進化
ウルフ攻略イーグル攻略が終わると、次は暴れウサギ攻略だ。
自分と同じ姿の相手をボコるのは、流石に気が引ける。
最速でウサギ特訓を終わらせるべく、私はいつもの五割増しくらいに真剣に取り組んでいる。
ウルフよりも暴れウサギの方が弱いので、本当ならウサギ攻略が先だったと思うのだが、ノアなりに気を使ってくれたという事だと思う。
解体しながら絶対時間が明けるのを待っていると
ポンッ。
ノアから電子音がした。
「リディスからメッセだ。……早く解体を終わらせろ。急いで合流するぞ」
「何かあったの?」
ノアがソワソワしている。
パタパタ揺れる尻尾で、急かされる。
「進化だ」
「何が?」
「良いから急げ」
いや、説明プリーズ!
「遅いわよ! 待ちくたびれちゃったじゃない」
「悪い。で、後どのくらいだ」
「バトル一回分だぞー」
ブランは身体を地中に入れたまま、頭だけ出して嬉しそうにしている。
ブランだけじゃない。みんなソワソワ嬉しそうだ。一人意味が分かってない私は、かなりな置いてけぼり感。
「よし行け。二分で戻れよ」
「分かってるー」
ブランはぴょーんと穴から飛び出すと、そのまま野良モンスターに向かって突進していった。
始めて見たけど、走るブランの後ろ姿って可愛いな。
「……バトル始めちゃった。ノア、そろそろ教えてよ。進化って何?」
「このバトルでブランがレベル20になるんだ。モンスターはレベルが20になると進化する」
「進化って、強くなるってこと?」
「いや、種族が変わる。例えば俺は元ウルフだ。進化してワーウルフになった」
それって、ここ最近ボコって来たあのウルフ?
四足歩行じゃん! 獣じゃん!
「すごい出世だね」
「まあ上位種だからな。順当な進化だ」
「モグラの上位種って何?」
「さてな。必ずしも上位種に進化する訳じゃない。性格やそれまでの行動なんかで決まる様だが、よく分かっていない。リディスなんて元キラービーだぞ」
「え――」
それはすごい。
進化最強だ。私も早くウサギを脱却したい!
「じゃあブランが何に進化するか、分からないんだ」
「開けてからのお楽しみだな。ほら、バトルが終わったぞ」
目を戻せば、ブランが首根っこを掴まれて、リディスに空輸されて来た。
「始まるわよー。穴はまだある?」
「大丈夫だ。飛び込め!」
「人形! 人型! 頼むー」
人型人型と念じながら運ばれて行ったブランに続いて、私も穴に飛び込む。
分かる。私も人型になりたい!
穴に飛び込むと、進化はすぐに始まった。
ブランの心臓あたりが白く輝き出したと思ったら、そこからぴゅんひゅんと光の帯が飛び出して、ブランを包み込んでいく。
ブランはあっという間に、大きな光る繭玉の中に収納されてしまった。
今、あの中で進化していて、次に出てくる時は別の種族に変わっているのか。
なんか進化って、昆虫の変態みたい。
「そろそろ終わるんじゃない? カウントダウンしましょうよ。じゅーう」
リディスの音頭で私のテンションもあがる。
「人型! 人型! きゅーう!」
「イケメン! イケメン! はーち!」
「来い! ヒーラー! なな!」
二人で拳を突き上げながら、カウントダウンする。
短いもふもふのピンクの前肢を、えいえいおーのカタチにしながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
「毛虫! 毛虫! ローク!」
シャモアって闇が深いな。
「そーれ! ごー!」
ポン。
いきなり繭玉が割れた。まだカウントダウンの途中なのに……。
中から現れたのは、小さな男の子だった。
三角帽子をかぶっていて、なんだか白雪姫に出てくる七人の小人みたいな感じ。
金髪に茶色の瞳。
「え? これブラン? 全然別の生き物じゃん!」
ブランは自分の小さな手をニギニギして眺めたあと、
「きたあぁあああ! 人型――!」
とガッツポーズでジャンプした。
あ、動くと普通にブランだ。
「やったぜ人型だ。ん? アオ、お前デカくなったか?」
「ブランが縮んだんだよ」
「マジか!」
モグラの時も小さかったけど、今は更に小さくて、五歳児並みのサイズになってる。
立ち上がれば私の方が大きいかも。……耳の分だけね。
「小さいね」
「小さな」
「ざんねーん、折角雄だったのに、イケメンじゃないわ」
「チビダ」
みんなでこき下ろすが、目が優しい。
ブランの進化をみんなが喜んでいる。仲間っていいなぁと私はしみじみ思った。
「なんか、この姿ならアオに乗れそうだな」
「本当だね。ちょっと乗ってみてよ」
私は四足歩行に切り替える。
背中にブランが馬乗りに乗ってきたけど、全然重たくない。
「進め、アオ号――!」
「あいあいさー!」
狭い穴の中を走り回る。
わあ、これ楽しい。わ、わわわ。
どーん。
壁に激突してしまった。
「おい、ちびコンビ、ちょっと落ち着け」
ノアが溜息をついて呆れている。だって、嬉しいじゃない。進化なんて、物凄く貴重な体験なんだから。
「ブラン、ステータスを確認してみろ」
「そっか。ちょっと待てな」
ブランが呼び出したステータス画面をみんなで覗き込む。
「ノーム?」
「土の精霊だな。スキルはなんか増えてるか?」
「んっと、あ、アビリティが増えてるな。『状態異常耐性レベル1』だ」
ツティーシニー平原では状態異常をかけてくるモンスターはいないけど、きっとこの先エリアを進めば、そんないやらしい敵も出てくるのだろう。
かなり有効なアビリティな気がする。私も欲しい。
「スキルは『挑発』が増えてるわね。魔法はやっぱりないのね。精霊の癖に情けないの!」
「挑発って事は、ノームはタンクなのか。意外だな」
「DEFとVITの伸びが良いし、そうみたいだなー。俺タンクかー。これからもリディスとシャモアと組むならバランスいいな」
「だな。じゃあ装備はガチガチの重装備だな。ブラン手持ちあるか?」
「ちょっと待てな」
「明日からはどのくらいのヘイトを稼げるか検証しないとね。ちゃんと護りなさいよ」
タンクって何だろう。ヘイトって何だろう。
よく分からないけど、私は一言も聞き逃さないように、ウサギ耳に力を入れてみんなの話を聞いた。
私が一番素人なんだから、ちゃんと聞いて、ちゃんと考えて、ちゃんと覚えよう。そして早く、みんなの会話に入れるようになりたい。
「質問です!」
私はビシッと手をあげる。
「ブランがモグラじゃなくなったって事は、今夜からは野宿なの?」
三人は一瞬きょとんとしたが、すぐに苦笑した。
「そうだよなー。こっちで勝手に盛り上がってごめんな。アオとシャモアは進化初めてだもんな」
「うふふ。大丈夫なのよ。進化してもすでに覚えているスキルはそのまま使えるの。見た目だって元の方が好きだったら、戻せるのよ」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「いいのよ。気になった事があったらいつでも聞いてね。知識はみんなで共有するっていうのがルールなんだから」
優しい申し出なので、遠慮なくタンクやヘイトについて教えてもらった。ついでに『脳筋』って言葉も教わった。
戦闘に役割分担がある事を初めて知った。強いエリアに行けば、どんなに個々が強くても、役割分担が出来ていないパーティはすぐに全滅するのだそうだ。なんだか知れば知るほど、この世界って奥が深い。
お読みいただきありがとうございます。
次回の更新は月曜日です。