表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/175

日課

 二週間ぶりのベル・ウェスは驚きの連続だった。


 アオ達がタオに狙われている事態にも驚いたし、そのタオに勝利したのも驚愕だ。

 それに続く進化も、現実の面倒な悩み事を吹き飛ばすくらいに楽しかった。


 今俺がいるのはベル・ウェス内の自室。

 ベル・ウェスではいくつかの条件を満たせば、自室が与えられる。十畳くらいの狭い部屋だが、ベッドとコンテナと風呂、それに小さな転移クリスタルがある。


 俺は転移クリスタルに近づくと、クローズクエストを呼び出した。


 ベル・ウェスには蘇生手段がない。その救済策なのか、クローズクエストという練習場が設けられている。

 経験値もドロップも手に入らないが、死亡(デス・ペナルティ)のリスクなく大型と戦うことが出来るものだ。


 いつくもあるクエストの中で、俺は『弔いの賛歌』に通う事を日課にしていた。

 弔いの賛歌は、惑いの森というフィールドに、合計十一体の大型が配置されているクエストだ。森をぐるりと一周しながら、次々に大型を倒していく。


 クローズクエストは、ある程度のレベルになれば、誰も利用しないシステムだが、俺はそれをソロでタイムアタックするのを日課にしている。

 無駄な動きを廃して、効率よく倒していく修練だ。

 こうした努力の積み重ねが、強さに繋がると信じている。


 今のところ三十五分三十六秒が最短の記録だ。

 二週間ぶりだから、四十秒台が出せれば良い方だろうな、と考えながら森を走った。


 いつもより、若干力が入ってしまうのは仕方がないと思う。アオ達のあんな成長を見せられては。


 進化以前の問題で、アオ達は物凄く強くなっていた。


 以前は強いと言っても主に立ち回りの話で、レベル99のプレイヤーとは埋められない溝があった。

 ところがいきなりその差が埋まっていた。いや、僅かながら追い抜いてさえいた。


 普通スケルトンは一撃では崩れない。大剣か斧ならなんとか崩せるが、他の武器では二撃目が必要になる。

 当然レベル60程度のみんななら、三、四回は打ち込む必要がある。ところがアオ達はみんな一撃で崩していた。

 二撃目が必要なのは一番一撃が軽いアオだけだった。レベル60の装備をしているにも関わらず、だ。


 この二週間でステータスが爆上がりしたとしか考えられない。


「このままじゃ、どっちが寄生してるか分からなくなるな」


 それは困る。

 そうなったら俺はアオ達と遊べなくなってしまう。強者にくっつく弱者にはなりたくないのだ。


 俺は次々と大型を倒しながら、自虐的に笑った。


 大型のモンスターは、プレイヤーの何倍ものステータスを持っているのが普通だ。アオ達もモンスターなのだから、プレイヤーと成長速度が違っていて当然だ。


「くそっ、ノア。お前本当にもう一歩だったんだぞ!」


 多分境目はレベル60だったのだろう。

 この二週間で爆上がりしたのだから、きっとそうだ。


 ノアを失った夜の後悔を思い出しながら、俺はクエストを終えた。タイムを確認する。


「え? 三十四分五十三秒? マジか」


 最高タイムが出た。久々だったし考え事をしながらだったのにも関わらず、まさかの記録更新だ。


「なんでだ?」


 装備も特に変えていないし、普通に倒しただけだ。思い返してみれば、いつもより一撃少なくて済んだ相手もいたように思う。

 俺はステータス画面を開いた。


「……んあ? ステータス上がってる」


 ステータスが軒並み五から十パーセント上がっていた。

 俺はレベル99だ。装備も最強と言われるものを揃えている。つまり新要素が実装されない限り、これ以上強くならない状態なのだ。それなのに、ステータスが上がっている。


 装備に何かの補正が入ったのだろうか。俺は裸の状態でのステータスを確認してみたが、やはり上がったままだった。

 上がったのは装備ではなく、俺自身のステータスだという事だ。


 二週間の間に何か調整が入ったのだろうか。それなら今日訊いた時、カツオが何か言っていた筈だ。


「俺だけ上がったのか?」


 俺が他のプレイヤーと違う点と言えば、ギルドに属していない事。後は……アオ達の存在を知っている事。


 こうなると、モンスターの特性かと思っていたアオ達の急激な成長も気になってくる。


 俺たち六人だけが、変な成長を始めているってことか。


 俺たちだけしかしていない事なんてあるか?


 いや、あるけれども。

 その中の何がステータスを上昇させたんだ。


 すぐにでも拠点に戻って、みんなと話したい衝動に駆られる。時計を見る。時刻は午前二時を過ぎたところだった。いくら何でも遅すぎる。アオ達も寝ている筈だ。


 明日の朝一番に連絡を入れよう、そう考えてゲームを終えた。とにかく朝一番だ。俺はそそくさと布団に潜り込んだ。


 そして目覚めた翌朝。意気揚々とインすると、一通のメッセージが届いていた。


 リディスからだった。


『今日は一日お出かけなのよ。バトルはしないからシュウも私達を気にせずに遊んでてね!』


 おおう。


 俺は自室の床に両手をついて項垂れた。

 何でこのタイミングなんだ。っていうか、お出かけってなんなんだよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ