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劇派手と超地味な二つの進化

 次はモスとシャモアだった。

 二人同時に進化が始まった。


 前回も思ったけど。

 私達はレベルが似たり寄ったりなので、進化するときは一斉だ。折角の大イベントなのだから、もう少しバラけていれば、コンスタントにお祭り騒ぎが出来るのに。


 ブランは私の時よりも大きな拠点を作って、二人の進化に備えていた。


 正直大きすぎるんじゃ? と思っていたが、とんでも無かった。

 モスを包む光が拠点を埋め尽くしている。

 壁から壁、天井まで、モスでパンパンだ。


「ヤバイよブラン、もっと広げて! 潰されちゃう!」

「い、今やってるさー」


 ブランが大慌てで穴を広げる。新しく広がった場所を追いかけるように、私達は隙間を何とか見つけて、身体を滑り込ませる。


 それでもモスの成長はとどまるところを知らず、穴を広げ続けるブランと、拡大し続けるモスのイタチごっこだ。


「やばいやばい! 圧死しちゃう! ブラン急いでー」

「どうしようも無くなったら、転移で逃げるぞ!」

「シャモアは無事かしら? モスの隣にいたわよね」

「ほんとだ! シャモアを動かさなきゃ」

「もう無理だ」

「もうモス、一体何になるのよ!」


 もう限界だ。転移しようかと考えた時、光が弾けた。


 中から現れたものには、翼があった。

 鱗に覆われた身体。鋭い爪と牙。

 水色に淡く発光している。銀に輝くたてがみの中には二本の角が見えた。


「ドラゴン!」

「アクアドラゴンだ」


 そこにいたのは間違いようがないほどに、完璧なドラゴンだった。モスがドラゴンになっちゃった! わっしょい!


「小生はドラゴンになったでござるか! これは僥倖でござる!」

「ちょっ、モス! 暴れないで! 小さく、元に戻って!」

「あ、これは失礼したでござる」


 モスは私達を踏み潰しそうになって、慌てて龍人の姿に戻った。

 ドラゴンの巨体が消えて、やっとシャモアが見えた。

 奥の壁に張り付くように、引っ付いていた。


「モス、酷い」

「も、申し訳ないでござるよ。不可抗力でござった!」


 シャモアは、シャモアのまんまだった。

 服装は変わっていたが、容姿はシャモアのままだった。

 それにも関わらず、シャモアも何に進化したのか一目で分かった。新しい衣装が忍者服だったからだ。


 取り敢えず地味な進化のシャモアは置いておいて、今はモスだ。


「モス、モンスターの頂点じゃん。すごいよ!」

「畏れ多いでござるよ。でも恥じぬように精進するでござる!」


 龍人からのドラゴン。順当な進化と言えるけど、全く予想してなかった。


「アクアドラゴン、でござるな。スキルは……」


 そう言うと、モスはステータス画面を見つめたまま、ピタリと動きを止めた。そして肩を振るわせた。


 泣いてる!


「うう……。光栄すぎるでござる。感無量でござるよ」


 モスのスキル欄に書き込まれたスキルは。


 ドラゴンブレスだった。


「お祝いだ!」


 祭りだーーー!


 私達は文字通り踊り出した。


 だって、こんな嬉しいことある?

 ドラゴンだよ。頂点だよ。それに仲間がなるなんて。さらにドラゴンブレスだよ!

 最弱だった目覚めし者の中から、まさかドラゴンが生まれるなんて。こんな素敵な未来、ノアにも見せたかった!


「モス! 私達の希望の星!」

「ニュースターの誕生だ! わっしょい!」


 感涙に打ち震えるモスを胴上げしながら、私達は感動の声を上げる。


「俺、家出する」


 シャモアがボソッと呟いた。

 やばい、放っておきすぎた。


「地味でごめん。家出して償う」

「いやいやいや!」


 ごめんね。だってモスが派手過ぎたの。爆派手なの!劇派手なの。ごめん!


「シャモアは忍びだな。鋼鎖と相性良さそうだ」


 こういう時、シュウの穏やかな口調は本当にありがたい。

 シュウに褒められると、それだけで気持ちがほわっとする。嘘を見抜くシャモアも、シュウの言葉が本心からだと分かるからか、素直に頷いた。


「スキルは【隠密】と【水遁の術】。水の中を歩ける」


 シャモアはちょっと誇らしげに胸を張った。


「水陸空、制覇」


 ドヤァ。

 良いドヤ顔だ。機嫌を直してくれたようで何よりだ。


「モスは? アクアドラゴンなら水中でも平気そうだけど」


 と、リディスがシャモアのプライドを逆撫でする質問をぶっ込んだ。


「どうでござろう。やってみなければ分からないでござる」


 後で海で試してみたところ、モスも問題なく水中で活動が出来た。


 モスも水陸空制覇だね。



――――――――――



 最後はブランだった。


 次でレベルが上がるとなった時、ブランは自分の為に巨大な拠点を作った。


 ドラゴンモスが二人は入りそうな大きさだ。


「こんなサイズ、一体何になる気なの?」

「俺土属性だからさ、ゴーレムとかさ。もしかすればタイタンとかになるかもしれないだろ?」


 ブランはディグナルもノームも小さかったので、大型モンスターに憧れているっぽい。


 まあ、モスの進化を見せられては、期待するなという方が無理だろう。

 特にブランはああ見えて、漢のロマンを持っている。


 そして始まったブランの進化。目の前の光の繭を眺めて、私は出てきたブランに何と声をかけようか、考え込んでしまった。


「小さい、よね」

「ノームより、チビだ」


 一メートルにも満たない小さな光。


「……第一声は、カッコいい! にしようか」

「それが良さそうでござるな」


 そして、繭が弾けた。

次は月曜日に更新します

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