常事態が起こるなんて、何かやったんだ。知らない内に。
シュウも微増しているってことは、シュウも一緒にやったけど、私達の方が沢山したってこと。何を?
拠点で寝る?
それならもっと早くに効果が現れていた筈だ。
レベル60までは普通だったから、飛躍的な伸びはここ一週間ほどのこと。
その辺りに始めたこと。
何も思いつかない。
何だ?




